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残念仕様?


 一時の怒りに身を任せ、山賊の頭目を『肉体言語withそこらにあったモノ』で黙らせ、そこでふと我に返る。目の前には自らが作り出した血塗れの物体X。たまにピクピク動いているので死んでしまった訳ではなさそうだ。それを見つめていると、やっちまった感がじわじわ来て、慌てて自己弁護に入る。


(ヤッベ、やり過ぎた?で、でも悪いのは暴れていたコイツらだし、俺は出来る事をしただけだ。命も奪っていないし、うん、俺に落ち度はない、筈だ!)


 だと言うのに嗚呼、途中から村に着いていたリオ達や、一部始終を見ていたクリスの目が痛い。心なしか村人達の視線からも恐怖の色が見てとれる。

 村の復旧作業の手伝いを申し出るリオに、ドワーフの男は首を振る。


「あんまり余所者にウロチョロされても落ち着かねえ。あんたらは儂らとここで連中を見張っててくれりゃエエ」


「ふむ。確かに連中の仲間と間違えられるのも業腹だな。ならば見張りがてらトオルに教育でも施すとするか」


「えっ。そんな~。いいっスよ~。俺みたいな小者に皆さんの貴重なお時間を割いてもらうなんて大それた真似、とてもとても。へい」


 先程の騒動でヘタこいた自覚はあるのだ。思い切り卑屈な態度を取り、両手を突きだしフルフルと首を横に振り遠慮するが、肩に腕を回したケイに動きを絡み取られる。


「何もそんなに遠慮する事ないじゃないか。毎朝ちゃあんと時間を割いてやってるだろう?それなのに、あんな不様な戦い方をしてくれたんだ。アタシもちょいと色々お話しがしたいねえ」


 結局、にこやかな顔なれど目が全然笑っていない女傑達に囲まれて、正座で教えを拝聴する流れになりました。

 曰く、「無手で突っ込むなど~」だの「人質の存在を~」とか「怒りに身を任すなど云々」と続けざまにダメ出しを食らい、その度にいちいち「ごもっとも」「すみませんでした」「仰る通りです」と、ペコペコと平謝りのオンパレード。そんな俺達を遠巻きに奇異の目で見つめる村人達。

 そんな中、村の見廻りに出ていたダークエルフの女性がこちらに駆け寄り声を掛けてきた。


「取り込み中に悪いが彼の力を借りたい。瓦礫をどけるのを手伝って欲しいんだ」


 その瓦礫を使って一人の男を血達磨に仕立て上げた人間に頼むのか?剛毅だな。


「行ってこい。私達は捕らえた連中を見張っている。ルーも付いていってやれ」


「了解ニャ」


「分かった。案内を」


 立ち上がり彼女と駆け出すと、進路上に居た村人達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。そんな村の衆の態度に苛立ったような仕草を見せる彼女。


「村の連中の態度を詫びるよ。助けて貰ったのに申し訳ない」


 情けない、と嘆きながら、続けて感謝の言葉を口に乗せた。


「アタシの名はカリナ。アンタらが最初に助けたジマは隣の子でね。生まれた時から付き合いのある子なんだ。助けてくれてありがとうね」


 走りながらニッコリ笑ってそう言うが、……え?あの婆ちゃんをあの子呼ばわりですか?流石はダークエルフ。見た目と年齢が一致しないぜ。





 小さな村とはいえ特殊な環境下を駆け続けた結果、案内された場所に辿り着いた時には既に息が上がっていた。


「これは……キツい」


「だらしニャいニャア」


「外から来た人にはキツいらしいね。慣れりゃどって事ないんだが」


「……あの山賊共は、馬鹿じゃないの?こんな所まで、大荷物、担いで来る、根性があるなら、働いてろよ」


「言えてるね。フフッ」


 いや、これマジキツいわ。酸素が薄いせいか、なかなか呼吸が整えられない。

 地形効果でバッドステータス【疲労】と【呼吸困難】を与えるとか、ある意味最強の防衛機能だな。この村の自然環境って。

 もしかしたらあの賊共もコレの影響受けてたのかも。あれだけの人数が襲ってきた割には被害が大したことなかったし。村の外に居た賊共も、見張りや待ち伏せなんかじゃなくて、ヘバってただけなんじゃね?


「……ふう、はあー。ごめん、お待たせ。それじゃあ取り掛かろうか」


 目の前の倒壊した建物と周囲の様子を観察する。建物は完全には崩れきってはおらず、微妙な均衡を保っている。下手な事をすれば一気に崩れるやもしれん。

 周囲には篝火が焚かれ、一定の光量が辺りを包んでいる。


「中に誰か居る?」


「手分けして探したが、この家に住んでいた男の行方が知れない。呼び掛けても反応は無いが、恐らくは」


「むう。だったら上から少しずつどけていくか。少し離れた安全な場所から、建物が崩れないか見張ってて欲しい。それとそこら辺にどけた瓦礫を置くから人払いもお願い」


「分かったニャ」


 空き地を指差し指示を出す俺に簡潔に応え、周囲の人影に説明をしに離れていった。


(はあ。将棋崩しや棒倒しならやった事はあるけど、人命救助だからゲームみたいに失敗は許されないし。ホント何なの?このプレッシャー)


