飲酒運転、ダメ、絶対
──翌朝。
「うあー、怠い。……えーと?昨夜はしこたま呑まされて?……駄目だ、最後の方が思い出せん」
昨夜の酒が残った頭で重たい身体を起こし、半覚醒のまま現状確認。
いつ、どのように部屋に戻れたのかは記憶に無いが、ちゃんと自分の部屋には帰ってこれたらしい。
身体の方は、少し胃の腑が重たいが【百薬之長】服用後ほどではない。これ位なら軽めの物なら食べられるだろう。
服も汚れた形跡は見えない。しかし着の身着のままで寝入ってしまったので服が皺だらけになっている。これはいけない。
今日はティア達を見送る大事な日だ。身嗜みをきちんとしておこうと着替えを手にした時に、ふとベッドの傍らに落ちていた物を見つけ、一瞬で血の気が引いた。
──何故コレがここにある?
そこにあったのは掌サイズの小さな板切れ。黒い板に白の塗料で『壱』と描いて半分に割った物。いつか【刻印・以心伝心】が使えるようになったらと作り置きしていた割符の片割れだった。
(何故それが魔力の籠った状態で転がっている?もう半分は何処へ行った?昨夜の自分は何をしたんだ!?)
記憶を探ろうとも酒宴の途中で途切れており、それが更に不安を募らせる。何を籠めたか全く覚えていないのだ。その為、迂闊に触れる事も出来やしない。かといって、いつまでも不審物を放置する訳にもいかない。
誰か事情を知らないものかと、急いで着替えを済ませて部屋を飛び出した。
まずは隣の唯の部屋を訪ね、朝の挨拶もそこそこに事情を話すと、昨夜俺を部屋に運んだのはリオなので彼女に聞いてみては?との有力情報をゲット。礼を残して踵を返し、リオ達の部屋へ向かう。
しかし「無茶ぶり御免」のお人が関わってる(かもしれない)となると、なんだか答えを聞くのも恐くなってきたでござるよ。
部屋に辿り着いた俺を迎えてくれたのはクリスだった。部屋の中には全員が揃っていて、最終的な打ち合わせの真っ最中。部屋に入れてもらい、終わるまで待つ。
ルートの確認、補足情報の伝達、はぐれた場合の合流ポイントなど、次々と情報を出し合い共有していく。
地味に見える地味な努力を地道に続けていく事が、地味に結果に響いてくる、とはヒューイ談。地味すぎてあまり実感が湧かない冒険者も多いんだとか。なんだかジミジミゼミが賑やかですね。
だけどやはり高ランクの冒険者達は経験則からか、無意識レベルでそれを理解しているそうで、自ずと密度の濃い打ち合わせを行うようになるらしい。
酒場で「ルーキー連中も見習ってくれたらなー」とぼやくヒューイに、「それはギルド職員の仕事だろ?啓発ポスターでも作れよ」とアドバイスしてやった。
なかなか広まらないのは、努力の成果が目に見え辛いからだ。統計出してグラフ作って情報を視覚化すればいい。
折角役に立つ情報を持っているのに、肝心のギルドが活かしきれていない。そう指摘すると、「いまいち勝手が分からん。試しに作ってくれ」と泣き付かれ、ブチブチ文句を言いつつ製作。
途中から興に乗ってしまい、ギルドで集めたデータと町で集めた噂話を元に壁新聞まで作ってしまったのはご愛嬌。
ヒューイに見せたところ反応は上々、掲示板に大きく貼られる事になった。ギルド職員やベテラン冒険者に質問するルーキーもちらほら出始めていると聞き、成果が出ているようでちょっと誇らしい。
「トオル、待たせたな。それで用件は何だ?……む?……ああ、コレの事か?何だ、覚えていないのか。部屋に向かう途中で、お前が私に話したんだぞ?何でも、遠くに居る者と瞬時に会話が出来る道具を再現出来そうだと言うから、「やってみせろ」と言っただけ……」
「酔っ払いに何やらせてんの!?」
懐から割符の片割れを取り出しながら、昨夜の状況を説明してくれたが、最悪の予想結果に、つい口を挟んでしまった。
頭を抱える。やっぱりか。予想はしてたけどやっぱりか!割符の片割れが見つからない時点で、どこか覚悟はしてたけど!
何でよりによってこの人に教えるかなあ?その後の展開は容易に予想が着くだろうに……って、あれ?今の台詞だと、リオは別に【刻印】である事を強要した訳でもないような……。
つまりあれか?正常な判断が出来ない程飲ませた挙げ句、ドライブに誘ったのがリオ。それを受けて、いきなり山道で爆走を始めた馬鹿が俺。さあ、悪いのは誰だ?
結局、事情を知ったクリスに、二人して怒られる事になったとさ。
ジミジミゼミ
人気の無い森に多く生息している。
樹の表面に擬態する、鳴き声が他の蝉に掻き消される程に小さいなど、とにかく目立たない蝉。
……とかみたく、好きに設定付けてくれてええんよ?壁│ω・`)
主人公を前後不覚にして作らせる流れは、「ヤベェ!後先考えず【刻印・以心伝心】の難易度上げたら、思った以上に主人公動かねえ」となってしまったが故の苦肉の策。
……ヘ、ヘタレでチキンな主人公が悪いんですよ!




