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エレメント皇国物語  作者: rurata
第二章:魔法学校クーラン
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第二十話

アクエリの声に反射的に後ろに振り向こうとする。しかしそうできる前に、いきなりの衝撃で頭が揺れた。


「がはっ!」


なんとか意識を離さずにいたが、クウリはその一撃の勢いでバランスを崩し、膝をついた。クウリが改めて後ろに振り向くとぐらぐらと揺らぐ視界の中でネビアが嫌味な笑顔を浮かべてクウリに杖を向けていて、その周りには五つほどの拳大の氷の球が浮いていた。その一つをクウリに当てたのだろう。


「どうしたのかね? 誰も決闘が終わったなどとは言ってはいないぞ。さあ、続きをしようではないか。」


ネビアはクウリにそう宣言し、余裕のある態度で落とした剣を取り、それに杖を仕込んで構える。

ギャラリーは先ほどとは逆に静まり返っていた。


反応はそれぞれだった。何が起きたのかが分からずに混乱している人もいれば、一応は魔法を使わないと決められていた筈なのにその卑怯な行動を取ったことが信じられず、ネビアに侮蔑の視線を向ける人もいた。その人たちはネビアが王子だから何も言わないが、ネビアに対して好意的な人は一人もいなかった。しかし、ネビアはすでにそれを気にすることが出来ないほどに余裕がなくなっていた。


「クウリ、大丈夫?!」


その中で初めて声を上げたのは顔を青くしたアクエリだった。なんとかクウリの無事を確かめる為にアクエリはクウリの側まで走り、そしてキッとネビアを睨んだ。


「卑怯よ! 後ろから不意打ちって! それに学校での決闘で魔法を使うなんて!」


アクエリは更に続く言葉でネビアの卑怯な行動を非難した。


「ふっ、卑怯? 決闘の最中に相手から目を離すそやつが悪いのではないのかね? そして魔法を使わない事はあくまで示唆のような物で、はっきりと禁止しているわけではないのであろう?」


「でも、クウリは一年生よ! 魔法を使っての戦いなったら明らかに不利じゃない!」


「それこそ私には関係のない事だ・・・ふう、そろそろいいかげんにしたまえ、アクエリ。これ以上私たちの決闘の邪魔をしないでくれたまえ。」


やれやれと肩をすくめるネビア。


「しかし!」


「いいよ、エリお姉ちゃん。」


「ク、クウリ、大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。頭もちょっとはっきりしてきたし。戦いを続けるよ。」


「でも・・・」


「今更やめられないんでしょ?」


剣を拾って、クウリは決意の籠った瞳でネビアを睨み、そしてふと微笑を浮かべこう言った。


「それに、あいつが魔法を使ったのなら、俺も魔法を使ってもいいんでしょ?」


できるだけアクエリを安心させるために笑いかけ、多少ふらつきながらもクウリが立ち上がった。


「さ、続けましょうか、殿下。」



* * *



再び戦い始めた二人の戦闘はネビアの一方的な攻撃で開始した。


魔法を使い始めたネビアは執拗にクウリをアイスボールで狙っていた。ネビアはアイスボールを巧みに操り、クウリはまるで同時に何人にも攻撃を受けていると感じていた。クウリが一つを避けると、すぐさまに他の方向から別の氷の塊がクウリ襲った。


それと同時にネビアが剣でクウリに襲いかかっていた。ネビアは魔法を使っての戦闘に慣れているのか、自分が操っているアイスボールとの連携はほぼ完璧だった。クウリに取って幸運だったのはネビアがアイスボールの魔法で集中力を割いていて身体強化が疎かになっていた事だった。そのおかげでクウリはなんとか決定打を受けずにいる。それでもクウリは何度かアイスボールを見に受け、その度に顔をしかめていた。


「ふん、どうした? 先ほどの余裕はどこへ行った?」


侮蔑を込めてネビアがクウリにそう聞く。


クウリの方はまだ状態が完全ではなく、かろうじて身体強化の魔法を発動させるのがやっとくらいだったのでそれに答える余裕もなかった。


「ふはは、そらそら、避けきれていないぞ?」


ネビアの切り込みがクウリを擦り、更に数個の氷の球がクウリの背中に命中する。


「くあ・・・」


悲鳴を噛み殺しながらクウリはどうしようかと悩んでいた。


頭はなんとか守っていたから意識は徐々に鮮明になってきていた。そのおかげでクウリの身体強化は段々と強くなっているが、ネビアの攻勢に付いて行く事がやっとの所までしか強くならない。クウリの限界はまだまだ先だけど、そこまで強化するのにはせめて数秒間邪魔されずに集中しなければならない。しかし、エレメント魔法を使用しているネビアは大きな隙を見せずに間断なくクウリを攻撃していて、その数秒を与えてくれない。


