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エレメント皇国物語  作者: rurata
第三章:平穏の終わり
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第三話

手下の報告を受けてからのネビアの行動は早かった。


話を聞いてネビアはすぐに学校に報告してそれを証拠にクウリを捕まえるように進言した。しかし、学校の方は不思議な形の剣と遠くからの聞き違いかもしれない言葉だけでは生徒の持ち物を没収する訳にはいかないと言われた。


無論、それを聞き、自室に戻ったネビアは怒り狂った。その場で見苦しく怒鳴りださなかったのは自分に取っての唯一の救いだ。


部屋の置物に散々八つ当たりをした後、荒れた部屋の中でネビアは深く考え込んでいた。今ではもう多少の違法行為に伴うリスクにも目を瞑る覚悟だ。問題は何をすればいいのか。ずっとそれについて考えていたが、いくら頭を巡らせても何も考えつかない。


そのため、ネビアは手下連中をまた部屋に呼び集めてどうすればいいのかを皆で話し合おうとしていた。苛立たちと焦りでネビアはそわそわしながら何度も席を移動して皆が来るのを待っていた。


何度目かも分からないほどそれを繰り返した時、やっとネビアの扉をノックする音がした。


「入れ。」


「失礼します、殿下。」


ネビアの許しを得て、五人ほどが部屋に入る。そのいずれの顔にも沈痛な表情が浮かんでいた。またクウリを陥れるネビアの企みが失敗し、その不機嫌が容易に想像出来た彼らはこれから起こるであろう、叱責を思っての事だ。


「ふん、やっと来たか。その様子だと学校側の主張を聞いているようだな。」


「はい。ティアレイクから剣も取り上げず、自宅謹慎さえも命じずにいるのは聞いていますが、具体的な話は知りません。」


「変な形の剣だけでは証拠として弱いと言われた。」


「そんな! それでは、奴が皇国語とは違う言葉を話していた件は?」


「それも、聞いたのがたった一人、そして遠くから聞いた事から聞き間違いだったかもしれない事から取り合わなかった。」


そう言いながらネビアがその報告を持ってきた人物を睨んだ。まるでその人の所為とでも言うように。八つ当たりで睨まれた彼はしかしネビアに抗議出来る訳も無く、ただ嵐が過ぎるのを待つように低姿勢をくずさなかった。


「このままでは、奴が私に恥をかかせた報いを何も受けずにのうのうと過ごしているのを黙って見ている事になってしまう。私はそれを絶対に許さない!」


話しているうちに興奮してきたのか、最後の言葉を叫びながらバンッとテーブルを叩いた。それが大きな音を立てて、テーブル上のティーカップがガシャガシャという音とともに紅茶をこぼしながら何度も跳ねる。


「それでは殿下、次はどうするのですか?」


「それが分かれば、こんな所で悩んでいる訳が無いだろう。今日、お前達をここに呼んだのも何か考えがないかを聞く為だ。どうだ? 何かないか?」


そう聞かれ、黙り込む一同。それが数分続き、ふと一人が何かを思いついたような顔をする。


「あの・・・」


「なんだ? 何か考えがあるのか?」


「はい、かもしれません。けれど・・・」


「早く言わないか!」


「は、はい! あの、その、ですね。私の家はティアレイク家のあるリヴァールにあるのです。」


「そう言えばそうだったな。それがどうしたのか?」


「はい、実はそこの警備隊の隊長格の一人に黒い噂が絶えない物がおりまして。」


「そいつを使って何かをするのか?」


「その通りです、殿下。そいつを買収でも何でもしてティアレイク家を強制的に調べさせるべきです。」


彼の提案は興味深い事だ。持ってきた荷物が限られている学校でクウリの事を調べるのではなくて、何かの証拠が残っている可能性がもっと高い実家の方を調べると。それに、もし何も見つけられなくても、それっぽい物を仕掛けさせればいい。そう思うネビアだが、このことは他の人には知らせない。もしこれをやるのなら、その事を知る人の数は少なければ少ないほどがいい。こいつらはただ調べさせる事だけを知ればいい。そう考えてニヤリとネビアが怪しく笑う。


