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エレメント皇国物語  作者: rurata
第三章:平穏の終わり
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第二話

「で・・・まだ何も見つからないのか?」


クウリ・ティアレイクを探らせ始めてから一週間ほど経っているが、全く有益な情報が見つからない。その所為でネビアの苛立ちは日に日に増している。


それを知っている部下連中はビクビクしながら躊躇いがちに報告を続けていた。


「すみません、殿下。まだ何も見つかっていないです。ずっと張り付いているのですけど、奴は全く尻尾を出しません。よっぽど巧妙なのか、あまり頻繁にやっていないのか分かりませんが、どちらにしても時間が足りません。もう少し時間をください。」


「いったいいつまで待てばいいのだ!」


「必ず証拠を見つけますので、もうしばらくお待ちください。」


「ふん、このままでは埒があかない。誰か奴の部屋に侵入して何がなんでも証拠を見つけるのだ。」


その命令を聞いて、周りの人が戸惑う。


「し、侵入ですか? しかし、もし見つかれば・・・」


他人の部屋に侵入することは校則で固く禁じられている。もしその途中で見つかって報告されれば、良くて謹慎、悪ければ退学になるかもしれない。そうなってしまえば家の名を汚してしまう。もしかしたら勘当されてしまうかもしれない。そんな事になったら人生の終わりだ。彼らは皆、名のある貴族の家の出。今更彼らに平民と同じ暮らしをしろ、と言われても無理な話だ。どこかで野垂れ死にするのが関の山だ。


そう言う、最悪な未来を想像した彼らはネビアの命令を実行することに尻込みする。だが、ネビアはそれを気にする筈が無い。


「心配するな。もし見つかっても私がなんとかする。」


微笑みながらネビアはそう言うが、最低限の事以外をする気は更々ない。ネビアはさっさと話を終わらせたいから取り敢えず問題が起きればそれを片付けると言っただけだ。


「まあ、いい。しばらく待ってやろう。期間は一月だ。もし一月が経ってまだ何も見つかっていないのなら。お前達は用済みだ。お前達の代わりなどいくらでもいるのを覚えているのだな。」


ネビアの警告を聞いて皆が押し黙る。ネビアに取り入る以外の能力を持っていない彼らはネビアに見放されれば出世する機会がぐっと減る。貴族と言っても、ここにいる彼らのほとんどは次男、三男などと言った家の継承権がない者ばかり。だからこそ王子であるネビアに近づいて、そのつながりを使って偉くなるつもりなのだ。だが、ここでネビアに見放されるとそれがなくなってしまう。それ故に、彼らはその関係を守る為なら侵入でも何でもする覚悟をした。


「寛大の心に感謝します、殿下。必ずこの一月の内に何かを見つけ出します。」


代表的の男がそう言うと、皆が連れ立ってネビアの部屋を出て行き始めた。その彼もそれに続き、ドアまで行くと最後にネビアに一礼し、出ながら扉を閉めた。


「一月しか待たんぞ・・・」



** *



ネビアから期日を言い渡されてから三週間が経った。その期限まで一週間を切り、クウリの事を調べていた連中は焦り始めていた。いくらクウリを調べても何も見つからない。途方に暮れている彼達はどうするかを相談し合う為に今一度集まっている。


