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クルタ村の人達


 激痛に襲われながら激しく暴れる男の身体を、弟君──フィンと一緒に抑え付ける。次第に抉れた肉が盛り上がりみるみる傷口が塞がってゆく。


「カハッ!ゲッホ!……う、ぐ」


「兄貴!俺が分かるか?」


「……フィン、か?」


 うっすら意識を取り戻した男──ヨークさんが咳き込みながら傍らに立つ者を見やる。しかし未だ顔色は青白く、身体が小刻みに震えている。


「失礼。これを飲んでくれ。多少、副作用が強い物ではあるが、今のあんたに必要なものだ」


 【百薬之長】の残りをヨークさんに差し出す。彼には低体温症、感染症、内臓損傷のおそれがある。何より血が足りていない。


「……こ、れは?」


「言ってしまえば欠陥品の万能薬。効果は保証する。副作用については……明日解る。飲んで」


 震える手で受け取り、一口舐めて、飲み干す。そのまますぐに意識を手放し、安らかな寝息を立て始めた。顔色が徐々に良くなっていくのを確認して、ホッと息を吐く。

 フィンと協力し寝台に横向きに寝かせ、手の届く場所に飲み水と桶を置き、注意点を幾つかと副作用を説明、口止めもしっかりする。副作用の内容を聞いた時に若干顔を顰めたが文句を口にはしなかった。


「こんなとこかな。じゃ後は任せた」


 ルーを伴い、さっさと家を出る。今日はもうこれ以上の働きは無理だ。流石に疲れた、ゆっくり寝たい。重たい体を引き摺ってリオ達の元へ帰る事にした。


 しっかし、続けざまに厄介事が続いたな。婆ちゃんが降ってきたのから始まって、山賊退治に人命救助に怪我人の治療。

 あれぇ?おつかいに来ただけなのに、まだ当初の目的を果たせていませんぞ?




 村長宅の一室を借り、床で雑魚寝……しようとしたのだがあまりの寒さに堪えきれずに毛布や毛皮、裁縫ギルドと錬金ギルドの共同試作品の敷きマットも出す。毛皮を敷き詰め、その上にマットを載せて、毛布に包まり漸く暖が取れるレベル。しかし一旦寝入ってしまえば疲れのせいか夢も見ない程ぐっすり眠った。


 一夜明けて。

 昨日の働きがそれなりに知れ渡り、敵意だらけの針の筵状態は解除された。巫女の専属護衛であるリオ達の顔を覚えていた人達が友好的に接してくれた事も大きいが、ヨークさんの救助と治療も村人の心を開く一因となったようだ。まさに情けは人の為ならず。

 宿を貸してくれた村長さんには村を訪れた目的を話してある。工芸品については村長さんは申し訳なさそうに「今の村の状態ではすぐに用意は出来ないが必ず揃えてみせる」と約束してくれた。

 暫くの滞在が決まったので、村の人達の好感度アップを目論み、改めて片付けのお手伝いを申し出る。村長さんは快諾し、「滞在中はうちを我が家だと思ってくれて構わない」とまで言ってくれた。


 そんな訳で村人達と共に瓦礫撤去に精を出す。ダークエルフのカリナさんが俺達と村人達の架け橋として動いてくれたお陰で、今のところ良好な関係。ドワーフのガルドさんを含む一部の人達はあまり歓迎していないようだが我慢はしてくれるようだ。

 作業の合間に話を聞いてみると、カリナさんはこの村の生まれではないが、種族的に長寿な為、今ではこの村一番の古株だそうだ。外見からは全く判断できないんですけど。

 褐色の肌は健康的な肉つきで、メリハリのある凹凸が扇情的な雰囲気を醸し出すナイスバディ。表情は基本凛々しくも、感情表現は豊かで、特に笑顔が可愛らしくて思わず見惚れたぐらいだ。

 嘘みたいだろ?こんな綺麗な顔をしてるのに、これで最長老なんだぜ?


 さて、そんなカリナさんは、何気に俺達、つーか俺に凄く興味津々です。ふと気付くと視線を向けてくる。その視線はどこか柔らかく、色めいたモノではないのは判るが、何故そんな目で見てくるのかが判らない。

 その疑問の答えは本人の口から聞かされた。


「ああ。やっぱりアンタはあの人に良く似ているね。黒目に黒髪、顔立ちもそっくりだ。懐かしいねえ」


 どうやら俺の顔を見ながら、誰かの面影を重ねているようだ。しみじみとそんな事を言ってきた。


「へー。俺はまだこの国で黒髪黒目の人とは会ったことがないんだけど、やっぱり居るんだ?」


 顔立ちも似てるって事は東洋系の人種も居るってことかな?こっちの人って会う人皆欧米系の顔立ちだから、最初見分けがつかなかったんだよね。まだ獣人や半獣人の方が見分けついたぐらいだし。

 そんな事を思っていると、村の若い衆が恐る恐る聞いてきた。


「……え?黒髪黒目って、もしかしてカリナさんはワタリに会ったことがあるんですか?」


「……?いや、昨日が初対面だよ?……って、あれ?俺、苗字名乗ったっけ?」


「え?」


「え?」


「え?」


 ……あれぇ?


 男は震える手でこちらを指差し。


「え?……ワタリ?嘘だろ?」


「えーと?嘘と言われても……俺の家名は亘理なんだけど?」


 その言葉に周囲の人間がズザッと一斉に退がる。ヒソヒソザワザワとする輪の中にガルドさんが歩み寄って来た。


「おぅ、どうした?余所者に何かされたか?」


「いえ。それが……」


 傍に居た者が耳打ちする。


「ああん?こいつがワタリだとぅ!?」


 ガルドさんが出した大声は輪の外に居た者達まで届いてしまい。


「ひっ!ワ、ワタリ!?」


「ワタリが出たぞぉ!」


「ビェエエン!お母さんごめんなさい~!」


 一斉に恐慌に陥った。


「畜生が!女子供は家に籠れ!男衆は武器を取れ!」


 ……何で!?



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