「面白い。その者の名は?」


「・・・モエラ・バンティノです。」



** *



モエラ・バンティノとの交渉は交通時間の事もあり、一ヶ月くらい掛かった。交渉は無事成功に終わり、近衛隊への推薦の代わりにネビアの計画に加わることを了解した。


「くっくっくっ・・・これで私も近衛の騎士。そしてゆくゆくは将軍。ネビア殿下には感謝しませんといけませんね〜〜・・・」


嫌らしい笑顔を浮かべてモエラが一人、未来を夢想する。


「悪く思わないで下さいね、ティアレイクさん。他意はありませんので。くくく。」


この計画が成功すればアクィフォーレ・ティアレイクは捕縛されるだろう。モエラは言い訳気味に他意が無いと言うが、その顔には愉悦が浮かんでいて、アクィフォーレの不幸が楽しみでならないのは明らかだ。実際、アクィフォーレが余りに優秀なことに、モエラを差し置いて警備隊の次期総隊長などと噂されている。出世欲が人一倍強いモエラにはそれが我慢ならなかった。そんな時、ネビアからの話が舞い込んだ。目の上のたんこぶのような存在であるアクィフォーレを取り除けるだけでなく、近衛隊に移れるのだ。これぞ、まさに一石二鳥。


ティアレイク家への強制捜査の準備を開始させてからモエラはずっとこの調子で妄想に浸っている。王家の印入りの捜査令状もネビアに用意してもらったし、もはや自分の邪魔をできるものは何もない。


コンコン。


「入れ。」


「失礼します、バンティノ隊長! つい先ほど兵達の準備が整ったとの報告が入りました!」


「そうか。ご苦労。お前は先に行って皆を集めろ。私もすぐに行く。」


「はっ!」


敬礼して報告に来た兵士は他の隊員を集めに行く。


「ふふふ、いよいよ、ですね。ティアレイクの悔しがる顔が目に浮かぶ。」


そう言ってモエラは笑いながら部屋を出て行った。



** *



表に出たモエラは突然招集をかけられた十人ほどの隊員の困惑顔に迎えられた。彼らが言われたのはただこれからティアレイクの家を強制捜査するということ。同じ警備隊の隊長の家を何故? と思ったのがほとんどだった。


「バンティノ隊長! 本当にティアレイク隊長の家を強制捜査するのですか!」


隊舎から出て来たモエラに一人の兵士が代理にたって聞く。


「ええ、そうですよ。これは王家からのお達しですので、くれぐれも変な気を起こさないように。」


言いながらモエラが懐からネビアにもらった令状を見せる。そこにある王家の印を見て一同が静まる。


「これを見てもまだ納得出来ません、と言う顔をしている人が数人いるようですね。」


その数人は声を上げなかったが、その顔は不満たらたらだった。


「いいでしょう。説明が無ければ納得出来ないことも仕方が無いかもしれません。」


そう前置きして、モエラがその理由を説明しだす。もちろん、その命令が本当は王様からではなく、王子から来ているのを省くが。


「ティアレイクさんが去年に一人の少年を森で保護したのを覚えていますね? ゼファーからの流れ魔導士が暴れていた時に活躍した少年と同人ですね。」


その説明でクウリを思い出し、隊員達が頷く。しかし、その少年と今日の捜査の繋がりが分からず、頭にはてなマークを浮かべる者もいた。


「実はこの少年、最近になって皇国外の人の疑いをかけられたのです。」


「「「!!!」」」


「皆さんが知っている通り、異邦人の匿いは皇国の法で禁止されています。異邦人は見つけ次第、教会もしくは政府に引き渡す義務があります。もしそれをしなければ、その者も疑わしいということになり、逮捕されます。」


「しかし、彼は人間ですよ。」


異邦人と言えばエルフ、ドワーフ、砂漠の民と言った人外のものだ。そしてミストの南にあり、ゼファーとの国境に近いリヴァールでもっとも出会う確率が高い異邦人はエルフである。だが、クウリは人間だ。彼を異邦人と言えるのだろうか?


「ええ。私も一度会った事がありますが、彼は人間でした。ですが、それは彼が異邦人ではないという証拠になりますか? 彼が幼い頃、エルフに拾われてそのまま育ったのでしたら? それでもし、ここに来たのもエルフの為に何か秘密を探るのが目的でしたら?」


熱く説明するモエラに隊員達は説得されかけていた。それに、ここまで言うのだからそれなりの証拠があるのだろうと思っていた。まさか、モエラがただ自分の出世の為に証拠を植え付ける覚悟がるとは思いもしていなかった。


