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ギルドへ行こう


 ──コンコン。

 ノックの音に目を覚ます。どうもあのまま転た寝してしまったらしい。返事をしようとしたら、その前に扉が開いた。


「なんだい、居るじゃないか。返事くらいしなよ」


「ああ、悪い。寝てた」


 入って来たのは、ケイとルーの二人だった。ルーは人の顔を見るなり近寄って、まじまじと見つめてきた。


「ニャンだ、オマエ。ニャいてたのか?」


「……そういうのは気付いても黙ってて欲しかった」


 流石に気恥ずかしくなり顔を逸らす。すると暫し逡巡した後、ピョンと肩に乗ってきて頭をぽむぽむ叩く。これは慰めてくれているのだろうな。弱ってる時に優しくされたら、また泣いちゃうんですけど。

 弛む涙腺をグッと堪え、努めて明るく振る舞った。


「ルー、ありがとな。んで、どしたん?」


「ああ、リオ姉から今日の訓練が中止になったと聞いたからさ。王都観光でもどうかと思って誘いにきたのさ」


「おー、いいな、それ。すぐ準備する」


「別にそのままでも構わニャいニャ」


「……いや、せめて顔は洗わせてくれ」


 泣き顔晒して町を歩けと?流石に勘弁して欲しい。




 それでは王都観光だ。

 まずは東区に移動。相変わらず祭りかと思う活気があるな、ここは。

 昼飯がまだだったので、ケイ達のお薦めの店に案内してもらう。何でも冒険者時代から贔屓にしている店だと言う。


「あいよ、お待ちどう!」


 出てきた料理は、質より量という感じで、神殿で出される物より味付けが濃く、大雑把ながら充分旨いと言えるものだった。

 ただ、野菜や肉がたっぷり入ったスープだけは味付けが強すぎたので、追加で牛乳を頼み薄める事にした。

 自身の料理の腕から、こうやってリカバリーする事は多々あるのだが、思い付きでやっちまうもんだからたまに何とも言えない味に、酷い時は恐ろしい味になる。


「なんだ、料理が得意ってわけじゃないのかい?」


「寧ろ下手だね。自分さえ食えれば問題ないってレベル。たまにそれすら出来ない時もあるし」


 『失敗作』は食えるけど『超失敗作』は食えない、みたいな。

 シチューもどきを食べる俺に、ルーが興味津々といった目を向けてきたが、勿論目は合わせない。自分が味覚音痴の自覚はあるのだ。試したければ自己責任でお願いします。



 「食った食った。お次は何処へ?」


「そうだねぇ、お薦めの店を一通り紹介しとこうか」


 食堂を後にし、人の流れに合わせながら歩を進める。二人はそれぞれお薦めの店を教えてくれ、買い物に、ひやかしにと楽しい時間を過ごした。




 中央区まで戻ってくるとそこにはクリスとリオの姿があった。そのまま二人も合流し、大きな建物へゾロゾロと入ってゆく。


「立派な建物だな。ここは?」


「冒険者ギルドです~。今日はトオルさんの登録をしようと思いまして~」


 さらりと告げられた内容に絶句してしまう。

 ……はい?聞いてませんよ?なんで本人の意思確認を無視してんの?逃げて良いかな?良いよね!


「逃がすか」


 踵を返す俺の首根っこをリオがガチッとホールドし、そのまま受付へと引き摺ってゆく。


「待って待って!マジ聞いてない!俺が荒事に向いていると思うのか!?」


「そのような反応をすると解っていたから黙っていたんです~。諦めましょうね~」


 ニコニコと笑いながら小さな子供に言い含めるように言ってくる。そのまま受付に一言、二言告げて、小部屋に連行される。

 暫くお待ちください、と職員が出て行き、扉が閉められた後、漸く事情を説明される。

 皆で話し合い、次のお役目までの期間を俺の教育に費やし、せめて半人前まで育て上げる事を目標と定めたが、彼女達と行動を共にする為には、どうしても冒険者登録が必要だと言う。

 そうすれば一時的に復帰した彼女達のパーティーの臨時雇のサポーターとして扱う事が出来るからだ。

 皆がそこまで面倒を見る気でいるのは、大変嬉しいしとても心強いのだが、何故にこんな騙し討ちのような真似を?ちゃんと説明してくれたら俺も男だ。腹を括ったよ?


