第三話
*注意、引用符はエレメント語を表す(空理が習っている時)
次の朝、空理は起きてもしばらくはベッドに寝たままだった。まだ体が痛いこともあるけど、主な目的は今の置かれている状況をきちんと把握するためだ。
(何から考えればいいのか分からん。)
はっきり言ってこの数日の間にいろいろな事が起きすぎていて、まだ全てを整理しきれているわけではない。
(こんな時にはまず落ち着くことから始めるべきだな。とりあえずは、だれ、なに、どこ、いつ、どうして、どうやって、から答えてみるか。)
(えっと、俺は誰? 俺は土神空理。15歳。日本の中学生。土神流の師範代。家族は両親二人と妹が一人。)
自分のことが分かるので一安心。
(次は何が起きているのか。俺は今ベッドに寝ている。そして怪我を負っている。結構痛い。)
(そして、ここはどこ? 誰かの家だな。デザインは日本の家っぽくはないな。あー、そういえば昨日の二人は日本語しゃべってなかったな。あと、欧米人っぽかった。ひょっとしてヨーロッパ? でもヨーロッパ圏内で英語が通じない事ってよくあるのか? 特に若い世代なら英語は必須だと思っていたが・・・まあ、いい。次に行こう。)
(いつこの状態になった? 確か全国大会は二日前だったか? それで一日川辺を歩いて、その次の日は狼に襲われて怪我をした。それで助けられて(?)ここに連れられてきたのか? そして一度は起きて、また寝て今日はその次の日だと思うから三日目? あっ、これはどうして、どうやっての答えにもなってるのか? どっちでもいいか。)
(とにかく重要なのはここが日本じゃないって事と、俺は怪我でしばらく動けないだろうという事か。)
自分の質問に答え終わって一応この状況の理解をする。そして、落ち着いた頭で考えるのはここにはいない家族と恋をしている少女のこと。
(みんな大丈夫かな・・・心配のしすぎで倒れなきゃいいけど。母さんとユカは特に心配性だからな、大丈夫だといいけど・・・)
(皆、今どうしてるんだろう・・・会いたいよ。)
家族のことを思っていると段々気持ちが沈んでいく。そして真由のことまで考え始めるとその気持ちがさらに加速する。
「はぁ・・・結局告白できなかった・・・」
「真由・・・折角告白する勇気ができたのに。いつ家に帰れるか分からないけど、待っててくれるかな。でもそもそも、告白が成功しなかったかもしれないし。」
(というか、そうでも考えないとやっていけないよ。)
「真由は俺の事でただの幼なじみとして心配してるのかな・・・それとも・・・」
日本にいる皆のことを考えているとどんどん、どんどんと落ち込んでいく。
「ふぅ・・・」
ついに言葉さえもなくなって、口から出たのはため息だけだった。
そんなふうにベッドで寝ながら不毛な考えに陥っていたら、横からドアが開くような音がした。
そちらのほうを見ると、昨日の娘の方の女性が部屋に覗き込んでいた。それで負のスパイラルにはまりかけていた思考が一旦中断される。
「%#@&)#$*#($*?」
相変わらず言われていることは分からないけど、とりあえず笑ってみる。空理の笑顔を見ると、女性も笑って、部屋に入ってきた。そしてベッドの側まで椅子を持ってきてからそれに座る。
「アクエリ・ティアレイク」
と微笑みながら言って女性が自分の胸に手を当てた。
(えっと、名前かな?)
