第二十一話
「クウリ〜、準備出来た?」
寮部屋の扉をノックしつつ開けて、アクエリが頭を覗かせてクウリを呼んだ。
「あとちょっと〜。」
クウリは丁度着替え終わるところで、最後に上着を肩に掛けて出かける用意が完了した。
「エリお姉ちゃん、準備終わったよ。」
「じゃあ、行こっか?」
「うん!」
元気よく返事してクウリはアクエリの側までに走った。
そうしてクウリとアクエリは杖を片手に寮を出て行った。
決闘から週末を一つ挟んでの週末、クウリの怪我は完全回復して、二人は仲直りと決闘での勝利を祝う為に一日王都まで出かけることになった。
そしてその日の朝、アクエリは待ちきれずにクウリを部屋まで迎えに来て、二人で寮の食堂で朝食を食べてから出かけようと決めた。
「「いただきます。」」
二人は祈りを済ませて食べ始めるとアクエリがクウリに話しかけた。
「今日はどうしよっか、クウリ?」
「エリお姉ちゃんに任せるよ。」
クウリは学校が始まってから一度も王都に行っていない。その為、クウリが王都で知っている場所と言えば学校が始まる前にアクエリと回った所くらいだ。
「そう? それじゃあどこに行こうかな? そうね、あそことかいいかも・・・」
二人は食べている間そのまま今日の予定を話し合い、それが終わったら二人は連れ立って寮を出た。
寮を出る時、アクエリは視界の隅でルミヒアを見つけて意味深に笑いかけてクウリの腕を取り、「早く行こう」と急かした。クウリはそれに気づかなくてアクエリに引かれるまま外に出た。後に残ったのは言葉を失って口をパクパクさせていたルミヒアだった。
** *
「父上! お願いがあって参りました!」
バンッと謁見の間の扉が開き、ネビアが入って来た。胸の怪我が完治していないのか、その動きはどこかぎこちない。
「今度は何だ、ネビア?」
こんな風にネビアが何かを頼み込む時は碌な事がないのを経験から知っている王が嫌そうな顔で聞く。
「はい、捕らえていただきたい者がいるのです。」
「逮捕だと? 誰を?」
「クウリ・ティアレイクという生意気な小僧です。」
その名前を聞いて王は得心がいった。
「お前を決闘で負かした者か。負けただけならいざ知らず、お前は剣しか使わない筈のクーランの決闘で、剣で負けた時卑怯にも魔法を使ったそうではないか。そしてそれを使いながらも大怪我を負い、エレメント魔法もまだ碌に使えない一年生に負けたそうだな。それで? 実力では敵わないと知り、私に泣きついたのか?」
「っ!?」
図星をつかれてネビアは顔をしかめたが、すぐにそれを引っ込めて落ち着いた仮面を付けて父に答えた。
「その人物で間違いありません。しかし、決して決闘で負けたからではありません!」
ミスト王は明らかに信じていなかったが、とりあえずネビアの言い分を聞くことにし、先を促す。
「ふん、それで? いくら私でも罪状もなく人を逮捕できないぞ。」
「それは当然です。奴は皇家に対しての叛意がある疑いがあります。先の決闘はその意志の表れかと思います。」
「叛意だと? 言っている事が分かっているのか?」
ネビアの言葉に王が片眉を上げた。謀反の企ては重大な罪である。そしてそれの罰は大抵死刑だ。もし、いや、今回の場合はほぼ間違いないが、もしそれが只の狂言ならこの馬鹿息子は王家に罪もない、それも将来有望な若い魔導士を死刑に処させる事になる。
「もちろんです、父上。あんな不審な者は直ちに捕らえて死刑にするべきです!」
それなのにこの愚か者の息子はそんな事も分かっておらず、こんなことを言う。ミスト王は失望した顔で息子を見て、彼が太子でないのを改めて感謝した。
「はあ・・・それで? その者が謀反を企てている証拠はあるのか?」
「あいつが私に決闘を挑み、あわよくば私を亡き者にしようとしたのが何よりもの証拠です!」
「そんな物が証拠になるか、馬鹿者。それに、決闘を申し込んだのはお前の方だったと私は聞いたぞ。」
「っ・・・!」
自分の言い訳の矛盾を指摘されネビアが焦る。
「そ、それこそがあいつの計画だったのです! 私を怒らせ、決闘を申し込むように謀ったのです!」
「お前は年下の安い挑発に踊らせられるほど間抜けと言うのだな?」
「ぐっ・・・・・・」
父に間抜け扱いされてネビアは押し黙るしかなかった。
「もういい。証拠もなく、二度とこんな事でここに来るな。」
ミスト王はもう息子と話す事に疲れ、ネビアにさっさと部屋を出ろと言うように手をシッシッと振った。
「父上!」
ネビアはそれでも食い下がったが、ミスト王は聞く耳を持たず、そのまま王座を立って謁見の間を出て行った。
「・・・チッ!」
一人残されたネビアは悔しくて地団駄を踏んだが、その音は無人になった謁見の間に空しく響いただけだった。
「おのれ、クウリ・ティアレイク。必ず後悔させる!!!」
ネビアは最後にクウリに対しての復讐を自分に誓い、クーランへと帰った。
ネビアが城から出て行く頃、クウリとアクエリはネビアのそんな企みを露とも知らず、ただ久しぶりの二人きりのお出かけを楽しんでいた。




