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エレメント皇国物語  作者: rurata
第三章:平穏の終わり
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第一話

「おつかれさま〜。」


「お疲れさま。」


「お疲れさま、二人とも。」


いつもの練習後、更にアクエリを加え、三人は疲れを労いあった。


決闘の後、ルミヒア、クウリ、そしてアクエリは話し合い、アクエリが監督するのが条件で二人の練習を続けてもいいと認めた。今日もそんな三人は一緒に練習に励み、今それが終了した。


「ふぅ〜、ルミ、今日は調子がよかったね。」


額の汗を拭いながらクウリは練習を思い出してルミヒアにそう言う。


「そうだね〜。」


疲れ気味にドサッとクウリの隣に腰をかけてルミヒアが相槌を打つ。


確かにクウリの言う通り、今日のルミヒアは何だか調子がよくて、魔法もかなり上達した。なんと初めて水を氷に変える魔法を成功させたのだ。それはたった一つのゴルフボール程度の氷の球だったけど、それでも成功だった。


ルミヒアが最初にアイスボールを作った時は見物だった。ルミヒアは飛び上がって騒いだし、クウリも同じくらいに嬉しがった。そしてアクエリはというと、一年生の内に氷の魔法に成功したルミヒアをとそれを手伝ったクウリに言葉を失っていた。


アクエリ自身、氷の魔法を使い始めたのは去年の終わり頃だった。それでも普通の生徒より速い段階で習得していた。そしてアクエリは思った。いくらクウリが特別な人で独特な魔法の捉え方をしていても、それで氷の魔法まで辿り着いたルミヒアはまぎれもない天才なのだろう、と。


「それにしてもびっくりしたな〜。」


「なにが?」


ルミヒアの言葉にクウリが反応する。


「まさかアタシが氷の魔法が使えるようになるなんて思ってもいなかったわ。」


自分の生まれつきの魔力の低さを鑑みてそう呟くルミヒア。


「そうだったの?」


現にこの早い段階でその魔法にありつけたルミヒアを不思議に見て、アクエリが聞き返す。


「だってアクエリさんもアタシの魔力の低さについて知っているんでしょう?」


「え、ええ、そうね。確かに他の生徒に比べると少し低いかもしれないわね。」


あっけらかんとルミヒアは言ったが、アクエリはルミヒアと話した時に過去の事を少し聞いていたので当たり障りの無い、微妙な返事をした。そのアクエリの微妙な感情にルミヒアは気づき、慌てて補足した。


「いいのよ、アクエリさん。アタシはもう気にしていないのですから。」


「そうなの?」


「まあ、流石に氷の魔法まで使えるようになったら魔力が少し低い事で何時まで悩むのも少し変かな、って思いまして・・・」


苦笑いを浮かべて言うルミヒア。


クウリは知らなかったが、氷の魔法を使う事はそれほど難しく、そしてそれを使った魔導士はそれだけ優秀と見なされる。この学校では三年の半ばから教え始め、卒業まで続くが、国で一番の魔法学校でも卒業までにそれを習得する生徒は三割を下回る。


「それに、この前、クウリ君はエレメント魔法を使わずに殿下に勝ったじゃないですか? アタシには同じような戦いは出来ないけど、戦いの勝敗は何も魔法の実力とか、魔力とかだけで決められるものじゃないって思いました。」


「そうね、確かにその通りよ。それでも魔力が少ない事はつらいと思いうわよ。」


「それも覚悟の上です。でも、アタシは負けません! それに、今すごく楽しいんですよ。」


「楽しい?」


「はい、クウリ君のおかげで魔法も上手くなっているのが目に見えて分かりますし、このままどこまで上達出来るのかが楽しみです。」


笑いながらそう言うルミヒアの目には一切の陰りはなく、それを見たクウリとアクエリは彼女が本当に壁を一つ乗り越えたのだと知った。


ルミヒアについての話題がひとまず終了し、クウリは今度ルミヒアの反対に座り込んだアクエリに話しかけた。


「エリお姉ちゃんも、お疲れさま。今日の感想はどう?」


「疲れたわ。でも、気持ちのいい疲れだわ。」


クウリが魔法についてアクエリに教えられる事はほとんど何もない。アクエリはすでに氷の魔法が使えるし、後は技術的な事柄だけど、クウリにそんな事が分かる筈もない。なので、その代わりにクウリは練習中の空いた時間を使ってアクエリと剣術の練習をしていた。


アクエリの剣の腕はラクほどではないが、それでも学年の上位にいる。純粋な魔導士よりの彼女には充分な実力だけど、ネビアを圧倒した(実際は結構手子摺っていたが)クウリの剣に何かを感じ、アクエリはクウリに教えを願った。というのは建前であり、本音は何でもいいからルミヒアと同じように、クウリに何かを教えて欲しかった。