「おい、どうするんだ? もうすぐ一月経ってしまうぞ! なのに、俺たちはまだ何も見つけられていない。このままでは・・・」


「ああ、分かっている。殿下の機嫌もかなり悪い。このまま何も見つけなければ本当に捨てられるかもしれん。」


「だけど、あいつは模範的な生徒を絵に描いたような奴だ。殿下が欲しがっているような物なんて無いんじゃないのか?」


「俺もそう感じているぞ。お前らもそうなんじゃないのか?」


「ああ、俺もだ。」


「俺も。」


そこにいる四、五人全員が頷いている事から、皆がそう思っているようだ。


「いざとなれば、証拠を捏造することを視野に入れるべきだな。」


「お、おい。本気で言っているのか?」


「ああ。だがそれは本当に最後の手段だ。流石の俺もそれの危険さが分かっている。」


「そ、そうか。」


どうやら本当に最後の手段として考えているようで皆がほっとする。


「じゃあ、何か策があるのか?」


「まあ、待て。まだやれる事が残っているだろう?」


彼が言っているのはもちろんクウリの部屋に侵入して中を探す事だ。今まではなるべく目立たないように張っていて、それで足りるように期待していたけどそれは叶わなかった。


「そう言えば何人か足りないな。あいつらは今何をやってるんだ?」


「ん? ああ、一人はティアレイクの後を着けさせていて、残りは奴の部屋の中を探している。」


「何? もう、やらせていたのか? 何で俺たちに何も言わなかったんだ?」


さらっと言ったが、重大な事を事前に言われていなかった事を不満に思っていた。


「大丈夫だろう? どうせ捕まっても俺たちが困る訳じゃない。」


「まあ、そう、だな。」


「とにかく、今ティアレイクの部屋を探らせているんだな?」


その問いにリーダーが頷く。


「もうそろそろ戻ってくる筈だ。」


バンッ!


その時、部屋の扉が勢い良く開いて、今までクウリを調べていた連中が入ってきた。


「お、おい、どうしたんだ、そんなに慌てて?」


よく見ると、彼らの息は上がっており、まるで何かから逃げて来たようだ。


「はぁ・・・はぁ・・・」


まだ話せる状態ではないようで、他の人に水を持ってこさせた。それを受け取り、彼らは一気に飲み干した。


「はぁ・・・ありがとう。」


「で、何があった? お前は確か今日、ティアレイクの後をつけていたんだっけ? 他は部屋の中を探してたんだろう? なぜ一緒に戻って来た?」


「今日ずっと張り付いていたけど、授業の後しばらく一人で図書館に勉強しに行ってから寮に帰った。だけど、そこにはまだこの馬鹿達がまだいて、それで部屋に入ったティアレイクに見つかったんだ。だから僕はこいつらを逃がす為にあいつの注意を引き、その後は必死にここまで逃げた。」


