隣の芝生は青く見えるもの
リュック【刻印・神出鬼没】に手を突っ込み、弓【刻印・百発百中】と矢筒を取り出し、唯に渡す。次いで抜き身の長剣四本を出し、地面にザクザク刺していく。
唯を除く周囲の目が驚きに彩られる。やはり注目を浴びてしまったか。欲に眩んだ目ではないのがせめてもの救いだな。
「……それは《魔法鞄》だったのか。珍しい型だと思っていたが」
「ええ、まあ。出来れば内密に願います。俺みたいなのが持つには分不相応な事は理解してますし、何より力づくでこられると困るんで。珍しい型なのは異国のモノだからでしょう」
手頃な大きさの石を懐に入れつつ答える。ほー、と感心した声が上がった。
【刻印】を秘匿する為にあれこれ考えていたが、コレに関してはどうやっても効果を隠し通すには無理があると結論付け「珍しい異国の品」で押し通す事にした。
なあに。最悪、製作者である事がバレなければ良いのだよ!
なるべく人前では使わない方針だが、出し惜しみして危機に陥っては本末転倒。尾行者の動向も不気味だし、ここは「見敵必殺・即殲滅!」の心構えでいこうと思う。
腰に佩いた剣を抜く。
──さて、やるか。
「唯は今回、弓を使って。焦らなくていいからしっかり狙うこと。なんだったら命中補正のヤツを掛けとこうか?」
「お願いするわ」
この会話は周りを意識したもので、唯もそれは理解している。ちなみに唯の弓の腕前は、俺と同じく初心者並み。
【刻印】は知られると色々面倒だからな。全国の付与魔術師の皆さんに正面から喧嘩吹っ掛けるような真似、誰がするか。
「そんじゃ俺も……【自由自在】」
地面に刺した四本の剣と、手に持つ剣を宙に浮かす。実はこれも【刻印】付きだけど。ポーズは大事。
尾行者──ゴブリン達はあれで隠れているつもりなのだろうか。こちらを気にし過ぎてか気配がダダ漏れだし、中にはチラチラと顔を覗かせている者も出る始末。
こんなのにあまり時間は掛けていられない。そこそこ距離はあるが構わず剣を飛ばす。避けられる事を想定していたのだが、あっさりと一匹の命を刈り取った。動揺したところに唯の放った矢が刺さり、続いて俺の剣が襲い、と一方的な蹂躙となった。
「うむうむ、圧勝」
戦場を見下ろし満足げに頷く。
さて、討伐の後は魔石回収のお仕事が待っている。誰にさせようかな?と頭を捻っていると、警告の声が飛んできた。
「下から上がってくるゴブリン二小隊、確認しました!」
「上からも来てるぜ!こっちは三匹だけど杖持ちが居る!残る二匹もゴブリンにしちゃ身体がでかい!」
ぬぅ、やはり居たか別動隊。しかも別方向から同時、更に杖持ちだと!?……あ、マジだ。ゴブリンメイジとは厄介な。左右を固めているのはホブゴブリンか。こいつらもちと面倒くさい相手だな。つーか何でこんな所にウジャウジャ居るんだよ!?
「カイ、リツ、唯。三人だけで下を制圧出来るか?」
「出来ます。ですが上位種をトオルさん一人で抑え込む事になりますよ。何か策があるのですか?」
「とにかく一番厄介なメイジだけでも速攻で潰す。ホブゴブ相手には時間稼ぎに徹するつもり。だけど余裕があれば殺るし、無理だと感じたら下に逃げる。追って来たところで全員でボコろう」
手元に戻した長剣、それぞれをリュックと鞘に戻し、新たに革の丸盾を出す。勿論これも【刻印】付きだ。
これ以上は問答してる時間もない。三人に言霊をあれこれ付けて下の掃除を任せた。
彼らは坂を駆け降りて行き、俺は坂を駆け上がる。狙い通り、メイジは俺を標的に定めたようだ。
こちらを向き朗々と詠唱を始めるメイジ。俺の耳にはギガギガ言っているようにしか聞こえないが、メイジの周りに水球が幾つも浮かび上がる。
その光景に、身勝手な想いと知りつつも嫉妬の炎がメラメラと。
……ゴブリン族の詠唱はゴブリン語でOKなんスか?言葉の壁に阻まれて魔術の正道から弾かれた俺からすれば、何かすっげえ納得いかねー!