「それにしても、エリお姉ちゃんって剣の腕もすごいね。そう思わない、ルミ?」


「うん、アタシも横から見てたけど、すごいって思ったわ。クウリ君に教えてもらう事なんて何もないんじゃない?」


言外に『アタシとクウリ君の練習の邪魔をするな!』と言うルミヒア。


アクエリはルミヒアのその言葉の意味をしっかりと汲み取り、もっともらしい理由でそれを否定した。


「そんな事ないわ。クウリの剣は私たちが習ったものとは違うから新しく教わることはたくさんあるわ。それにクウリの腕は私より数段上だしね。クウリは本当にすごいのよ。多分ラクよりも上じゃない?」


「あはは、ずっと鍛えていたから・・・」


アクエリに褒めちぎられ、クウリが照れ笑いをした。


「ずっとって、どれくらい?」


クウリの事をもっと知りたいと思っているルミヒアが聞いた。


「十年以上かな?」


「そう・・・あれ?」


クウリの答えを聞いてルミヒアは納得した。しかし、ちょっとしたらクウリの言葉に違和感を感じた。


「クウリ君、記憶が無かったんじゃなかったの?」


「あれ、そう言えば・・・どうして十年以上って分かったんだろう? まあ、感じから多分それくらいやっていたんだろう。」


とりあえずクウリは惚けてみた。


「もしかして記憶が戻り始めてる?」


ルミヒアがそれを信じたかどうかは知らないけど、言い訳に乗って来た事には感謝した。ルミヒアの事を信用していない訳じゃないし、クウリは本当の事を言ってもいいと思っているけど、アクエリとアクィフォーレとは絶対に他の人に言わないと約束している。だから今はこの茶番を続けた。


「もしかしてそうなのかも。」


「じゃあ、他には何か思い出した?」


「いや。そもそも何でそれが分かったのも知らないし。何か、反射的に出て来ただけ。だから残念だけど、他の事は全然思い出せない。」


嘘つく度にクウリの胸がずきんと痛むが、今の所他に選択肢はない。アクエリはそんなクウリの気持ちを悟ってか、話題を変える。


「まあ、思い出せない事は仕方が無いわよ。今はただ、戻るかもしれないって事を喜ぶべきよ。」


「うん、そうだね。ありがとう、エリお姉ちゃん。」


「アクエリさんの言う通り、クウリ君が心配していないのならそれでいいよ。ちょっと焦らせていたかな?」


反省の意を少し含んで、ルミヒアが聞いた。


「ううん、大丈夫だよ。ルミもありがとう。」


首を横に振り、クウリはルミヒアに心配は無いと告げる。


それから立ち上がり、一息ついた他の二人に声をかける。


「じゃあ、一息ついた事だし、そろそろ帰ろうか。ご飯の前に汗を流したいしね。」


「そうね。」


「うん。アタシも汗を流したいかな。」


アクエリとルミヒアもクウリに倣って立ち上がり、同意を示す。


そして三人はクウリを真中に置き、帰路についた。



** *



その頃、ネビアの寮の部屋でネビアは仲間と集まって何やら不穏な空気を醸し出していた。


「おのれ、クウリ・ティアレイクめ!」


ネビアの機嫌は父との話し合いから全く良くなっていなかった。未だにどうやってクウリに仕返しをすればいいのか考えていた。しかし、父から協力を拒否された今、ネビアは公式に出来る事が何も思い浮かばなかった。ネビアが直接クウリをどうこう出来た行為(決闘)ではすでに負けており、ネビアはまたクウリに挑むほど愚かでもない。


だがそうなると、ネビアに出来る事は限られる。王族と言ってもネビアは王ではなく、特別な理由でもない限りネビアでも法を犯せば捕まえられる。ネビアはそれが恐くて、やりすぎた行為は取れない。


(父上は証拠を持ってこいと言った。だったら証拠でも何でも見つけて奴を後悔させてみせる!!!)


なんとしてもクウリに報いを受けさせると決めているネビア。問題はどうやってやるかだが、ネビアには良い案が思いつかない。考えついた事と言えば、クウリが違法な事をしている証拠を見つける事だ。クウリを知っていればそんな事をしている訳がないと思う筈だけど、視野が狭いネビアには自分が後ろ暗い秘密がいくつもあるので他の人も皆そうだと考えている。そう言う理由からネビアはとりあえず取り巻き連中にクウリの事を見張るように言いつける。


「いいか、お前達。奴に四六時中張り付いてなんとしても奴が罪になる事をしている証拠を見つけるのだ! 分かったな!」


「はい、殿下。」


「必ず奴の悪事の証拠を掴んでみせます。」


そう言われて部屋の中にいた人たちは面倒くさそうな顔をしていたが、ネビアに従順の彼らからは異論など出なかった。


そして皆が渋々とまで言わないでも、あまり気が乗らない様子でネビアの部屋を出ると、一人になったネビアは椅子に座り直し、なにやら暗い感情を渦巻かせながらクウリに与える罰を考えていた。


(今は束の間の平和を楽しむがいい。だが、すぐに証拠を見つけてお前に私を虚仮にした報いを受けさせる!)


「くくく・・・ふっふっふっ・・・あはははははは・・・!」


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