「アクエリ・・・ティアレイク・・・」
空理がそう言ったら女性(アクエリ?)が今度ははっきりと笑顔を浮かべた。
「アクエリ・ティアレイク!」
頷いてから、また自分の胸に手を当てて元気よく名前を繰り返す。空理も名前を教えるためになんとか手を自分の胸に手を当ててから名前を告げる。
「空理・・・土神、空理・・・」
「クウリ!」
聞きたかった事が通じて嬉しかったのか、アクエリが目を輝かせながら飛び上がるほど喜んだ。
「クウリ! クウリ! クウリ!」
嬉しさを表すかのように、空理の手を握って何度も名前を呼ぶ。それがおかしくてさっきまでの暗い気持ちが少し晴れた気分になって、思わず笑ってしまった。
「・・・はは。」
そんな空理の笑い声を聞いてアクエリが正気に戻って自分の行動に恥ずかしがった。赤面しながら俯いていると、励ましと感謝の気持ちを込めて名前を呼んだ。
「アクエリ。」
「クウリ・・・」
空理の気持ちが通じて、アクエリが顔を上げた。その顔はまだ恥ずかしさを残していたけど、笑っていたので安心した。そして少しの間見つめ合っているとどこからもなく----
・・・・・・くぅ〜・・・・・・
という音がした。空理のお腹の音だった。そういえば、ずっと何も食べていなかった。
その音を聞いたアクエリは立ち上がって----
「##)$*%&#*^&@#$)*(#@$。」
となにかを言い残して部屋を出た。
(あきれちゃったのかな? でも、やさしそうな人だし、多分違うと思う。もしかして、なにか食べ物を持ってきてくれるのかな? もしそうならいいけど。)
数分すると扉の向こうから何やらいい匂いがしてきた。これは、スープか何かの匂い?
(おいしそう・・・)
すぐ口の中によだれが溜まってきて、腹の虫の鳴き声がすごいことになった。
15分ほど待っていると、アクエリがドアを開けて食事が乗ったトレーを持って入ってきた。
それは空理が待ちに待っていた食べ物。すでにお腹が空きすぎていて、お腹と背中がくっつくような気持ちになっていたので、アクエリがまるで女神のように見えていた。
部屋に入ってきたアクエリはまたベッドの近くの椅子に座った。トレーに乗っているのは無職の野菜スープ、一切れのパン、そしてグラスに入った水見たいだ。
「よい・・・しょっ・・・」
食べるために体を起こそうとするけど、やはりまだ痛くてちょっと手間取る。そしたら横からアクエリが手を伸ばして空理の事を手伝う。
「ありがとう・・・」
通じないのは分かっているが、一応の礼儀として感謝の気持ちを言っておく。
「”ありがとう。”」
「えっ?」
アクエリが何か言ったみたいだったけど、聞き取れなかった。不思議がっている顔をしているとアクエリが空理を指しながら繰り返す。
「ありがとう・・・”ありがとう。”」
「”ありがとう?”」
空理の言葉を聞いて、アクエリが笑って頷く。それから空理は笑って頷き返す。
「”ありがとう!”」
雰囲気から自分が何を言ったのかを察してこっちの言葉での「ありがとう」を教えてくれたのかな? 何はともあれ、空理は最初のこの国の言葉を習った。それが嬉しくて胸がいっぱいになる。
「”ありがとう、ありがとう!”」
意思の疎通が出来るのが----たとえそれがたった一つの言葉でも----こんなに嬉しい事だというのは初めて知った。
ちょっとしてまた空理のお腹がその存在を訴えたので、アクエリは椅子に座り直し、空理の食事の用意をした。空理はそれに手を伸ばそうとするが、アクエリは空理の手を遮り、首を振りながら自分の胸に手を当てて----
「#%&^)@$*#(*%@。」
多分食べさせるつもりだろう。今の空理にはありがたいことだった。
「”ありがとう。”」
と微笑んで感謝する。アクエリも笑ってスプーンを取ると、何かを思いついて一旦手を止めた。おもむろに空理に体を向けるとスプーンを見せて----
「”スプーン。”」
空理はすぐにアクエリのやりたいことが分かった。彼女は言葉を教えてくれているのだ。
「”スプーン・・・”」
アクエリの言葉を繰り返すと、アクエリがまた笑った。アクエリは本当にいい顔で笑うので、それを見た空理もつられて嬉しくなる。