(このままじゃあじり貧だ。なんとかしないと・・・でも、一体どうすれば・・・)


身体強化のおかげでアイスボールから受けるダメージは減少されている。それでもクウリは完全に避けていないのでダメージが残る。それに加えて、クウリは防御に専念しないといけない状態なのでネビアの方は決闘を再開してからはノーダメージ。


このままではクウリは負けると分かってはいたが、クウリには何もいい案が思いつかない。


「ふむ、お前に勝った後、どうしようかね。まず、お前は退学させよう。いや、王族にたてついた事で投獄させようか? うむ、それがいい。そしてお前がいなくなった後はお前の義姉を計画通りに拉致でもしよう。いや、お前を人質にして脅した方が効果的かな? そうすればアクエリも抵抗しないだろう。ふははは、実に楽しそうだ。そう思わないかい?」


下衆な陰謀をクウリにしか聞こえない音量でネビアが笑いながら伝える。


ネビアは自分が優位に立っているのを知っていて、クウリを嬲る事を楽しんでいた。


(くっ・・・こいつ・・・!)


「そんなこと、やらせる、か、よっ!!!」


ネビアの攻撃を防ぎながらなんとか絞り出すクウリ。


クウリはネビアの言葉でかなり怒っていたが、なんとか平静を保てるようにがんばっていた。けれど、平静でいられるからと言ってクウリの心の中が穏やかというわけでもない。実際、クウリは頭でこそ冷静に考えられていたが、心の中は煮えたぎっていた。


「ふっ、止められるなら止めてみせるがいいさ。ま、これでは無理だろうがね。」


攻撃を続けながらそう言うネビア。


「くっ・・・」


悔しそうにクウリが奥歯をギリッと噛み、ネビアを睨む。だが、ネビアに取っては自分がこれほど優位な場所にいると言うのに、クウリが未だに諦めない事に苛立っていた。


「ちっ・・・(なんだ、その顔は・・・! 勝っているのは私の方なのだぞ! 手も足もでないくせにまだ希望でもあるような顔・・・)・・・気に食わない!!」


そう言ってネビアの攻撃の威烈さが増す。


だが、クウリの防御は固く、ネビアはなかなか攻めきれない。その状態が更に幾分続き、ネビアは段々と焦れてきた。そしてネビアはついに痺れを切らし、一気に片をつけようと決心する。


「どうやら守る事に関してはなかなかのようだが、果たしてお前にこれを防ぐ事が出来るかね?」


それからネビアは一気にクウリから離れて大きな魔法を使う為に集中しだした。


(しめた!)


ネビアが離れた事でクウリは自分に魔法を使う余裕ができて喜んだ。そして痛む体に鞭を打ち、おそらく最後になるだろう、次の攻勢に備え始める。


数十秒後。


クウリは今の状態で出来うる限りの身体強化をして剣を下段で構えて二十メートルほど先にいたネビアに視線を送った。


ネビアも魔法の準備を終えていた。ネビアの周りには五十という、今までより十倍の氷の球が宙に浮いていた。これはネビアが操れる最大の数であり、それに全集中力を使わないといけない為、剣を鞘に納めて杖だけを構えていた。


それはつまりネビアが接近戦を捨てたということだが、ネビアはこの魔法にそれだけの自信がある現れであった。流石に普通の人間が五十もの氷の球に襲いかかられたらその全てをかいくぐって術者に辿り着くのは至難の業。その自信もあってか、ネビアは余裕たっぷりな笑顔を浮かべ、声高々で更にクウリを挑発する。


「ふふふ、どうです? すごいでしょう? 今謝るならこれで攻撃するのは勘弁して差し上げましょう。それでも侮辱したことは許しませんが。」


余裕が多少戻ったおかげかネビアの口調も、内容はともかく、普段に戻った。


「誰がそんなことするか!!」


流石のクウリも多数の氷の球に少し怯んだが、今更決闘を降りる訳にもいかないし、ネビアもそんなことを許さないのも分かっていた。だが、それ以上にアクエリの事で怒っていた。


