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エレメント皇国物語  作者: rurata
第一章:エレメント皇国
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第二話

「ただいま〜。アクエリ、いる〜? ちょっと手伝ってくれない?」


空理を助けた女性が気を失ったままの空理を抱えて玄関の扉を開けると家の奥にいるはずの娘の名前を呼んだ。


「お母さん、どうしたの?」


と台所にいた様子の母によく似た17歳の娘----違いと言えば髪を肩で揃えていることぐらい----のアクエリがそこから玄関の方に覗き込んで、大怪我をしている男の子を運んでいる母の姿を見てびっくりする。


「ちょっとお母さん、その子どうしたの? すごい怪我をしているじゃない!」


「今日は森の巡回をする任務だったんだけど、その途中でこの子が魔物に襲われているのを見つけたのさ。あたしは慌てて助けに入ったんだけど、すでにこの子は重傷を負っていて・・・一応回復魔法を使ったが、あたしはそれほど得意って訳でもないし、応急処置ぐらいにしかならなかったんで、森に近いこの家に運び込んだ訳だ。」


今までの経緯を聞いてアクエリはとりあえず納得し、話の先を促した。


「えっと、ベッドまで運ぶのよね。」


「うん、手伝ってくれる?」


「分かったわ。お医者さんも呼んだ方がいいのかしら?」


「そうね。でも今は寝かせてから傷の手当と着替えをさせるのが先決だね。」


「そうだね。お母さんはその子をベッドまで運んで。私は水と包帯、あと着替えを用意するわ。着替えはお父さんの古いやつでいい?」


「それで構わないよ。それじゃあよろしく。」


「ええ。まかせて。」



医者によれば男の子の怪我は命に別状はなく、一ヶ月もすれば完治するという。応急処置の回復魔法がよかったためらしい。


「先生、ありがとう。悪かったね、こんなところまで来させて。」


「いやいや、街の警備隊隊長アクィフォーレ殿の頼みとあらば来ない訳にもいくまい。」


「はは、なぁに言ってんだか! どうせアクエリに会いたかったとかだったんでしょ。」


「ほっほっほっ。アクエリちゃんはどんどん別嬪さんになってきたからのう。儂があと30年若かったら彼氏に立候補するんじゃが。」


「先生じゃあ、無理無理。アクエリはああ見えて年下好みなのよ。なんていうの、お姉さんへのあこがれ?」


「----お母さん! いったい何の話をしてるのよ!」


空理が寝かせられている部屋まで届いていたらしい話し声にアクエリが抗議をする。


「おっと、聞こえてたか。それじゃあ先生、もし何かあったらまた連絡するよ。」


「うむ、アクエリちゃんならいつでも歓迎じゃ。それではの。」


医者が帰るのを見送るとアクィフォーレは空理の部屋へと戻っていった。


「その子の様子はどう?」


と聞かれてアクエリが母の方に振り向く。


「だいぶ落ち着いてきたよ。今はもう静かに眠ってる。」


「そう、よかったね。」


「それよりお母さん、今まではいろいろとバタバタしていたから聞きそびれていたけど、この子の事をどう思ってるの?」


「どうって、随分と曖昧な質問をするんだね。」


真剣な顔をして聞いてくる娘に微笑みながら茶化してみる。


「もう、誤摩化さないの。分かっているのでしょう? 私が気にしているのはこの子が着ていた服の事よ。私、今まであんな服を見た事がないわ。どう考えても変でしょ?」


空理の服装だが、日本のどこでも見られるジーンズに好きなバンドのT−シャツ、そしてその上から長袖のシャツを着ていたのだ。それをアクエリが変だと思ったのだ。


「そうね、確かにこの辺りでは見ない服よね。いやはや、不思議な事もあるんだね・・・」


と感慨深そうに言ったけど娘は誤摩化されなかった。


「「不思議な事もあるんだね・・・」じゃないよ! こんな服を作るどころか思いつく人はきっと皇国内のどこを探してもいないわよ! それがどういう意味かはお母さん、知っているでしょ! この子は人間のようだけど異邦人である可能性が高いのよ! そして異邦人は教会に渡さないといけないのでしょう? これはお母さんのためにも言っているのよ。」


