夢アイテム
魔物に襲われ、馬車に置き去りにされ、街道のお掃除も済ませ。これ以上のロスは避けたいと街道を逸れ最短距離を歩む一行。
出会う魔物の群れも何のその。危うげもなく三日目には山の麓に辿り着いた。
そして王都を後にしてから四日目の昼。一行は最大の難所に差し掛かっていた。
「うぉい、何これ?何これ?道が無いじゃん!?」
「ん?前もって言っておいたろ?道と呼べる物じゃないって」
「その言い方ではまだ道らしき物はあると受け取れるんだ!崖じゃんか!?」
そう。今居る場所には目の前に断崖、横手に絶壁という光景が広がっていた。200~300m程先に向こう岸が見える。
「一応、足の踏み場はあるぞ?」
絶壁を指差しそう言うが、平均台レベルの細さだろ、それ。頼むからせめて工事現場の足場レベルにしてから言ってくれ。命綱もないんだぞ。
足下に気を付けながら崖下を覗き込んでみる。目が眩みそうな光景だ。うわぁ、身体の中が落ち着かない。そうっとゆっくり後退り、振り向いてから捲し立てる。
「馬鹿じゃないの!馬鹿じゃないの!こんな所にティアを連れて来たんかい!」
「馬鹿はお前ニャ。そんニャ危険ニャ真似、ティアにさせる訳ニャいニャ」
「山向こうから登るルートは比較的安全ですから~。ティアとはそちらから登りました~」
「……何でそっちから登らなかったんだ?」
「時間の節約。それにホラ、アンタは便利な魔術が使えるじゃないか」
尻尾をユラユラ動かしながら、何でもないように言われても。さてはコイツ、それが目当てか。
空を飛ぶのは誰もが一度は夢見るものだ。しかしこちらの飛翔魔術は扱いが難しく、一流どころでも自分一人を飛ばすのがやっとで、他者を飛ばす事が出来ない。
その点、俺の使う魔術なら、魔術の使えない者でも自在に空を飛べるようになる。その為えらく周囲に好評なのだ。特に自ら魔術が使えない者ほど顕著だ。
一度ケイに唆かされて冒険者ギルドで訓練所の一画を借り、『三分間の飛行体験(半銅貨五枚)』というアトラクション業をやったら一日で凄い稼ぎになった。後でクリスにばれて二人して大目玉を食らったが。
それからケイも自重してここのところは大人しかったのだが、どうやら大手を振って飛べる機会を狙っていたようだ。すっごくワクワクした顔してる。
そうかそうか。その為にわざわざ、こんな危険な道を選んだか。ならば俺も自分の愉しみを優先するとしよう。
「アッハッハ!これは凄いね!こんな面白便利な物を隠してるなんて酷いじゃないか」
「コレもお前の世界では有名な代物なのか?」
「有名だねー。空飛ぶアイテムとして挙げるなら三本の指に入るんじゃないかな?」
架空の代物だけどな。
○斗雲、○ケコプターに並ぶ夢アイテム。
そう、俺達は今、一枚の絨毯の上に乗っている。
「まともに山登りしてた事が阿呆らしく思えてきたニャ」
「本当ですね~。ですけど、こんな物まで持っていると知れたら~、貴族や商人達が黙っていないでしょうね~」
まあ、そうだろうな。だからこそ今まで人前で使えずお蔵入りになっていた代物だし。
幸いここは山の中。人目を憚る事もなく気儘に使える。このチャンスを逃してなるものか。俺だってお外で乗り回してみたかったんだもん。
目的地までは暫く掛かるようだし、試運転といこうじゃないか。
「トオルもルーもいい加減機嫌直してよ。アタシが悪かったよ。もうあんな真似しないからアタシにも操縦させておくれよ」
「やだ」「駄目ニャ」
即答です。二度とヤツには任すものか。
「謝罪は二人に対してだけか?」
「私達も怒っているんですよ~」
「うう~。悪かったよ」
誰もケイを庇わない。当たり前だ。
絨毯の操縦は中心に座っている者が出来る。折角の機会なので皆にも操作に慣れてもらおうと交代でやってみる事にした。
安全運転を心掛けろと言ったのに、ケイの奴はわざわざ崖まで移動して、急発進、急制動、急上昇に急降下と調子に乗り、筋力の無い俺と体重の軽いルーが絨毯から放り出される結果になったのだ。
慌てて【刻印・自由自在】と【刻印・疾風迅雷】を発動させルーを回収したが、毛を逆立て興奮したルーにあちこち引っ掻かれる羽目になった。
絨毯まで戻ると、リオに実力行使で操縦席を奪われ、クリスのガチモードの説教を食らうケイの姿が。腕の中にいたルーまで参戦し、お空の上での説教大会となった。
まあ、こんな物を作った俺としてはケイの空に憧れる気持ちも分からなくも無いし、一人でスリルを楽しむだけならとやかく言うつもりも無い。
絨毯の操縦は二度とさせないが、暇を見て座布団でも作ってやろうと思う。




