初心者講習
最近、建築ギルドの職員の態度がおかしい。どうやら化け猫屋敷の噂を聞きつけたと思われる。これまでは言動の端々に「帰ってくれないかなあ」と厭そうな態度を匂わせていたのに、急に契約に前向きになって、更に大幅な値下げまで提案してきた。但し理由は伏せたまま。
建築ギルド職員「例の物件、またぞろ妙な噂が出てきたし、こうなったら現在唯一の買い取り希望者が噂を聞きつけて手を引く前にさっさと売っちまえ。ちゃんと値下げはしとくからね?後で詐欺だ何だと騒ぐなよ?「不自然なまでに安い物件=瑕疵物件」って事くらい言われなくても知ってるよね?」
俺「告知義務とか無いんですね?だって俺よりよっぽどこちらの常識に明るい人がそう態度で示してるんだから!ならば俺が自分の所業を黙っていても問題ないよな!」
一見にこやかに、されど内心では互いに黒い笑みを浮かべ。きっと心の声は一致している事だろう。
“契約さえ交わしてしまえばこっちのもの”──と。
いやー、互いの思惑が合致してるんで話が進むのが早い早い。今までのらりくらりと引き延ばされていた分も相俟ってとみに早く感じる。トントン拍子で話が決まり、改装案については大筋合意した。
悩みの種であった懐事情も分割払いでOKとのこと。但しあちらさん、一回目の支払いの金額をやや多めに設定してきた。逃げられる前に少しでも回収したいという思いが透けて見える。
無理をすれば出せぬ額ではない。だけどオール電化ならぬオール魔導化を計画しているこちらとしては、そちらの費用の為に少し余裕を残しておきたい。
結局この問題は日を跨いで持ち越し、魔道具の購入先であるアインズ商会からも人を出してもらって予算を決める事になった。
保証人には以前約束した通り、フローラさんになってもらおう。
何はともあれ、夢の風呂付きマイホーム実現に向けて大きな一歩を踏み出した。後は金を稼ぐだけだ!
あれからまた暫くが経過した。その間、依頼や副業をこなしつつ訓練場に日参し弓を引く毎日を送る。目標に向かって着実に前進していると実感出来ているので、忙しくも充実した日々だった。
そして、今日から初心者講習の始まりだ。講習は全部で一週間の予定で、その間はギルド内の施設に泊まり込みとなる。はじめ五日間は午前中に座学、午後からは実技を叩き込まれ、最後の二日は実際に野外に出ての総合実習となる。
教えを受ける初心者は俺と唯の他に六名が参加し、講師役兼教官役はギルド員四名。あと、ラストの実習の際には現役の冒険者が協力してくれるそうだ。
なんか部活の強化合宿みたいで、年甲斐もなくワクワクしてきた。学生時代って部活動とは縁がなかったからなー。
座学の時間は色んな知識を教えてくれた。初心者講習と銘打っているだけあって、とても分かり易い講義だった。これだけでも講習に参加した価値はあったと思う。
野草・毒草の見分け方。魔物の習性や食生活といった視点から縄張りを判別する方法。近辺に出没する魔物の種類と対処法。効果的な罠の仕掛け方──等々。
一番興味深かったのは、初心者によくある依頼失敗例。個人名は伏せつつ、過去にあった出来事を紹介して、失敗の原因や改善点を皆で議論する授業だ。
何とコレ、今回初めて導入された授業でヒューイが提案者らしい。
以前、頼まれて作った啓発ポスターによって、ミーティングの重要性を大勢の者が理解したのは良いが、一部の議論下手が問題になっている。
失敗した者を吊し上げたり、しつこい追及に対して逆切れしたり、ただ愚痴をぼやくだけだったり、報酬の分配しか興味がなかったり。……いつかパーティー崩壊や刃傷沙汰が起こりそうで怖い。
そういった問題を少しでも減らそうと、この初心者講習でも議論の作法を学べるよう知恵を捻ったらしい。ヒューイには後で感想を伝えておこう。
実技の時間では、教官とマンツーマンで技能を磨いたり、同期を相手にした個人戦、新人達を二手に分けた連携訓練やパーティー戦などを行った。個人戦では負け越したがパーティー戦ならばなかなかの勝率を誇った。
戦いぶりを見ていた教官に、回避能力の高さを誉められた。「命が懸かってますからね。必死で鍛えました!」と言えば、凄く同情の籠った目をされた。
そんな感じに五日はあっという間に過ぎ、今日はいよいよ総合実習の日。
早めに訓練場に集合してストレッチで身体を暖めつつ、先輩冒険者の到着を待つ。
隣でソワソワした様子を隠せない同期が話し掛けてきた。
「ヘヘッ、誰が来るんだろーな?なあ?お前は気にならないのか?」
「んー、初心者講習に付き合ってくれるんだから、あんまり酷い人は来ないだろ。弱い者苛めするタイプはギルドが弾いてくれるだろうし」
「いや、そうじゃなくて。ソレも大事だけどそうじゃなくて!どんな有名人が来るかって事だよ!」
「お前な、よく考えろ?初心者講習だぞ?報酬は雀の涙だぞ?一流どころが来る筈ナイナイ。面倒見の良いお人好しか、酔狂な物好き、小銭稼ぎのどれかだろう」
ヒラヒラ手を振って、彼の期待を打ち砕いておく。
コイツ、お調子者気質だからな。期待爆上げからの溜め息&ブーイングのコンボやらかしたら承知しねえ。気ぃ悪くして意地悪されたらどうすんだ。
心配になったので注意を促していたら背後から声を掛けられた。
「お早う、透さん。何してるの?」
「お早う、唯。何かコイツがまだ夢を見ているそうだから」
「あ、おっはよ~。ユイちゃん!今日も美人だね!」
「お早うございます。──うん、今日の天気は良さそうね。夜もこのまま続いて欲しいわね。雨の中の野宿は辛いから」
「確かに。でも大丈夫だと思うよ。一応調べたし」
「あら、それは朗報。透さんの天気予報は外れなしですものね」
「あの変わった靴を飛ばすだけで判るなんてスゲーよな!農夫や漁師に売れんじゃねーの?」
「無理、無理。俺の言霊魔術は時間制限付きだって言ってるだろ。持って帰った頃には効果が切れてる」
「あー、そっか。……あ!じゃあ、呪い師に変装してお告げをするとか!」
「お礼が現物支給になりそうよね」
肩をすくめて苦笑する唯。……穫れたての新鮮野菜か。それらを唯が美味しく調理──有りだな。
「なかなか良い案だ。保留で」
「おっ、よっしゃ!」
「透さん……」
そんな馬鹿話に興じていたら、訓練場にギルド員と共に、二組の現役パーティーが姿を見せた。彼らが今日、明日の実習にお付き合いしてくれる方達か。……って、何か知ってる顔触れだなー。
「おっ!よう、最弱王じゃねえか!」「えっ?どうして君が?」「……ハァ」
「テ、テディ様。あの方は!?」「ああ、うん。何で居るのかな?」「あ!トオルじゃーん。久しぶりー」「ご無沙汰しております」
わぉ。本当久しぶりだ。うーん、思わぬ所で再会出来たな。暫く会っていなかったけど、変わりないようで何よりだ。
それはそうと、彼らと二日間、共に行動するのか。実力的には頼もしいけど、俺を嫌ってるのも居るからなー。楽しく過ごせたら良いんだけど。
もう二度と予告なんてしない!(>_<)
プロの物書きの人って凄いんだな~と改めて思った。