アクエリが次に教えてくれたのはスープの言葉だった。まずはスプーンをスープに入れてから、スープを指して「スープ。」と言った。空理がまたその言葉を繰り返すとアクエリはまた笑って、今度はスープを空理に食べさせてあげた。
最初の一口はこの世のものと思えない美味しさだった。空腹は最高のスパイスというが、なるほど確かにそうだ。普通のスープのはずが最高級レストランの食べ物の様に感じる。一口食べる度に栄養が体中に染み渡る感じまでした。
「おいしい・・・おいしいよ、アクエリ!」
必死に身振りなどでスープの美味しさを伝えようとする空理。アクエリは空理が云わんとする事を理解すると、また先ほどみたいにその単語を教えてくれる。
「おいしい・・・”おいしい。”」
「”おいしい?”」
空理がそう繰り返すとアクエリが頷く。
「”スープ、おいしい、アクエリ! おいしい! ありがとう!”」
空理の感謝の言葉とつたないスープの感想を聞いたアクエリは感激した。そして思わず空理に抱きつきそうになる体を止めてスープをもうひとすくい空理の口へと持っていく。
アクエリの言葉授業(?)はそれからも食事中続いた。「パン」、「コップ」、と続いて、食事が終わった後も部屋中の物の名前を教えてもらった。
* * *
休日のため遅く起きだしたアクィフォーレは空理の部屋の前を通り過ぎると、ちょうど中でその授業の続きが行われていた。部屋の中からは話し声が聞こえてきて、それは「”ベッド”」、「”・・・ベッド”」、といったふうに女の子の声に続いて男の子の声がした。
「なるほどね、言葉を教えてるんだ。随分と早くに打ち解けたもんだ。いいことだ、あはは。」
部屋の中の微笑ましい光景を少しの間見物してから、アクィフォーレは自分の朝食を食べるためにダイニングへ移動した。
しばらくするとアクエリがダイニングに現れて、ちょうど朝ご飯が終わったアクィフォーレが声をかけた。
「あの子に食事を持っていっていたの?」
「うん、全部食べてくれたわ。」
「そう、よかったね。それで「授業」のほうは? 随分と熱心に教えていたようだけど?」
と聞きながらニヤニヤするアクィフォーレ。
「み、見てたの?」
なぜかいけないものでも見られたかのように動揺するアクエリ。
「ちらっとだけね。それで?」
「クウリはとても素直でいい子よ。」
「ふーん、クウリっていう名前なんだ。名前を聞き出すのにそんなに時間がかからなかったね。それほどにあの子のことが気に入ったのね。それはなによりだ。」
「な、なによ、いけないの?」
「いいことだって言ってるでしょう? 恥ずかしがらなくてもいいじゃない。」
「ふん・・・」
やや拗ねた顔でそっぽを向いて、アクエリは自分の分の食事を用意するためにその場を後にする。
数分してアクエリが食事を持って戻ってくるとアクィフォーレは空理の様子を聞いてみる。
「それで、クウリ君の怪我の方の様子はどうだったの?」
「まだ体を動かすのは辛かったみたいよ。」
「そう。でも、あの大怪我から考えると、それも仕方がないかもしれないね。」
「そうね。むしろ今生きている事のほうが不思議だものね。」
「アタシが仕事に行ってる間はしっかりクウリ君の面倒を見るんだよ。アタシが家にいる時はできるだけ気にかけるから。」
「分かっているわ、お母さん。」
「それとも、全部アクエリに任せた方がいい? そうしたらあの子と一緒にいられる時間が増えるよ。」
最後の言葉は笑いながら言って、からかい目的だったとはっきりしていたので、アクエリがちょっと怒って返事をした。
「ええ、いいわよ。私が全部の世話をするわ。お母さんが入る隙なんかないくらい仲良くなってやるわよ!」
「あらら、開き直っちゃったね。それじゃあ、お願いしようかしらね。」
会話はそこでひとまず中断された。というか、アクエリが続けるのを拒否していた。その間にアクエリは食事を終えて食器の片付けなどした。
アクエリが片付けから戻ってくるとアクィフォーレがまた話しかける。
「さて、これからのことだけど、しばらくはクウリ君に言葉を教える事に専念するのがいいと思っているんだけど、アクエリは?」