一気にそう(まく)し立てて息が切れるとアクエリは母の返事を待った。そこまで静かに聞いていたアクィフォーレはにこにこしていた顔を直し、真面目な顔を作って娘に答えた。


「確かに服から見ればこの子が異邦人であることの可能性があるよ。」


「なら・・・!」


「でもそうと決まっている訳でもないでしょう?」


「・・・そうだけど・・・」


「それにこの子の傷の事もあるでしょう? 傷だらけのまま、教会に渡してもどんな扱いをされるか分かったもんじゃないよ。」


「確かに教会は異邦人の扱いに厳しいと聞いているけど・・・」


「そしてもっとも重要なことだけど・・・」


「なによ。」


「この子、かわいいじゃない〜〜〜!」


「! お母さん、結局それじゃない! なによ、偉そうな事言って・・・」


「でも、かわいいでしょう? アクエリもそう思うよね? なにせあたしの娘だし。」


「うっ・・・確かにちょっとかわいいけど、最後のは余計。」


「というわけで、この子はしばらくの間は家で預かるよ。もし本当に異邦人だという事が分かる時がくればその時にまた話しましょう。」


さきほどの真面目な顔がどこへ行ったのかを聞きたくなるぐらい陽気な顔でアクィフォーレがそういうと、あきらめたような顔をしてアクエリが嘆息する。


「もう、分かったわよ。お母さんがしたいようにすればいいわ。」


「さすがはあたしの娘ね! 分かってくれると信じてたよ!」


やや拗ねた顔をしてアクエリが眠っている空理の方へ体を向けると、空理が起きる兆しを見せ始めた。



* * *



寝ていると上の方で話し声が聞こえたので起きようとした。


「・・・・・うっ・・・・」


しかし体を起こそうとすると体のあちこちから悲鳴があがってすぐに起き上がるのをあきらめた。かわりに目をあけて声がしたほうへと視線を向けた。


(天使・・・?)


まだ起きがけで混乱が残っているのだろう。けどそこにいたのはそれほどにも美しい女性だった。歳は17、8ぐらいだろうか。顔は整っていて、目はぱっちりしている。金色のストレートの髪は肩の辺りでそろえていて絹のように滑らかだ。体の均整がとれていて誰が見ても綺麗と思うだろう。


この人は誰なのだろう。こんなに綺麗な人は知らないはずだ。ましてや、その人に起こされる覚えはまったくない。


というか、ここはどこだ? 家の部屋じゃないよな?

「痛ぅ・・・」


また起き上がろうとして体の傷が痛んだ。そういえば体が痛いんだった。どうしてこんなにも体が痛いんだ? どこかで怪我を負うような事が・・・あっ・・・あの化け狼!


「くっ・・・」


狼の事を思い出し、体が反射的に動いてしまい、傷がまた痛んだ。


「助かったのか、俺・・・?」


生きているのを実感して空理がお礼を言うためにベッドのそばに座っている女性に視線を向けた。


「あなたが俺を助けたのですか? どうもありがとうございました。」


女性からの返事をしばらく待ったけど、いつまでもやってこなかった。代わりにそこにあったのはまるで何を言われたのかを分からなかったかのような顔だった。


(もしかして日本語がわからないのか? どう見ても日本人じゃないし、そうなのかもしれないな。あとできるのは英語が少しだけど・・・)


「エキスキューズ・ミー。ドゥー・ユー・スピーク・イングリッシュ?」


しかし女性の反応は先ほどと同じく、言葉が通じていないようだった。


(これはまいったな。日本語も駄目、英語も駄目じゃあ、俺にはどうしょうもないぞ。)


その時、視界の外にいたもう一人がベッドのそばにやってきた。もう一人も女性で、歳は30代後半のように見えた。


(親娘なのかな?)


