別れ~巣立ちの刻
「……はい~。それではお説教はおしまいです~。色々とうるさく言いましたが、本音を言うと、とても便利な物を作ってくれて感謝してるんですよ~?」
「そう言ってくれて何より」
いやー、真面目に毎日練習しといて良かったー!反復練習、マジ大事。酔っ払った状態でも成功したのはひとえに日々の努力のお陰だと思う。
あと、ちょうど宴会の準備中にスキル【特殊】のレベルが上がったのもあるかな。上げるのに結構時間が掛かったけど、その分、性能にはっきり違いが出た。【自由自在】でテーブルを運んでいたら、急に感覚が変わって壁にぶつけてしまった位に。後で色々確認しとこう。
割符の片割れはそのままリオ達に預ける事になった。保護者様への報連相の手段が出来たのは良い事だ。量産の暁には是非とも、唯は勿論、ヒューイやフローラさんにも持ってもらいたいと考えている。いざという時の相談相手が多い事は良い事だとクリスも賛同してくれた。
ついに出発の時がやって来た。俺達も門の傍までお見送りにと付いて行く。女性陣が楽しくお喋りしてる後を少し遅れて歩きながら、昨夜の失態を思い返す。
(まさか記憶が飛ぶまで飲まされてしまうとは。ほ、他には何も粗相してないよな?……覚えてないってマジ怖いわ)
悩みに悩んで、ケイとルーに昨夜の様子を聞いてみる。何か無礼を働いていたらどうしよう?と内心ビクビクしながら聞いてみたが、もしそんな事があったらその場でソッコー無礼討ちにしている、とのこと。前々から思っていたけど、この人達の周りって死亡フラグ建設予定地が多すぎじゃね?俺、よく生きてんな。
「これで暫くはお別れかぁ。トオルの間抜けっぷりは見ている分には面白かったけど、目を離すのがこれ程不安になるとはねぇ」
「トールが変ニャ失敗したら、ウチらの教育が足りニャかったと思われるニャ。呉々も常識の範囲での失敗に留めるニャ!」
「……お前ら、言いたい放題だな。まあ、うまいこと誤魔化せるよう頑張るよ」
はてさて、誤魔化す必要があるのは、周囲の視線か、自分の心か。
知識面は時間の許す限り叩き込まれたが、それらを価値観や倫理観レベルまで落とし込む事がまだ出来ずにいる。二十年以上掛けて築き上げた価値観を崩すには色々と覚悟が足りないようで。
それにより会話が噛み合わない事もしばしば。一つ一つ折り合いを付けて受け入れていくしかないのだが、中には「それを受け入れるなんてとんでもない!」なんて問題もあるからなぁ。
「それとこれは忠告ニャ。トールの基本争いを好まニャい、お人好しの性格は広く知れ渡っているニャ。ニャにより弱い事を本人が隠そうとしてニャいくせに、魔道具モドキをフツーに持ち歩いているから、悪意を持って近付いて来る奴らにしたら、いいカモニャ。身の回りには充分に気を配るニャ」
「ブツだけかっぱらってくのはまだ良い方で、○したり、○めたり、○害してでも奪い取る!なんて輩が出てくるかもしれないんですね。分かります」
「また茶化して……。本当に分かってるのかい?町中でも安全とは限らないんだよ?知らない人には付いていかない、危ない場所には立ち寄らない、危なくなったらすぐ逃げる、大声を出して助けを呼ぶ、うまい話には裏がある、人を見たら泥棒と思え。それくらいの心構えでいるんだよ?」
何でこんな心配されてんの?ケイは一体俺を幾つだと……いや、まずはこっちにも「いかのおすし」みたいな防犯意識があった事に反応するべきか?それとも、もしや唯に入れ知恵されたばっかで、単に使ってみたかっただけ、とか?
「心配されるのは悪い気はしないけどさ。台詞がまるきり、子供に「はじめてのおるすばん」を任せる親そのものだよ?いつから子持ちになったのさ?」
「アハハハ!ホントそれだ、言えてるね。トオルの頼りなさに引き摺られちまったかね?」
「それは困るな。旅先でも心配のあまりヘマをしたとしても、俺は責任を負えないからな?」
「ニャハハ。トールにしては言うじゃニャいか。でも言い分にも一理あるニャ。ケイ。ここはトールがどんニャ失敗をやらかすか楽しみにすると良いニャ。きっとトールは期待を裏切らニャい筈ニャ」
「そうそう。ルーみたく軽ーい気持ちで見守っていてよ。良い意味で期待に応えられるよう頑張るからさ」
ニコニコと朗らかな笑顔に見えるようにと意識して表情を作る。思った以上に心配されてちょっとビックリした。自分ではポーカーフェイスを決め込んでいるつもりでいるが、実は内心の不安がダダ漏れですか?
