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教え子


 唯の事情を粗方聞き終えて、今日はもう休んでもらおうと、ルーとケイのモフモフコンビに付き添いをお願いして天幕に連れて行ってもらう。所謂アニマルセラピーですね。かなり心が荒んでる様子なので是非慰めてやって欲しい。

 あっちは任せて、こっちはこっちでリオ先生とクリス先生によるお勉強の時間だ。お題は「犯罪奴隷の義務と所有者の責任について」


 犯罪奴隷の場合、いくら所有者との合意があっても刑期が終わるまでは解約出来ないという縛りがある。その間に何か問題が生じれば、所有者、つまり俺にも監督不行き届のペナルティーが課せられる。その分、普通の奴隷より値段が安い。

 他にも細々とした決まりが色々あったけど、大まかに纏めて言えば、

「悪ささせるなよ、逃がすなよ。どんな扱いすんのも勝手だが、何かあったら責任はそちらで持てよ」って感じだ。


 お安くついたのは良い事だ。その分、唯が自分を買い戻す事が容易になったという事だから。が、買い戻したところで今度は残りの数年間、やってもいない罪で身柄を縛られる事になる。……それは何かムカつく。


「先生、何か良い知恵はないでしょうか?」


「う~ん、一つは奉仕活動ですね~。与えられる仕事をこなせば~僅かですが減刑が認められます~。これには、とにかく量をこなす必要があります~」


「後は、誰の目にも明らかな証拠を揃える事が出来たなら無罪に出来るが、これは極稀なケースだな」


 誰の目にも明らかな、って無理ゲーじゃね?だって防犯カメラも無いんだよ?犯行時刻はおそらく深夜。都合良く目撃者が居ると思えない。

 捕まえる時は、

「お巡りさん、あいつです」「よし逮捕、有罪!」ってな具合だったのに、それを覆すとなったら、何でこんなに面倒になるんだ。

 ……もういっそ容疑者全員【心頭滅却】で自由意思奪って、強制的に自白させてやろうか?


「トオルがギルドカードをチェックする、という手もあるな。確か犯罪に関するスキルがあった筈だ」


 おお!そういえばそんなのもあったな。成程。スキル欄を見ればどんな悪事を働いたのか一目瞭然だ。

 この国では、十五歳以上からギルド登録が可能で、ギルドカードは身分証みたいな物だから、大体その年齢に達したら、何がしらのギルドに加入するのが自然な流れになっている。

 問題はどうやってカードを見せてもらうかだな。今度ヒューイあたりに相談してみよう。






 翌朝。日の出る少し前に目を覚まし、身を整えてから棍を手に持ち天幕を出る。


「おはよう」


 既に全員が起床していて、思い思いに過ごしていた。そんな中、槍を手にしたケイに近寄り、一緒に訓練前の柔軟体操を行う。

 今日のように、野外でも余裕がある限り訓練に休みはないが、相手は専らケイに一任される。理由はメイン武器の棍を優先的に鍛え上げる為……ってのが建前で、本音は彼女達の中でケイが一番、手加減が上手いからだったりする。

 強いて言うなら、リオとルー相手の訓練はハードモード、対してケイとの訓練はノーマルモード。更に出先の訓練時にはイージーモードまで引き下げられる。ちなみに興が乗っちゃったリオが相手だと、難易度は一手間違えれば即死級のルナティックまで跳ね上がる。


「それじゃ始めようか」


「お願いします!」


 一礼してから相対し、構え、棍と槍が交錯する。

 時には受け、避け、捌き、反撃し。立ち位置を変えながら、双方手や足を止める事なく技を繰り出す。傍目には拮抗した勝負のように見えるかもしれない。

 ……はい。ここまで言えば分かりましたね?今行われているこれは模擬戦などではない、只の演武だという事が。


 こ、これでも上達したんだよ?初めの頃なんか棍を合わせる事も出来なかったんだから!

 こっちが一、二、三、と丁寧に型をなぞってる一方で、あっちは一二三とお手本のような流麗な動きで打ち据えてくれた。

 漸く近頃、まともな演武になってきたこの訓練だが、慣れたからといって全く油断は出来ない。

 時には「同じ動きを繰り返していたら変な癖がつく」とか言って定期的に型を変え、前の型に引き摺られて間違うと全身を満遍なく打ち据えられ。気が入ってない半端な攻撃を仕掛けると、柄頭で容赦なく急所を抉られ。ええ。これでもイージーモードですよ?前もって動きは決められているし、ケイは手加減が上手いので、怪我しても痣ぐらいで済む。

 ハードモード以上の時は医療班が待機してる位なんですから。




「セイッ、ヤアッ、タァー!!」


 気声を発しながら、一つ一つの技で動きを止めないよう、続け様に連続攻撃を仕掛ける。ケイ師匠の清流のような動きに比べれば濁流のような泥臭い動きだが、丁寧にと心掛け、棍を操っていく。


「ハアッ!!」


 最後に大きく振るい、ガキンと柄を打ち合い、動きを止める。暫しそのまま睨み合い、ススッとお互いに退がり一礼。演武終了だ。


「ありがとうございました!」


「うん、お疲れ。漸く様になってきたね」


「はぁ、ふぅ。そう言ってもらえると、嬉しい、な」


 楽し気に目を細めながら褒めるケイに、息を弾ませながらも嬉しい気持ちを隠さず笑み零れる。

 今日の出来は自分でも良かったと思う。大きなミスも無かったし、最後まで集中が途切れる事も無かった。滅多に聞けないお褒めの言葉も頂けた。これも俺の弛まぬ努力が実を結びだした何よりの証……


「これもアタシの心の籠った指導の賜物だね」


「エエ、ソウデスネ。素晴ラシイ師匠達ニ恵マレテ、私ハ本当ニ幸セ者ダト思イマス」


 そんな風にじゃれ合いながら身を清めた後は、先程から空腹中枢を刺激している芳香の元へと仲良く引き寄せられていった。



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