説明を終え、集まった隊員の顔に納得の色が現れているのに満足し、モエラが出発の号令をかけた。


「さあ、分かりましたね。では行きましょう。総員、出発!」



** *



「アクィフォーレ・ティアレイク! 中に居るのなら出て来なさい! 王家からの命であなたの家の中を捜索します!」


ティアレイク家に着いたモエラは隊の前に出てアクィフォーレを呼び出した。そして待つ事数十秒、玄関の扉がゆっくり開いてアクィフォーレが出て来た。


「あら、バンティノ隊長じゃないですか? 皆さん揃って、今日はどういったご用件で?」


「ふん。その余裕な顔を浮かべられているのも残りわずかです。精々楽しんでいてください。では、あなた達は中に入って早く捜索を始めてください。」


「ちょっと待って下さい、バンティノ隊長。まずはその令状を見せて下さい。ただで家を自由にさせる訳にはいきませんので。」


「それはもちろんです。はい、どうぞ。こちらが件の令状です。」


懐に持っていた書類をアクィフォーレに渡し、反応を楽しむ為にその顔をじっと見つめる。


アクィフォーレは渡された書類に目を通し、それが本物と確認した。


(そんな、まさか本当に王家の印入りの書類だなんて。)


落ち着いた外面とは違って、アクィフォーレは内心かなり焦っていた。彼らが自分の家を捜索する理由などクウリのことしか考えられない。クウリやアクエリが自分から言うとは思えなかった。だが少なくとも誰かに疑問をもたれ、王家の権威を使って実家を探らせる命令を出させた。


そして、その『誰か』については分かっているつもりだった。決闘の顛末についてはクウリとアクエリからの手紙で知っていたし、ネビアの人柄についてもある程度書いてあった。その為、この捜索はネビアが陰で糸を引いているのは明らかだった。でも、まさかこんな違法すれすれなことまでするとは思っていなかった。


「さあ、満足出来ましたか? 本物ですよ。」


「ええ、そのようですね。」


「皆さん、聞きました? では、本人の了解も得た事ですし、捜索を始めてください。ああ、それと何人か残ってティアレイクさんを見張って下さい。もちろん剣と杖を取り上げるのも忘れずに。場合によってはティアレイクさんを逮捕しなければいけませんので。」


「「「はっ!」」」


いざとなれば証拠を植え付ける用意をしているモエラはアクィフォーレを捕まえる気満々なので、その際に抵抗が無いように前もって彼女を無力化させた。



剣と杖を取り上げた後、見張り用に三人と自分を残し、皆を家の中に送った。その数分後、中からガシャガシャと家の中を調べている音が聞こえてきた。


(大丈夫かしら・・・? クウリが着ていたシャツは魔物に襲われた時に使い物にならなくなったから処分したのは覚えているけど、ズボンやその中の持ち物はどうしたかしら? きっとアクエリがどうにかしたんだろうけど・・・)


それについてはアクィフォーレの記憶は曖昧だ。当時はクウリを助けることで忙しかったし、あれ以降はクウリの正体については黙っていたから考えもしなかった。そして今までの一年半、クウリについて疑問を持った人が一人もいなかった。その為、油断もあったのだろう。


そして待つ事数時間、ついにアクィフォーレが恐れ、そしてモエラが待ち望んでいた声が家の中から上がった。


「バンティノ隊長! 何かを見つけたのかもしれません! 見ていただけませんか!」


その報告を聞いた途端、モエラの顔に笑いが籠った。実際に何かを見つけられることについて半信半疑だった。自分の目で実物を見ないと分からないが、何かを見つけただけで僥倖だ。これででっち上げの証拠を植え付ける必要がないかもしれない。


「分かりました! すぐに外に持って来て下さい!」


モエラは今すぐにもその見つけたものを見たい衝動を抑えて、それを外まで持ってくるように命令する。しかしその一瞬の気持ちの揺らぎが隙となり、それをついてアクィフォーレは今使える唯一の魔法、身体強化を発動させて自分の横にいた見張りの一人を当て身で昏倒させた。


アクィフォーレの頭の中にあるのはただ一つ。この場を離れてクウリとアクエリに危険を知らせることだ。家の中で見つかったものがクウリを異邦人だと決定づける証拠なのかは分からない。だが、もしそうならば、彼らが家を出た途端に自分は拘束されるだろう。それに、いくらアクィフォーレでも、隊長格を含む10人以上から剣も杖もなしに逃げ切ることは無理だろう。今の四人でも難しい話だ。しかし何もせずに捕まるわけにはいかない。だからこそアクィフォーレは人数が少ない、そしてモエラが気をそらしている今が逃げられる唯一の機会だと思っている。