罵倒された彼らはむっとなったが、長居しすぎて見つかったのは本当の事だから反論しにくい。だが、それでも何か言い訳をしたく、声を上げた。


「でも、あいつの部屋で変な物を見つけたんだ!」


「そうだ! それについて話し合ってたから、あいつが帰って来たのに気がつかなかった!」


「変な物?」


「ああ、あれは多分、剣だった。」


「でも、俺たちが知らない形をしていた!」


「あれは絶対に変だった!」


「まあ、落ち着いて始めから説明しろ。」


興奮気味にそう報告する彼らの話は要領を得ず、まず落ち着かせる事から始めた。その間に後を付けていた一人が思い出すように発言した。


「そう言えば、図書館でも気になる事があったな。聞き間違いだったかもしれないけど・・・」


「どうやら、お前にも何か話す事があるようだな。」


「まあね。こいつらの騒ぎの所為ですっかり忘れていたけど。」


「ふむ。時間的に図書館でのことが先みたいだし、お前の方が大分落ち着いているようだから、まずはお前の話を聞こう。」


「分かった。」



** *



「学校の授業が終わった後、あいつは周りに軽く挨拶してから図書館に向かった。僕は今まで同様、気づかれない為にある程度離れてその後を付いて行った。


図書館に行ったのは何かを調べる為のようで、書架から本を取って来てはそれを読む為に席まで持って行った。」


「それはどんな本だった? それが気になる事じゃないのか?」


「ほとんどは歴史本や、過去の賢者について書いてある本などだったよ。特に僕たちが気にするような物じゃなかった。」


「なるほど。だったら気になる事とは一体何なんだ?」


「ああ、さっきも言ったように聞き間違いだったかもしれないけど、多分本の感想を言っていた時、聞いた事が無い言葉を話していたような気がするんだ。」


そう聞いて、周りの反応はほとんど混乱で統一されていた。


「それは知らない単語とかじゃなくて?」


「そう思うのもしかたがないけど、あれは単語とかじゃなくて、もっと長い、それこそ感想と思えるような物だった。」


「それで、それが皇国語とは違うと思っていたのか?」


「ああ、そう思う。」


「だが、やつは紛れも無い人間だぞ?」


クウリにはエルフ特有の長い耳もなければ、ドワーフのようにどっしりした体格をしている訳でもない。どうして彼が皇国語以外の言葉を話す理由が分からない。


「そうだ、あいつは人間だ。それにエレメント魔法も使っている。」


「それは確かに気になるな・・・」


「でしょう?」


「だがあっちで生まれ育った可能性もあるんじゃないのか?」


他の人種が使う言語の事を何も知らない彼にはクウリの言葉がこの世界に無い物だとは分からなかったが、知っていても結論は同じだっただろう。


「なるほど、ともかくそれは調査に値するようだ。」


クウリは今ミスト王国の国民になりすましている。もし彼を異国のスパイだと証明出来ればネビアが欲しい成果を得られるのでは? そう思い、彼らはネビアにこのことを報告する事に決めた。


図書館での話が終わり、今度はようやく落ち着いた部屋組の報告に移った。


「で、落ち着いたか?」


「ああ。」


「そうか。じゃあ、報告をしてくれ。」


「分かった。えっと、今日はあなたに言われて授業を抜け出してあいつの部屋に侵入したんだ。俺が部屋の中を探す役で、こいつは誰かが戻ってくる時の為の見張り役だった。」


「見張り役がいたのに奴が戻って来たことに気がつかなかったのか?」


「そうだけど・・・」


「けどそれはしょうがないんだ!」


失敗を指摘され、必死に言い繕うが、聞いていた人たちの攻めるような目は変わらなかった。


「何がだ?」


「だから、変な剣を見つけたんだ!」


「ふむ。それで、その剣がどうしたんだ?」


「二人部屋のようだったけど、あいつの物は結構簡単に分かった。それで、あいつの持ち物を探していた時、大事そうにしまってある物を見つけたんだ。」


「それが問題の剣だったという訳だな。」


「その通りだ。その剣は布に巻かれていて、その布を取ったら細長い棒の様な物があった。」


「何でそんなもったいぶるように話す?」


いつまでも核心に触れない相手に少々頭に来て話の先に行くように急かす。


「だって、始めは剣だって分からなかったんだ。とにかく、それを説明したかったんだ。」


「ふーん、最初は剣だと分からないほど変な形なのか。」


「そうなんだよ。普通の剣より細いし、ちょっと反ってるし。ぱっと見て、鞘から抜かずに分かったらすごいぞ。柄に杖を付ける窪みが無ければ至難の業だ。」


「それで、鞘から抜いてみたのか?」


「当たり前だ。それで分かったのは形が変だけじゃなく、姿も変だということだ。なんと、片刃なんだよ!」


「片刃? つまりは何だ? もう片方では切れないと言うことなのか?」


「その通りだ。」


「それって役に立つのか?」


「分からない。でも、切れる方はすごく鋭かった。まるで、ちょっと撫でたら指が切り落とされるように。」


部屋組からの報告をしばらく咀嚼して、視線を二人に戻すと話的にも重要な事を聞く。


「それで、肝心のその剣は? 持っていないようだが。」


その質問に二人は分かり易いほど動揺した。


「そ、それは・・・」


「そ、その・・・」


二人の額は冷や汗で濡れていたが、それに構わず質問を続ける。


「まさか、証拠になるかもしれない物を置いて来ていないだろうな?」


答えは分かりきっているのに、その攻めがさらに続いた。攻めに遭っている二人はただ縮み上がるだけだった。


「これを聞けば、殿下はどう反応するだろうな?」


「それだけはやめてくれ!」


「ティアレイクが戻って来た混乱でそこまで考えが至らなかったんだ!」


「殿下に言う時は俺たちが失敗した事は黙っててくれ! お願いだ!」


必死にネビアに言わないように懇願する二人。


「まあ、それは適当に誤摩化せばいいだろう。殿下に言えば学校の方を通してそれを押収できるだろう。」


「「ほっ。」」


「とにかく、決定的ではないが、気になる情報が出てきた。さっそくこの二つの事を殿下に報告しよう。」


皆は頷き合い、今すぐにもネビアと会う為に部屋から出て行った。


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