「私もそれに賛成するわ。他になにかを教えるにしても、まず言葉が通じないと駄目だし。でも、私は教え方とかよく分からないわよ。」
「それは大丈夫じゃないの? アタシ、さっきのをちょっとだけ見ていたけど、今はその方法でいいと思うよ。今はとにかくいろいろな物の名前とかを教えて、ちゃんとした喋り方は後から教えていったら?」
「そうね。あとは読み書きだけど、それも後からいいわよね。」
「そうだね、多分その方がクウリ君に取っては分かり易いんじゃない?」
そういってアクィフォーレが椅子に居直ってから言葉を続けた。
「それでは、アタシもクウリ君の様子を見に行くとしますかね。アタシもあの子のことが気になるし。」
「そう、私は部屋に戻っているわ。何かがあったら呼んで。」
* * *
ついさっきアクエリが出て行ったドアを見ながら空理はアクエリに教えてもらった言葉を復習していた。
「”スープ・・・スープ・・・パン・・・パン・・・スプーン・・・スプーン・・・コップ・・・コップ・・・”」
言葉が分からないのがもどかしい。この国の言葉を習うのにどれほどの時間がかかるのだろう。
「やれやれ・・・英語でさえそんなに出来ないのに・・・ここにきて全く新しい言葉を習うはめになるとは。」
「その上、読み書きまで習わないと駄目となると憂鬱になるよ・・・」
しかし言葉が分からないままにもいかないし、言葉が分からなければ外に出る事も無理だ。せめて日本語とこの国の言葉を変換できる辞典でもあればなんとかなるのに、多分それは無理な頼みだ。
「はぁ・・・考えてても仕方がないし、とりあえず単語の練習に戻るか。」
単語の練習を再開して30分ほどして、また休憩する。延々と単語を繰り返すのがつまらなくなった。すると、すこし尿意を催した。まだ切羽詰まった状態にはなっていないけど、もう30分もすると危険になるだろう。
(そういえばトイレはどうすればいいんだろう・・・)
まだ一人で出歩く事も出来ず、トイレを探しにも行けない。妙な焦りを覚え始めた空理はアクエリを呼ぶかどうかを迷っていると部屋のドアが開いた。
ドアの方に向いていると、覗き込んできたのは昨日の母親のほうの女性だった。空理と目が合うと女性は部屋に入ってきて椅子に座る。
「#$)(*%、クウリ%#$)&。”私、アクィフォーレ・ティアレイク。”」
自分に手を当てて、「私」と名前らしき物を言う。ティアレイクはアクエリと同じなので、やはり親娘なのだろう。
「アクィフォーレ。」
女性の名前を繰り返して、空理も自己紹介をするために自分に手を当てる。
「空理。土神空理。」
それを聞いて、アクィフォーレが微笑んで、言葉を続ける。
「@#$&%*@#(^*、”おいしかった?”」
まだ少ない語彙では彼女が何を言ったのかははっきりと分からなかったけど、「おいしい」という単語らしきものだけは聞き取れたので、多分ご飯の感想を聞いているのだろう。
「”スープ、パン、おいしい。”」
微笑みながらそう答えると、彼女は大きく笑ってまた空理に抱きついた。ちょっとの間そうしてから空理を放し、彼女は椅子に座り直した。そして突然手振りを始めた。
まずは膝の上で四角を描いて、それを指して「”トレー”」という。空理が頷くと、今度はその上に「”パン、スープ”」といいながら、さっきのトレーの上に乗せる。そして今度はその全体を括りながら、空理がまだ知らない単語を言う。
「”ごはん。”」
前後の会話とアクィフォーレの手振りからそれが「朝食」、もしくは「ごはん」に相当する言葉ということを推測する。
「”ごはん、おいしい。”」
「”おいしかった。”」
「・・・・・・?」
「”おいしい、おいしかった。おいしい、おいしかった。”」
なるほど、過去形を教えてくれているのか。そう気づくと、空理はさっそくそれを使ってみる。
「”ごはん、おいしかった。”」
「あはは、うん、うん。」
と笑いながら何度も頷くアクィフォーレ。
そんなふうに笑い合っていると、空理はトイレに行きたかったことを思い出す。「トイレ」の言葉はまだ知らないので、知っている数少ない言葉と身振りで伝えようとする。
「”アクィフォーレ、私、水。”」
「水? @&@#$%@(@#^&^$(。」
