第十八話
「そういえば、クウリは何か焦っていたけど、何かあったの?」
仲直りして二人が落ち着くとアクエリは思い出すようにクウリにそう聞いてきた。
アクエリの言葉でクウリは急いでいた理由を思い出して、ばっと顔を上げた。
「そうだ、エリお姉ちゃんに言う事があるんだ!」
それからクウリが外で聞いたネビア達の企みの事をアクエリに言おうとした時、バンッと教室のドアが開き、クウリを追って来たネビア達がすごい形相で入って来た。そして教室にクウリの姿を見つけ、間に合わなかったと思って苦々しげな顔を浮かべた。
「ネビア・ダンスト・・・!」
「ネビア殿下?」
まだアクエリに話していないクウリは驚き、アクエリに気をつけろと言えなければせめて守らなければとアクエリとネビア達の間に移動する。
ネビア達の突然の登場に対しアクエリは不思議に思っていたが、その他には特に何も感じなかった。けれど、側にいるクウリを見ればその顔には明らかの警戒があり、アクエリを困惑させた。
「クウリ、どうしたの?」
「エリお姉ちゃん、気をつけて。こいつらはエリお姉ちゃんを襲おうって計画していたんだ!」
「えっ!?」
「チィッ!!」
クウリは声を大きくしてネビア達の計画を暴露するとアクエリは信じられないような顔をしてネビアは怒って激しく舌打ちをした。そしてクウリの大声に釣られ、周りの生徒もどうしたのか気になりだして皆は遠目から見物していた。
「クウリ、その話は本当なの?」
自分の耳を一瞬信じられず、思わず聞いた言葉の確認を取るアクエリ。
「本当だよ。ついさっき庭のところで後ろの人たちと話しているのをこの目で見たんだ!」
いくらなんでもそこまではしないだろうとアクエリは思ったけど、証人が自分の弟ならば信じない訳にはいかない。
「そう・・・」
「ちょっと待ちたまえ。」
ここで今まで黙っていたネビアが声を上げた。その顔はネビアの普通の態度からは考えられないほど怒りと焦りで醜く歪んでいた。
「君は私を侮辱しているのかね?」
あくまで表面上は落ち着いているように見せているネビアはそうクウリに聞く。
「侮辱するつもりはありません。事実を述べたまでです。」
クウリも内心怒っていたのでその淡々と言ったその言葉はあまり考えずに口から出てしまった。その為、ネビアはその言葉を挑発と見なし、彼の怒りをますます大きくさせた。
「いいがかりはその辺で止めたまえ。私がそのような見下げ果てた行為をするはずがないであろう。」
「お前が何と言おうと、俺が見た物は見た。そして俺がいる限りエリお姉ちゃんには指一本触れさせないっ!!」
クウリがそう言うと教室のあちこちから「お〜」とか、「よかったね、アクエリ〜」などの冷やかしの声が上がり、アクエリは赤面し俯いた。そしてクウリも皆の反応を見て顔を赤くしたけど、ネビアを警戒し、目を離さない。
そんなクウリの態度と周りの空気はネビアを更に激怒させるには充分だった。
「おのれ〜〜〜・・・」
地を這うような声を発し、ネビアは目を細めてクウリを睨んだ。
「っ!!」
睨まれたクウリは体を引き締めてどんな事が起きてもアクエリを守れるようにする。そうやって二人の睨み合いが続き、少し経った後、動いたのはネビアだった。
しかし、ネビアはクウリに飛びかかるでもなく、逆に緊張を緩めて息を吐き出しながらクウリに話しかけた。
「いいだろう。あくまでその戯れ言に固執すると言うのであれば、私は自分の名誉を守る為の手段を取ろう。」
(手段・・・?)
「まさか・・・!」
クウリはネビアの狙いは分からなかったが、アクエリにはそれの心当たりがあり、それは彼女を怯えさせた。そして、続くネビアの言葉はその恐怖を本物にする。
「ティアレイクの弟。お前に決闘を申し込む!」
「決闘?」
「!!!」
言われた事が一瞬理解出来ず、クウリは首を傾げた。それと同時にアクエリが驚愕した。
「そう、私とお前との決闘だ。そしてお前にはそれを拒否する事はできない。」
「えっ、そうなの、エリお姉ちゃん?」
信じられないような顔をして姉に聞くクウリ。いくら名誉などが掛かっているといっても、決闘は二人揃わないとできないものだ。そして命懸けの戦いになるかもしれないのに、申し込まれた方に拒否する権利がないというのは些か信じられない。そんな思いでアクエリに聞いたけど、アクエリは残念そうに頷いた。
「ええ・・・身分が高い者が低い者に決闘を申し込むと、申し込まれた方に拒否権はないわ。」
苦々しくアクエリがそう言う。アクエリが言う通り、身分が低い者が決闘を申し込まれるとその者には拒否権がないのである。しかし、その逆はその限りではない。この制度は明らかに高い身分の方を贔屓しているが、いまだに改正されないのは身分が高い貴族がそれを許さないからだ。そして今日の場合、クウリは平民で、ネビアは王子。身分の差は天と地ほど違い、クウリには決闘の拒否権がない。
「そういう事だ、ティアレイクの弟よ。決闘は今からすぐに、と言いたいところだが、私も鬼ではない。一時間ほど待ってやろう。その間にお別れなど済ますのだな。何せ最後の時になるかもしれん。では一時間後、この校舎の前の広場でまた会おう。ふっ・・・」
ネビアはそう言い残し、嫌味たっぷりな笑顔でその場を後にする。
ネビアが去った教室の空気は重かった。皆はこの事態のゆゆしさを感じていたがどういう反応をすれば分からなかった。そして、それはクウリとアクエリにも当てはまった。
クウリはまだ深刻さが分かっていなかったが、周りの態度とアクエリの暗い顔でなんとなく感じ取っていた。
アクエリは教室で一番暗い表情をしていた。ネビアの剣の実力はラクに迫っているし、魔法の実力もアクエリほどではないものの、それなり強い。アクエリはクウリの剣の腕が高いと知っているし、認めているけど、それでも心配する。
そんな風に心配するアクエリをクウリはその側で見ていた。クウリは言うべき事は分からなかったけど、アクエリを安心させたくて取りあえず話しかけた。
「エリお姉ちゃん、大丈夫だよ! ほら、俺強いし!」
にっ、と笑い、アクエリを元気づけようとするクウリ。
「クウリ・・・」
泣きそうな顔でアクエリがクウリを見上げる。
「俺は負けないよ! エリお姉ちゃんを絶対に守るんだ! だからね? 心配しないで?」
「でも・・・」
「心配するより、一緒にあいつの攻略法を考えよ? その方が建設的だし、気が紛れると思う。」
「そうね・・・」
少しだけだが、クウリの言葉でアクエリの表情が晴れる。
「まず、私が知っているあいつの戦い方は・・・」
「なるほど・・・だったら・・・」
そしてアクエリは思い出せる限りネビアのことをクウリに説明し、二人で時間いっぱいまでクウリのための戦法を考えた。




