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幕間・ファンの存在


没ネタリメイク。

少し時期が遡ります。


 それはとある朝のこと。

 ケイとの訓練を終え、暫し身体を休めながら雑談に興じていた時に、ふと以前から気になっていた疑問を思い出し、良い機会だと思いぶつけてみる事にした。


「なあ、ケイ。訊きたい事があるんだけど」


「んー?何だい」


「以前、クリスには酒を飲ませるなって忠告してくれた事があったろ?あれって何で駄目なんだ?」


「あー、そういやそんな事言ったねぇ。うー、えー、クリス、未だに気にしてるから言い難いなぁ。……絶対アタシから聞いたって言わないどくれよ?」


 ……あれ?どうしよう、聞かない方がいいのかな?でも、万が一【百薬之長】が必要な時に知らないと困るし。

 そう、これはあくまで医療行為に関わる質問!決して興味本意で聞いている訳じゃないよ!だから勿論、守秘義務はちゃんと守りますとも!

 雑談の寛いだ姿勢から一転、居住まいを正し、真剣な面持ちで拝聴する。


「いや、そこまで気を張らなくていいよ?」


「気にするな。敢えて言うならコレは自己防衛の為だから」


「……あっそ。まず最初に言っておくけどクリスは酒が飲めない訳じゃないんだよ。そんなに強い方でもないけどね。ある程度過ごしたら、普段より明るい雰囲気になって、それ以上に過ごすと寝てしまう」


 おお、それは朗報。体質的に受け付けない、なんて理由でないのなら使用を躊躇わずに済みそうだ。……副作用?我慢してくれ。


「と言うか、害の無い、楽しい飲み方に思うんだけど……どこが問題なんだ?」


「ホントにね。だけど現にクリスには酒場を半壊させた前科があるんだよ」


「え゛?」


「正確に言うならクリスは起因となっただけで、やらかした存在は別にいるんだけどね。責任を感じたクリスはそれ以来酒を飲むのを辞めたんだ」


「いやいやいや!流石に端折り過ぎだろ。楽しく飲んでて酒場半壊、とか意味判んないから」


「うーん、問題は、クリスの歌なんだよねぇ」


 クリスの歌声はとても美しく、また時に魔術の詠唱までも歌で表現する事がある。それは古代語が理解できない俺でもついつい耳を傾けてしまう程、素晴らしいものだ。

 なんでも、古代語の修得に励んでいた頃、元々歌が好きだったクリスは詠唱にメロディーを付けて口ずさむという独自の暗記法を用いていたそうだ。すると、ただ諳じるより魔術の効果が高くなる事に気付いたらしい。


(ははあ。上手いこと特技と趣味がマッチしたのかな。勉強法としては正しい。暗記物は机に向かって猛勉強するより、遊びながら学んだ方が身に付く事が多いからな。英語が苦手な俺だってアニメのEDに使われていた洋楽は歌えるようになったし。カラオケで日本語を学ぶ人達だっているし。暗記と言えば語呂合わせも定番だったよなー。『富士山麓鸚鵡啼く』とか、『水兵リーベ僕の船』とか。『苺パンツの信長暗殺』はインパクトが強すぎて一発で覚えたわ。うーん、何もかもが懐かしい)


 学生時代をつらつら思い出し感慨に耽る。


「で、ね。一番の問題点が──風の精霊の中にクリスのファンが居るみたいなんだよね」


「……はい?」


「クリスが詠唱を歌うと、何処からともなく現れて魔術の後押しをしてくれるそうだよ。結構無理も聞いてくれるらしいし、最近じゃ別の属性の精霊にまで働きかけてくれるんだって」


「かなり熱烈なファンですね!?」


 例え火の中水の中、を地で行ってんなー。てか最後。お気に入りのアイドルのコンサートに友達を引っ張ってくるイメージが頭に浮かんできて凄く反応に困るんだけど。


「いつもはさ、魔術の行使と同時に歌っている訳だから、あれでも抑え気味に歌ってるんだよ。だけどあの日は楽しく飲んでただけだしねぇ……。ほろ酔い状態になったクリスが珍しくノリの良い曲を熱唱したんだよ。因みに言うと古代語でもなかった。それなのに駆け付けてきて、普段は聞けないクリスの本気を聴いて大興奮しちゃったんだろうね。酒場内に暴風が吹き荒れて、あらゆる物が吹き飛び、あるいは飛び交って。風が止んだ後の店内ときたら、もう──しっちゃかめっちゃかだったよ」