「ならば、後悔しながら死ぬがいい。」


杖を振りながらネビアがそう言うと、周りの氷の球が一斉に動き出す。


ネビアは微笑みを浮かべながらクウリに襲いかかる無数のアイスボールを見て、クウリがぼろぼろになる姿を思い浮かべた。


しかし、ネビアが思い描いたその光景はそこには現れなかった。


身体強化魔法の恩恵を受けたクウリは次々と襲いかかる氷の球を時には避け、時には剣で逸らしながら確実にネビアに近づいていた。


「バ、バカな!!」


ネビアは今自分の前で繰り広げられている物が信じられなかった。クウリの動きはもう視力が強化されていなければ追えないほど速くなっている。


先までとは打って変わったクウリの動きにネビアは驚くほど戸惑った。


「チィ、ちょこまかと・・・!!」


悪態ついたが、ネビアは内心焦っていた。たった五つのアイスボールと自分の剣に手も足も出なかったクウリが自分の最大数である十倍の五十個のアイスボールに一歩も引いていない。それどころか全部避けていて、自分に近づいてくる。


「おのれぇ〜〜〜・・・」


着実と自分に接近するクウリを罵るネビア。だがいくらクウリを罵倒してもクウリはその歩みを止めない。



ヒュンッ


横から飛来したアイスボールを避け、クウリがまた一歩踏み出す。


(む・・・?)


クウリがいよいよネビアまで五メートルの所に近づいた時、ネビアの魔法の制御にむらが出始めた。クウリの前や後ろからのアイスボールがネビアを傷つけない為に勢いをなくしていた。


(これなら・・・!!)


緩くなった前からの攻撃ならば、とクウリが思い、ここで勝負に出ることに決めた。


グンッと膝に力を込めるクウリ。それを見てネビアがクウリの狙いに気づいて慌てて距離を取ろうとする。


「く、くるなあ〜〜!!!」


慌てすぎてネビアが下がろうとして足をもつれさせる。


だがそれが切っ掛けとなり、クウリはネビアが躓いた時、目前に来ていた一つの氷の球をしゃがんで避けた。氷の球がクウリの頭の上を通過したら目の前には何の障害もなく、ネビアまで一直線だった。


「いくぞ・・・!」


低い声でぼそっと言ってからクウリは溜めていた力を解放して残りの距離を後ろに引きながら一気に跳躍した。


「うわあああ!!!」


ネビアはもうなりふり構わず、自分が傷つく可能性も無視してクウリをアイスボールで狙った。しかし、氷の球は全てクウリの後ろに置き去りにされていて、もはやネビアが何をやっても間に合わない。