「うっ!」


うめき声を上げて最初の一人が倒れる。いきなりのことでモエラを除く他の二人は取り乱すかと思ったが、よく訓練されているのか予想よりは少ないようだ。二人は一人が倒される所を見ると、すぐに警戒してアクィフォーレから距離を置いた。


「貴様! どういうつもりだ!」


「ちっ、後一人は倒せるかと思ったのに。」


そして、その騒がしい音でモエラもアクィフォーレの行動に気がつき、すぐに剣を取り出し、援軍を呼ぶ。


「家の中にいる総員、すぐに出て来て下さい! ティアレイクさんが暴れています!」


剣と杖を持っていないアクィフォーレはいくら体を強化させていても、人数で勝っている自分達が負ける筈が無いとモエラは思っていて、それは事実だろう。しかし、一人倒された今、このまま戦ったら一人倒されるだけでアクィフォーレに逃げられるかもしれない。なればこそ、モエラは家の中の隊員を呼びつけて、今はアクィフォーレを逃がさないように牽制に留めている。


「いいですか、まだ無理に交戦しようとしないでください。あなた方が倒されてまんまと逃げ出されたら目も当てられませんからね。今は少し距離を置いて剣と魔法での牽制をして他の皆が出てくるのを待っていて下さい。」


「「了解しました!」」


二人の隊員にそう言った後、モエラはアクィフォーレに顔を向けて話しかけた。


「全く、何を考えているのですか? 警備隊に襲いかかるなんて無謀もいいところですよ?」


「・・・・・・」


嘲るように言うモエラを無視して、アクィフォーレはどうにかして逃げられる算段をしていた。しかし、二人には隙がなく、どうしようかと迷っていた。そして無視されたモエラは苛立たしげにさらに言葉を続けた。


「諦めたらどうです? いくらあなたでも武器も無くこの状況を切り抜けることは無理です。そしてすぐに中の隊員達が駆けつけてあなたを拘束します。」


「ほんと、絶望的な状況だわ。でも、娘と息子の為にもここで諦める訳にはいかないの、よっ!!!」


アクィフォーレは最後の言葉とともに気合いを入れてモエラと反対側の兵士に飛びかかる。その兵士はびっくりしたもののすぐに剣を構えてアクィフォーレを迎え撃つ。他の二人はその間に強化魔法とエレメント魔法を使い始める。


強化されたアクィフォーレは数歩で標的に迫り、相手が振り下ろした剣を避けて拳を突き出す。


「ぐはっ!」


アクィフォーレの強力な一撃を受けて、彼は強制的に息を吐き出させられてそのまま意識をなくした。アクィフォーレはそのまま勢いに乗ってその場を離れようとする。


ザシュッ!


丁度アクィフォーレが速度を上げようとした時、彼女の足下に一つの氷柱が突き刺さる。


「?!」


刺されそうになってアクィフォーレは反射的に怯んだ。そしてそれを見てモエラは薄笑いを浮かべ、追い打ちをかける為に氷の槍を何個も作る。


その後、何度も、何度もその氷の槍を打ち出し、アクィフォーレは懸命にそれを避けながら逃げようとしていたが、流石に二人分の氷の嵐は避けきれなかった。五分も経った頃にはアクィフォーレの体中に切り傷ができていて、彼女の反応も鈍り出していた。


更に五分後、アクィフォーレはもうぼろぼろだった。体の至る所から血が流れていて、意識も朦朧としてきていた。それでも彼女の頭の中は子供達しかなくて、ふらつく足でなお逃げようとしていた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


「ふふ、惨めですね。まさかあのアクィフォーレ・ティアレイクのこんな姿を見られる日が来るとは。非常に愉快です。」


「・・・アクエリ・・・クウリ・・・逃げて・・・」


「今はどんな気分ですか?」


「アクエリ・・・」


「ああ、もう聞こえていないようですね。さて、この戯れに疲れてきましたし、そろそろ引導を渡しましょうか。」


悠々とアクィフォーレに近づいて、杖を振り上げて一際大きな氷の球を作った。


「では、おやすみなさい。よい夢を・・・」


そう言ってモエラが杖を振り下ろすと宙に浮いていた氷の塊はまるで死に神の鎌のようにアクィフォーレの僅かに残っていた意識を刈り取った。


「ク、ウリ、アク・・・エリ・・・」


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