「うわぁ……」


「精霊を罰する事は不可能、でも誰かが責任を負わないといけない。結局クリスが多少の情状酌量込みの罰則を食らったんだ。その後、自ら禁酒の誓いを立てた──これが一連の流れだよ」


 少し不満げに話を締め括るケイ。気持ちは解る。だってクリスは全然悪くない。楽しく飲んで、機嫌良く歌っただけだ。


「成程、よっく分かった。知る人ぞ知るご当地アイドル、イーディスの歌姫・クリスが酒場でゲリラライブを敢行したら、駆け付けたファンが暴走してしまった、と」


「だけどそのファンはクリスのスポンサーでもあるし、現地の法では裁けない存在。結局クリスが責任を押し付けられた訳ね」


「いつもお世話になっている身ではあるのですが~、あの時は本当に困りましたね~。そもそも特定の精霊に愛される~。──これはとても稀な事でもあり~、何より誉れ高い事なのですが~、私はハーフですからね~。純血の方の中には~あまり良く思ってらっしゃらない方も居られました~」


 ………………。おかしいな。背後から聞こえちゃいけない声が聞こえるぞ。


「そ、それにしても!パターンとしては珍しいけど、言わば酒の席での過ちじゃん!?それに対して自分を甘やかさず、真っ向から向き合い責任を取る、あまつさえ断酒の誓いを立てるなんてクリスは凄いな!尊敬した!」


「そ、そうだろう!?うちのクリスは凄いんだよ!責任感は強いし、家事も何でも出来るし、おまけに美人だし!!いやー、素晴らしい仲間に恵まれてアタシゃ果報者だよ!」


 あはははは。一頻り、白々しい笑いを立ててからチラリと声のした方を向く。

 そこには先程までの話題の中心クリスが、隣に唯を侍らせお越しあそばしていた。


「遠目には何か真剣なご様子で教えを乞うているように見えましたので~微力ながら一助になればと思い、立ち寄らせて頂きました~が、どうやら勘違いだったようですね~」


 ニコニコニコニコ。

 普段と変わらぬ笑みなのに、受けるプレッシャーがまるで違う。ヤッバい、すんごく怒ってる?


「……ク、クリス?その、言い訳はさせてもらえるだろうか?」


「お聞きしましょう~。ですが、もし、納得が出来ないようであれば~……どうしましょうか~?」


 顎に指を添え「う~ん」と考える素振りを見せる。仕草は可愛いがプレッシャーは相も変わらず。身体の震えが止まりません。鎮まれ、俺の左胸。


「ほ、ほら!俺が使う魔術で酒を使った万能薬モドキがあるじゃん!?アレをいざという時にクリスに使って良いものか判断がつかなくて、話を聞いていたんだよ。以前ケイから、クリスに酒を飲ませるなって忠告受けてたから」


「……む~。ならまず私に聞くべきじゃないんですか~?」


「そ、れは、ちょっと……酒絡みの話は地雷ネタな場合がままあるし、まずは周りから安全を確認してからと思って……」


『成程。アメノウズメった、とかそういうのを想定してた訳ね?』


『人が安全策を選んでるのに、わざわざ妙な動詞を作ってまで踏み抜きにいこうとするなよ!』




 しどろもどろの言い訳の結果、一応考えがあっての質問だったとどうにか納得してくれたらしく、あの恐ろしいプレッシャーからは解放された。それと使用に関しては、「個人的な誓いより生命を優先して下さい~」とのお言葉を頂けたので、緊急時には遠慮なく使わせてもらおうと思う。


 で、折角なのでクリスに精霊に関して説明をしてもらう。目には見えない存在なので、今まであまり意識を向けた事がなかったからな。

 クリス曰く、精霊というものは総じて自我が薄く、確固たる自我を有しているのは精霊王のみ。後はその側近がかろうじて有している程度。

 そんな精霊がファンになる──という事はつまり、彼女に付いているファンの正体は精霊界の幹部候補生。いずれ未来の精霊王になる可能性を秘めている、かもしんない。


 追っかけ気質の精霊王。精霊界の未来が心配です。




アメノウズメ=乱痴気騒ぎ

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