やはり水が欲しいと誤解し、アクィフォーレが立ち上がるけど、空理が呼び止める。
「アクィフォーレ・・・ぶんぶん。」
首を振って違うということを知らせる。
「”私、水。水。”」
今度は自分の下半身を指しながら言う。さすがにそこまでするとアクィフォーレは空理が何を訴えているのかを理解する。一回頷いてからアクィフォーレは空理に近づいて背中に腕をまわす。その助けがあって空理が立ち上がる。そして二人はトイレを目指して歩き始める。
** *
一週間が経つと体の痛みが引いてきていて、一人でもなんとか歩き回れるようになった。会話ができるほどの言葉はまだ分からないけど、家の周りの物の名前や行為の単語が分かってきた。
そんな一週間が経った日、ただ部屋で寝ているのに疲れた空理は家の中を散策していた。散策といっても、家自体はそれほど大きい訳ではないのですぐ終わる。家には寝室が四つあって、トイレ、浴室、リビング、ダイニング、キッチンまで回れば見る物がなくなった。ちなみに外は広そうだけど、まだ家を出るのは怖いから外の事はよく知らない。
家の中を一通り見終わったら、ばったりアクエリと会った。すると、アクエリはちょっと怒った顔をしていた。
「クウリ! ”ベッド”@*#”寝て”@*$%@(^&”駄目”@#$%*@(^@!」
アクエリは空理が歩き回っているのを見つけると、怪我人は寝ていないと駄目と怒るのでちょっと困っているなどと考えながら苦笑する。そして、あきらめた顔をして空理は素直に部屋に戻る。
空理は部屋に戻るとすぐアクエリにベッドに直行させられた。空理がベッドに入るとアクエリは椅子に座り、空理と言葉の勉強を始める。この勉強は時々の休みと食事をはさんでほぼ一日中続く。これが最近の空理の一日だ。アクィフォーレは仕事で日中家にいないので、アクエリがその間空理の相手をしてくれる事はありがたいのだ。たとえそれが勉強のためだとしても。それにいくら勉強が嫌いでも、それが必要な事だと分かっているし、ほかにすることがないのも事実である。
アクエリが付きっきりで言葉を教えてくれるので、かなり速いペースでこの国の言葉を習っている。このままだと一ヶ月ぐらいが経った頃にはある程度の言葉が喋れるようになるだろうと空理は思っている。
今日の授業でアクエリは新しく読み書きを付け加えた。まだ満足に喋る事も出来ない空理はちょっと早いとも思ったけど、どうせいつかは覚えないといけないと思い、素直にアクエリに従った。それに、書き方を覚えればノートがとれるようになるので言葉の覚えが早くなるかもしれない。
勉強を教えている時のアクエリはいつも真剣な顔をしている。そしていつもその顔を向けられている空理は思った。
(アクエリってやっぱりすごく綺麗な人だな・・・)
笑っている顔もいいけど、こういう真面目な顔は本当に似合っている。背は175センチぐらいで、プロポーションもよく、どこかのモデルと言われても信じるだろう。そんなアクエリが真剣な顔をしていると格好良くもあり、やはり美しいと思う。空理がぼーっとしながらアクエリを見つめていると、アクエリが怒った。
「”クウリ! 私の話、聞いてた?”」
アクエリの怒り声で我に返ると空理はバツが悪そうな顔をして笑う。その顔を見たアクエリは空理が聞いていなかった事に気がついて、あきれた顔をしながらため息をこぼす。
「”クウリ、何、してた?”」
とっさに嘘をつくにも言葉が浮かばなかったので、恥ずかしくても本当の事を言った。
「”アクエリ、見てた。アクエリ、綺麗。”」
真っ赤になってそう言った空理は自分の事でいっぱいだったから分からなかったけど、アクエリは空理と同じぐらい赤くなっていた。そしてその顔は真面目さの一欠片もなかったけど、まぶしいくらい魅力的だった。
やがてアクエリはいたたまれなくなって、突然席を立つ。
「”少し、休憩。お茶、入れる。”」
部屋を出るときアクエリはそれだけいうと、空理の方を見向きもせず出て行った。
しばらくしてお茶を入れたアクエリが戻って来たがまだ調子が戻っていなくて、それは一日中続いてその話を聞いた仕事から戻ったアクィフォーレに爆笑された。




