言霊
話がどうにも噛み合わぬ中、あれよあれよと言う間に縄をうたれ、広場に連れてこられた俺。騒ぎを聞きつけたリオ達は、少し離れた所でガルドさんを詰問している。四対一ではガルドさんもタジタジだな。
広場の中心に座らされた自分の状態を再確認。終始無抵抗を貫いたので怪我はなし。身体の前で手首を縄で縛られているが、猿轡をかまされてはいない。つまりいつでも外せるので問題ない。防具の類いも身に着けたまま。つまりいつでも逃げられるのでこれも問題ない。だが短剣とリュックはガルドさんが持っている。短剣はともかくリュックは困る。あれには非常食をはじめ、便利な物や面白アイテムを沢山詰め込んでいるし、向こうから持ってこれた数少ない物の一つ、愛着もある。
何より逃げた時点でおつかい失敗。専属護衛であるリオ達の心証も悪くなる。
逃げる事はいつでも出来るが、迷惑になる事を考えると逃げられない。なので無駄に刺激を与えないよう大人しくしていたが、村の者が言う「ワタリ」という存在が気になりだした。
(どう考えてもそいつが原因だよな。ただ名前が同じってだけでこんな目に遭ってるんだから理不尽だ。両親が離婚した時に、ちょっとの手続きを面倒がって父方の苗字をそのまま使ってた弊害が、まさか世界を越えて、しかもこんな形で出るとは思わなかったよ!)
はあ~っと深い溜め息を吐くと、周りを囲んでいた武器を持った連中が一斉にビクッと身を竦ませた。溜め息一つで大袈裟な、と思わなくもないが、逆に言えばそこまで畏れられているんだな。ワタリって奴は。
ガルドさん達の方に目をやるといつの間にか人が増えていた。カリナさん、ジマ婆ちゃん、村長さんにフィン、ヨークさんの姿まであった。ヨークさんの顔色を見る限り、まだ本調子ではなさそうだが大丈夫なんだろうか?無理をおして説得に来てくれたのだとしたら……やべっ、ちょっとウルッときた。
でもガルドさんも、何気にそこまで俺を危険視してないよな。彼は間近で俺の魔術を見ているのに口を塞がないんだし。今の状態は恐慌状態に陥った村の皆を安心させるパフォーマンスなのか?だとすると、お互いに貧乏籤引いたね、ガルドさん。
「やれやれ。トオル、お待たせしたね。一応無害だという事は納得してもらえたから、今から事情を説明するよ。あと縄を解いてもいい許可も貰えたから腕を前に出しな」
「お疲れ様です。お願いします」
疲れた顔で笑いかけるケイを本心から労う。昨日からぶっ続けで厄介事が頻発してるからな。名前を名乗るだけで厄介事が起きるんだから、呪われてんじゃねーか、この村?
「『ワタリ』と言うのは百年程前にこの村の近くで行き倒れになっていた若い男だそうだよ。こんな山奥に何の用事か?故郷は何処だ?とか聞いても頓珍漢な返事しか返って来なかったらしい」
「それって……」
(アウター?)
口には出さずに視線で問うと、縄を切る為に傍に寄り耳元で小さく囁く。
(はっきりと分からないが恐らくね。神殿の方に当時の記録が残ってないか王都に戻ったら確認するよ)
自由になった両腕をさすりながら小さく頷く。
「で、そのワタリってのがどうしようもない奴だったらしくてね。拾われた身のくせに働かないわ、人の物を盗むわ、暴れるわで、かなり迷惑を掛けたらしいんだよ」
「ほう」
おや、どっかで聞いた事ある話ですね。最近だと、親父の通夜の時かな?
「そんな鼻つまみ者が、ある日フラリと姿を消したんだ。村の人達は皆、安堵したそうだよ」
「ふんふん」
「だけど数年後、またワタリがやって来た。今度は大勢の野盗共を連れてね。村は荒らされ、抵抗した村人は殺され、女を捕まえ拐っていった。それ以来この村は余所者を見る目が厳しくなったんだってさ」
「うっわー。恥知らずの恩知らずだな」
「因みにこの話は今でも家々で語り継がれていて、『悪い子の所にはワタリが来るぞ』と脅されるらしいよ」
どうりで子供に泣かれる訳だ。なまはげ扱いかよ。しかし……。
(かつて世界を亘ったかもしれない奴が居て、そいつの名もワタリで、この村では「ワタリが来るぞ」と言われ続けていた、って)
「言葉に宿る力『コトダマ』だっけ?本当に有るのかもしれないね」
神妙な顔で頷いた。やっぱりそう思いますよね。