「#(*$&%^#$($&?」


今度訳が分からない顔をするのは空理の番だった。


「・・・・・・?」


「!@#!$!@#&$#)#%9*$@#?」


また何かを聞いてきた。心配そうな顔でこちらを覗き込んでいたので、手を握って出来るだけやさしい笑顔で笑ってみた。


「大丈夫だよ。助けてくれてありがとうございました。」


いきなり女性の手を握るのは少し大胆かと思ったけど他に思いつく表現方法がなかったから仕方なくそうした。


空理の言葉は多分伝わらなかったけど、その真意は伝わったと思う。そしてそれを証明するかのように、その女性(ひと)が感激したような表情を浮かべて空理に抱きついた。


「@#$)&%$&)@#(*^!&*」


(!!!・・・)


いきなり抱きつかれて傷に響いたけどそれを必死に我慢をした。せっかく相手が嬉しがっているのにそれに水を差したくはなかった。そして久しぶりに感じた人のぬくもりが空理にも心地よかった。

しばらくして娘の方が二人の間に割り込み、母を叱りながら空理を再びベッドに寝かせた。そのあとは頭を撫でながら何かを言ってきた。


(多分寝かせようとしているんだろう・・・)


額にやさしい手を感じながら空理は目を閉じ、再び眠りの世界へと旅立った。



* * *



男の子が眠りにつくとアクエリとアクィフォーレが部屋を出て居間に移ってから揃ってソファーに座った。そして一息をついてからアクエリはアクィフォーレへの説教を再開した。


「お母さん、怪我人にいきなり抱きつくなんてどれほど常識がないの?!」


「だってあの時のあの子の顔、すごく可愛かったじゃない〜。」


「た、確かにあの笑顔はすごく健気で可愛かったけど、それでも抱きつく理由にはならないわ! それにあの子の怪我の重さを一番よく知っていたのはお母さんでしょう。」


そこまで言って一拍を置いてからアクエリが言葉をさらに続けた。


「あと、ただ抱きついていたお母さんには分からなかったかもしれないけど、あの時抱きつかれたあの子は痛いのを我慢していた顔をしていたわ。それでも悪いとは思わないの?」


そう言われたアクィフォーレはさすがに少し自分の非を認めざるを得なかった。しかしその動揺を顔には出さず、反攻を始めた。


「もう、わかったよ。確かにアタシは少し軽率だった。でもアタシも怪我を悪化させないように気をつけていたんだよ? さすがのアタシでも考え無しで怪我人に抱きつくなんて真似はしないよ。」


アクエリはそれでも信じられず、母に疑いの眼差しを向けた。


「ふん、どうだか。私にはお母さんが何も考えずに抱きつく姿なんて簡単に思い浮かべられるわよ。」


叱られているアクィフォーレは娘の言葉を聞きながら娘の様子を伺っていた。どうも自分があの子に抱きついた事で傷つけたかもしれなかったことだけで怒っている訳ではないみたいだ。そしてその理由が何かを思いついたアクィフォーレはニヤニヤと意地悪な笑顔を浮かべて娘にそう指摘した。


「もういいでしょ? いいかげんに期限を直しなさいよ。それとも、もしかして違う事で拗ねてるのかな〜?」


「なっ・・・!」


図星を突かれたアクエリが赤面した。そして必死に反論しようと言葉を紡ぐ。


「な、なにをバカな事を言っているの? 私はただあの子の怪我が悪化しないかを心配しているだけよ。何を根拠に私が拗ねているなんて思うの? 第一、どうして私が拗ねないといけないのよ。バカバカしいわ。」