「……もしどうしても心配だというなら、暫くは毎日連絡を入れようか?」
「……いや、そこまでしなくていいよ。考えてみたらトオルに失礼な話だしね。全然信用出来ないって言ってるようなもんだ。連絡は緊急の場合を除き、控えるってことで」
「ん…了解。あ、着いたね」
会話の切れ目で足を止め、目の前の建物を眺める。王都の玄関口にあたるその場所は、今日も今日とて人々の往来を見守っている。
門に着いた。──着いてしまった。ここから先へは付いて行けない。
ついヘラリと自嘲気味の笑みが零れ、慌てて表情を取り繕う。
やはりこちらに来てからずっと傍に居てくれた皆と離れるのは正直言って心細い。だけど大切なお役目がある皆とはいつまでも一緒に居られない事は、かなり前から説明されていた。
その説明の際、他者への保護者役の引き継ぎを拒んだのは、誰でもない自分自身。「一日でも早く独立したいから」なんて、見え見えの建前を口にして、本音は皆との繋がりが切れるのを嫌がっただけだ。
(あの時も、今も、不安が胸を過るのは、刷り込みみたいなものなんだろうか)
些細な事で揺れてしまう自分が少し情けない。
これまでを振り返ってみても、親鳥の翼の下は安全……とは言い難かったけど、安心できた。温かくて優しい世界。だけどその温もりに甘えきっていては、ニートだった頃と変わらない。いい加減親鳥の下から這い出る時だ。
いわばこれが巣立ちへの第一歩!
旅立つのが雛ではなく親鳥というところが情けないっちゃ情けないが、だからこそ、ここで湿っぽい空気になっちゃいけない。見苦しい姿を見せちゃいけない。せめて笑顔で見送ろうと、敢えてチャラけた態度を取っていたが、その辺の心理も含め、全てお見通しされている気がする。向けられる視線が生温かく感じるのはきっと気のせいじゃない。
この微妙な空気をどうやって誤魔化そうかな?と、一拍迷った末にティアに目を遣ると、ふわり、と柔らかな笑みを浮かべ、ティアが口を開いた。
「気を張り過ぎですよ、トオルさん。それでは私のような子供でも気付いちゃいます。……それほどまでにお寂しいですか?」
「直球ですねティアさん!?……畜生!やっぱダダ漏れだったか!!」
天を仰いで吼え立てる。そんな俺を見てクスクス笑うティアと唯。……顔から火が出そうだ。
「あ~あ、あっさり認めてやんの。少しは粘るかと思ったのに。折角アタシ達が黙ってたんだからさぁ」
あんな「全て分かってますよ」みたいな顔されて、そんな気力があるものか。穴があったら入りたい。そんな気分でいっぱいです。
「そんじゃ、そろそろ行きますか。……ま、しっかりやんな。無理はしないようにね。いや、これはアンタには要らぬ世話か」
「まあね。唯もいるし、痛いのヤダし。安全第一でボチボチやってく」
「帰ったらまた稽古を付けてやろう。もし、腕が鈍っているようであれば……その時は分かっているな?」
「ハハハ、モチロン。ワー、タノシミダナー」
「ユイさんもお元気で~。……正直、ユイさんには時間があまり取れず申し訳ないです~。せめて火魔術を習得するまではお付き合いしたかったのですが~」
「そんな。こちらこそ成果をお見せ出来なくて申し訳ないくらいよ。至らない弟子でごめんなさいね」
「帰って来たらまた美味しい料理を食べたいニャ。あとお菓子も是非にお願いするニャ!」
「そうね。ならそれまでにもう少しレパートリーを増やしておきましょうか」
「わあ!楽しみです。良かったら作る時は手伝わせて下さい」
「あら、いいわね。ええ、その時は一緒に作りましょう」
それぞれが互いに無事を願い、再会を約束し、そのまま彼女達は門の中へ。最後にその背に「行ってらっしゃい!」と大きく声を掛け、去り行く背中を見送った。
おはなしは転がすより纏める方が大変だと思い知った回だった(×_×;)