「こちらの方が楽しいでしょう~?私達が~」


 そっすね!




「待たせてすまない」


 カチャリと扉を開いて入ってきたのは、短く刈り上げた銀髪に褐色の肌の若い男性だった。ギルドの制服を着てはいるが、均整の良い鍛えられた体つきで、正直鎧姿だったら冒険者と言われても違和感がない。


「ヒューイだ。今日から君の担当となる。どうぞ宜しく」


「トオルです。こちらこそ宜しく」


「トオル。ヒューイはここのギルド長の息子でな。口も堅い。前もって事情を説明して、優先的に面倒を見てもらうよう頼んだから、なるべくこいつの居る窓口へ行け」


「了解」


 知らないところで色々と心を砕いてくれていたのだな、と思うと、益々頭が上がらなくなる。


「それでは登録手続きに入る。こちらの書類の欄を埋めて欲しい。文字の読み書きは出来るか?」


「な、なんとか」


 読むのは全然問題ないが書くのは未だ不得手だ。例えるなら幼稚園児レベルの拙い文字。たまに形を間違えてはクリスに駄目出しをくらい、百回の書き直しを強いられる毎日です。

 クリスの視線を背に受けながら一文字、一文字、慎重に書いていく。全て書き終え、見直してからヒューイに渡す。彼はざっと書面を目で浚い、不備がない事を確認し頷いた。


「確かに。では次はこれに手を乗せてくれ」


 机の上に置いていた長方形の箱に水晶玉を埋め込んだような物体を指す。

 言われるままに左手を置くと、一瞬、水晶玉が淡く輝き、箱からカードが排出された。


「それが君のギルドカードだ。身分証にもなるし、ランクが上がればそれなりに特典もある。紛失すると再発行しなければならないが少々金が掛かる。気を付けてくれ」


 簡単に使い方を説明され、カードの表面をタップしてみると文字が映し出された。名前、年齢、種族、ランク、レベル、能力といった項目が並んでいる。

 ほうほう。まるでゲームだな。おお!何気にINTとMPが高い。

 興味深くカードを眺めていたら、後ろからひったくられた。


「リオ?」


 厳しい表情でカードを眺めている。その険しい顔つきのままヒューイに詰め寄った。


「トオルはこれまで何体か魔物を仕留めている。なのにレベルは1のままだ。壊れてないか?」


「レベル1?その歳でか?見せてくれ」


 うん、確かにレベルは1だった。こちらに来てまだ日が浅いからだと思っていたのだが……?


 機材を色々調べた結果、別に壊れているのではないらしい。わざわざそれを証明するためにクリスと腕相撲をとる羽目になった。勝敗は聞くな。

 つまり俺自身に何らかの問題があり、レベルアップの恩恵を受けられていないという事か。


「君の居た世界にはレベルの概念が無いのか?」


「無い。と言うか命を奪う事で強くなれるなんて有り得ない」


 そんな法則があちらの世界に適用されたら洒落にならん。街中で機関銃をブッパするだけでいいのだから。ヒャッハー上等な思考回路を持つ人間が跳梁跋扈する世界なんぞ御免蒙る。


「リオ。これでは流石に認可は……」


「むぅ。しかし……」


 何やら小難しい話をする二人を尻目に、手の中のカードを弄ぶ。何気なく指を滑らせると、画面が流れスキル欄を表示した。

 まるでTRPGのルールブックを見ている気分だ。あるわあるわ、細分化された膨大な量のスキルが流れていく。

 なんだよ、話術に詐術って?お喋りしてたら上がるのか?

 スキル名の横にはバーがあり、おそらくこれは熟練度を示すものだろう。スキルの大半は黒文字で、熟練レベルが1に至ると白文字に変わるようだ。

 ヒョイヒョイ画面をスクロールしていると脳天に衝撃が走った。


「あ痛ぁ!?」


 なんだと思い振り仰ぐと、仁王立ちしたケイとクリスの二人の姿があった。

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