「はああああ!!!!」


ネビアの側に着地したクウリが後ろに引いた剣を振り抜く。クウリの剣はメキメキという胸骨が折れる音とともに命中した。


クウリの攻撃はそれで終わらなかった。クウリは振り抜いた剣を返し、今度はネビアの意識を確実に刈り取る為にそれをネビアの首筋に当てた。


「がっ!」


意識を失ったネビアは白目をむいてそのまま倒れた。髪も元の金色に戻り、五十個の氷の球は水に戻ってパシャっと小さな水しぶきを上げながら地面に落ちた。


ネビアが倒れるのを見るとクウリはやっと緊張を緩めて魔法を解除した。ふぅ、と息を吐き出しつつクウリはアクエリに向いて弱々しく笑った。


そのすぐ後、決闘中に負った怪我の所為でクウリも意識を手放し、バタリと地面に落ちた。


「クウリ!!」


アクエリは地面に転がったクウリに走り寄り、クウリを抱き上げた。そして自分に強化魔法を使い、クウリを抱き上げたまま医務室へと走った。


「アクエリさん、待って!」


急ぐあまり、アクエリはルミヒアを置いて行ってしまい、ルミヒアは慌ててアクエリとクウリを追いかけた。



* * *



「まったく、あんなに心配させたのに、こんな顔で寝ちゃってもう・・・」


医務室でクウリの怪我の手当てをさせてベッドに寝かせたアクエリがクウリの髪を梳きながら苦笑を浮かべて言う。


「アクエリさん、クウリ君大丈夫?」


心配そうにルミヒアが聞く。


「ええ、怪我のほとんどが打撲だったようで、簡単な治療魔法で済んだみたいね。むしろ殿下のほうが重傷だったわよ。」


「あー、うん、そう言えばあれは危なそうだったわね。」


クウリは通算三回しか攻撃をネビアに当てなかったがどれも痛恨の一撃だったのをルミヒアが思い出す。


それからルミヒアはアクエリの隣に座り、クウリを見ながらアクエリと話すのがクウリ達の喧嘩以来だと思い出した。


「ねえ、アクエリさん、ちょっとお話ししていいですか?」


「なに、ルミヒアさん?」


「えっと、その・・・ごめんなさいっ!!」


バッといきなり頭を下げたルミヒアにアクエリが戸惑う。


「突然なに?」


「クウリ君との練習を黙っていたのを謝らないといけないと思ったの。アタシは訳有って練習の事を他の人に知られたくなかったのだけど、それにクウリ君を付き合わせてしまったの。」


「そう・・・」


「クウリ君もアクエリさんに言うべきかどうかをすごく悩んでいたわ。だからクウリ君を許してください!」


そう言ってまた頭を下げるルミヒア。


「頭を上げて、ルミヒアさん。私はもうクウリを怒っていないわ。」


「本当?!」


嬉しそうにルミヒアがアクエリに聞き返す。


「ええ。それに私も少しいけないところもあったし。」


「アクエリさんに・・・?」


「ほら、私ってばクウリの話もろくに聞かずに怒ったじゃない?」


「でもクウリ君の事が心配だったんでしょう? 暴走の危険もあったし、先生から許可をもらっていたのを知らなかったのよね?」


「そうね、それもあったわ。でもあの時に怒っていたのは多分違う感情からだったわ。」


少し困った顔でアクエリが苦笑する。


「違う感情?」


ルミヒアが首を傾げながらそう聞く。


「私はきっとルミヒアさんに嫉妬していたんだわ。」


「嫉妬・・・ですか・・・?」


「そうよ。ルミヒアさんは私とクウリが血の繋がった姉弟ではない事を知っているわよね?」


「はい、二人はあんまり似ていないですし。」


「実は私が初めてクウリに会ったのは去年の夏の始まりくらいなの。」


「ええ?!」


これには流石に驚くルミヒア。二人が義理の姉弟だと言うのはなんとなく分かっていた。だが、二人はまるで小さい頃からずっと一緒だった姉弟のように仲がいいように見えたので知り合ってから一年ちょっとしか経っていないのにはちょっと信じられなかった。


「クウリは家族で旅をしていた時に魔物に襲われてね、丁度その魔物を討伐するために街を出ていた私の母に助けられたの。でも母が到着した時にはもうクウリしか生きてなくて、そのクウリも酷い怪我をしていた。なんとか母の治療魔法で一命を取り留めたけれど、天涯孤独になったクウリにはどこにも行く場所がなく、母の提案でうちの子になったの。」


「そうだったんですか・・・」


悲しそうな顔でルミヒアが相槌を打つ。


「うん。まあ、それで仕事で忙しかった母に代わって私がずっとクウリの看病をしていたのだけど、その時に仲良くなったのよ。」


「はあ・・・」


もしかして惚気たいだけなのでは? と、ルミヒアが困り顔で考え始めていた。


「とにかく、私が言いたかったのは、私とクウリの間の絆は強いと私は思っているけど、付き合い時間は以外と少ないのでふとしたもので揺らぐかもしれないと心配しているかもしれない。」


自分の気持ちがよく分からないのか、アクエリは自信なさげにそう言った。だが、アクエリはそれから顔を上げて、ルミヒアの目をまっすぐ見ながらこう続けた。


「でもね、今回の事で私は一つ気がついたわ。」


「・・・?」


「私は多分クウリの事が好き。それは弟としてだけではなく、異性としても。」


「!!!」


「だからね、ルミヒアさん。私はもう遠慮する気はないわ。あなたがクウリの事を気にしているのも知っているわ。だから、もしクウリの事が好きならこれから私たちはライバルよ、覚悟しなさい。」


自信たっぷりでそう言ったアクエリの笑顔は輝いていて、宣戦布告を告げられたルミヒアが一瞬見とれるほどだった。しかし、ルミヒアも負けておらず、すぐに驚きから回復してアクエリと同様の笑顔を浮かべてただこう返した。


「望むところよ!」


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