「ふふ、いきなり饒舌になるところとかが怪しい。やっぱり他に何かがあるんだ〜。一体なんだろうね〜。」


アクィフォーレはすでに目星をつけているけど、あえてそれを言わない事で娘へのからかいを長引かせるつもりなのだ。


「まさかアタシが余りにもあの子のことを気にするから、自分が構われないかもしれないという心配があったのかな? 「私のママを取らないで〜」とか?」


「違うわよ! なにバカな妄想をしているのよ。私はもう子供じゃないわよ。」


「ふ〜ん、違ったか〜。じゃあ、まさか今日一日アタシが仕事で家にいなくて寂しくて、やっと帰ってきたと思ったら知らない子と一緒に居たのが気に入らなかったとか?」


「それこそ違うわよ! どうして私が一人で家に居るのを寂しがらないといけないのよ。逆にうるさいお母さんがいなくて清々したわ!」


「へ〜、そんなこと思ってたんだ〜。それにしても、これも違ったのか〜。それじゃあ、どうしてアクエリは拗ねているんだろうね。他に何かあったかな・・・」


そろそろ母が諦めてくれるのかと思ったアクエリは小さく安堵の息を吐いて、もう一度反論する。


「だから私は拗ねてなんかいません!」


「あっ! わかった!」


娘をいじるのに満足したアクィフォーレが特大の笑顔を浮かべて止めを刺す。


「アクエリもあの子に抱きつきたかったんでしょう! もう、あなたの年下好きも困ったもんだね〜。」


「!!!!」


気が緩んだ瞬間を狙われた言葉はアクエリを隠せないほど動揺させた。そしてそれを見逃さず、アクィフォーレが畳みかける。


「やっぱりそうだったんだ。それをアタシに横取りされたんじゃあ、あなたも拗ねるよね。でも、あまり怒らないで。これからはいくらでもあの子に抱きつく機会はあるんだから。さてこれからもいろいろな話をしないといけないからアタシはお茶を入れてくるよ。あなたも飲むでしょう?」


アクエリがこくん、と頷いてから母と同等に張り合うのにはまだまだ時間がかかるのを思い知った。


お茶を入れてからアクィフォーレは居間に戻ってきて娘と自分の前にコップを置いた。


「さて、今後あの子をどうするのかを話し合うとしますか。」


「そうだね、お母さん。」


「一応聞いておくけど、アクエリはあの子の喋っていた言葉分かった?」


「いいえ、聞いた事もない言葉だったわ。それに、あの子も私たちが言っていたことが分かっていなかった様子だったよ。」


「やっぱりそうだよね。皇国内ではどこでも同じ言葉を使っているし、隣国の者でも私たちの言葉が分かるはずよね。」


「ということは、あの子が異邦人だというのは確定なの?」


「多分ね。」


「それでもお母さんは教会には言わないつもりなのでしょう?」


「そういうことね。あの子を助けたものとしての責任も感じるし、言葉が通じない国でどんな扱いをされるか分からない教会なんかには渡したくない。」


「あと、かわいいし?」


「ふふ、そうだね。でもね、アクエリ。アクエリがどうしても教会に報告したいって言うのなら私も反対しないよ。これはアタシ達二人の問題だからね。アタシもこれがバレたら危険だというのはわかっているし。」


「私はもう何も言わないよ、お母さん。幸いなことに、あの子は人間よ。言葉さえ教えれば滅多なことじゃバレないと思う。それに、少ししか起きていなかったけど私もあの子のことが気に入ったわよ。」


「そう・・・」


娘の答えを聞いてアクィフォーレは嬉しさと少しの申し訳なさが混ざった顔で微笑んだ。


「それじゃあ、今後の方針としてはあの子の怪我の世話をしながら言葉を教えていくということでいい?」


「そうね。今はそれがいいと思う。お母さんは仕事があるから日中は私があの子の面倒を見るよ。」


「そうかい。それじゃあ、頼むよ。」


「私が学校に戻る8月までにある程度の言葉を教えられればいいのだけど。」


「あとはあの子のことをどう説明するかという問題だけど、アクエリはなにか考えとかある?」


「私は特に考えていなかったけど、それも重要よね。お母さんは?」


「うーん、ありがちだけど、親戚の子ということにする?」


「それはいいけど、怪我のことはどう説明するの?」


「ここへ来る途中に迷って襲われたとでも言えばいいんじゃない?」


「ちょっと投げやりな感じがしないでもないけど、私は特に異論がないわ。」


「よかった。では、そういうことにしておいて。あとは街の友達や知り合いにそれとなく親戚が今家にいるとか報告をして、予めあの子のことを知らせることで怪しまれないようにしよう。」


「分かったわ、お母さん。じゃあ、私はあの子の部屋に戻るよ。ご飯の時は呼んで。」


「はいよ。いってらっしゃい。」


(ふふふ、あの子のことが相当気になるようだね。いいことだ。)


アクエリの背中を見ながらアクィフォーレがそんなことを考えた。


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