 内心でぼやきつつ【刻印・自由自在】を発動させ、上空から全体を俯瞰する。空き地から人影が離れた事を確認してから「よし!」と気合いを入れ直し、瓦礫の山に手を伸ばした。


 途中、「あれ?今の俺ってUFO○ャッチャーのアーム役?」と自分の姿を顧みて落ち込んだりもしてたけど、瓦礫の隙間から埋もれた男の姿を確認して弛んだ気を締め直す。


「要救助者、発見!」


 離れた場所に居るルー達の方に向き直り、聞こえるように声を張り上げる。ワッと歓声が上がり、ルーとカリナさんがこちらに駆け寄ってくる。

 建物の中までは光源が行き届かず見え難い。腰の【刻印・飛耳長目】の柄を握り締め発動、もう一度男に目を戻し、周辺の瓦礫をいかに切り崩すか頭をひねる。


「どんな様子ニャ?」


「意識は無いけど呼吸はしてるっぽい。出血もしてるようだけど怪我の具合はここからじゃ見えない」


「生きているんだな!」


 ホッと安堵した面持ちのカリナさんに内心の不安を押し殺し、頷きを返す。


(期待の眼差しが痛い!こういう時の応急処置って何すりゃ良かったっけ!?畜生!俺は素人だぞ!何でこの村にゃ神官はおろか医者すら居ないんだよ!)


 うろ覚えの知識を必死に思い出しながら、発掘の手も休めない。次第に中の全容が明らかになってきて、男の全身が見えた所で動きを止める。


「担架で運ぶ!手伝って!」


 男の右足はあらぬ方向に曲がっており、背中には大きな裂傷があった。呼吸は浅く、失血の為か顔は青白く小刻みに震えている。


(ヤバいヤバいヤバいヤバい!!素人が手を出せる領域じゃねえぞコレ!上級治癒術師が必要のレベルじゃないか!……アレならいけるか?いや、これだけ酷い怪我だと副作用が洒落にならん……!!)


 リュックから出した材料で簡易担架を組み立てながら、最悪の事態に頭を悩ませる。こちらの緊迫した空気を察して、松明を片手に遠巻きに見ていた村人達の輪が縮まる。


「そこ、通してくれ!」


 担架を運びながら人波を掻き分け、近くの民家を目指す。男を見る者達の目が諦めの色を映していた。


「ああ、ヨーク……」


「酷い怪我……あの状態なら、もう……」


「……だろうな。クソッ!」


 そんな声を聞きながら目指す民家に目をやれば、そこの住人なのだろう若い男が扉を開き、中に手招きしていた。


「早く早く!……兄貴!しっかりしろよ!」


 担架に横たわる男に涙声で必死に声を掛けている。成程、言われてみれば確かに顔立ちが似ていた。


 家の中に大きなテーブルがあったので、ひとまずそこに乗せ、傷に障りが出ないよう姿勢を固定し、服を裂いていく。次にドロリと付着した血液を水筒の水で洗い流す。

 素人の俺に出来る事はここまでだ。……相手が赤の他人なら。

 だけど目の前の死にかけている兄に必死に声を掛け続けている弟君の姿を見ていると、どうしても他人事と割り切れない。

 チラリとルーに目配せすると、彼女もこちらを見ていて、やがて「ふう~」と深く溜め息を吐いた。


「このままだとその男は高確率で命を落とすニャ。だけど一つだけ助けられるかもしれニャい手があるニャ」


 付き添う男に静かに声を掛ける。途端、弾かれたように振り向き、真剣な眼差しで続く言葉を待っている。


「だけどソレは諸刃の剣ニャ。力及ばず死ニャせてしまうかもしれニャいし、最悪、生き人形の状態にしてしまう危険性のある代物ニャ」


 その言葉に俺も頷く。事実だ。現に人体実験に用いた盗賊の何人かは最終的にそうなった。

 彼は迷ったように瞳を揺らし、横たわる男に視線を落とす。一瞬、弱くか細い雰囲気を纏ったのも束の間、燃えるような目を向けてきた。


「……それでも助かる道があるのなら。どんな結果に終わろうと決して恨まないと誓います。……兄貴を助ける為、力を貸して下さい!!」


「トール」


 ルーに促され、リュックから酒瓶を取り出す。ついでに布切れを取り出し、舌を噛まないように、丸めて口に突っ込んでおく。


「多分、身体が大きく跳ねると思うから、落ちないように抑えつけておいて」


 弟君に指示を出し、酒瓶に魔力を籠める。


「【百薬之長】」


 これなー。マジきついんだよな。自らも体感しているので解る。これマジ残念仕様。つーか鬼畜仕様。

 どんな傷もかけるだけで治せます!精神がブッ飛ぶほど沁みるけど。

 どんな病も飲むだけで癒します。翌日、死にたくなる位の二日酔いに悩まされるけど。

 具合の悪さに比例して副作用も強くなる。正直、この兄ちゃんの傷具合でコレに耐えれるのかひどく不安だ。

 とは言え、他に手がある筈もなく。意を決して酒瓶の蓋を開ける。


「いくぞ。頑張って耐えてくれよ」


 そして瓶の中身をその身に撒いた。



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