第十七話
ずっと一日アクセスが200〜300だったのが今週に入ってから1000〜2000まで上がっている・・・
一体なにがあったんでしょうか?
「エリお姉ちゃん・・・」
「・・・・・・ふんっ!」
喧嘩から一週間ほど後の朝、朝食後に寮の談話室でアクエリを見たクウリは手を振り、声をかけたが、アクエリは顔を背けてそれを無視して反対の方へ歩いていった。
それを見てクウリは肩を落として椅子に座り直した。
「はぁ〜〜〜・・・」
あれからずっとクウリはアクエリと話せずにいた。アクエリたちはクウリを教室まで迎えに来る訳もないし、寮で見かけても今のように無視されている。
(どうしたらいいかなぁ・・・)
幾日か過ぎてクウリは冷静になってアクエリと仲直りをしようと何回か話しかけていたが、アクエリは聞く耳を持たなかった。クウリは自分に非はないと思っているけど、それでもアクエリと話をする機会があればきっと妥協案かなにかを思いつけるはず。
「また駄目だったか、クウリ?」
落ち込み気味なクウリにケレイユが近づいて声をかけた。
「ケレイユ・・・はは、うん駄目だった。まだすごく怒ってるみたい。」
苦笑を浮かべてケレイユに答える。
「そうか。俺にできる事はあるか?」
あれほど仲が良かった姉弟がこんなに喧嘩が長引くとは思っていなくて少しでも問題が解消できるように手伝いたいとケレイユは考えていた。けれどクウリは微笑して首を横に振った。
「いや、今はまだ何もないけど、ありがとう。」
「うむ。だが何かがあればいつでも相談してくれ。できる限りの事をする。」
「うん、覚えておく。」
「そうしてくれ。それじゃあそろそろいい時間だし教室に行くか?」
「そうだね。あっ、ルミ!」
そろそろ寮を出る時間が迫り、二人が席を立つとクウリは近くにルミヒアの姿を見つけて呼び止める。
「おはよう、クウリ君。」
「おはよう。俺たち今から寮を出るんだけど、ルミも一緒に行く?」
「うん。アタシも今出るとこだったし丁度いいわ。」
「よし、それじゃあ行こっか。」
「「うん。(ああ)」」
それから三人は一緒に寮を出て一年生の校舎へと向かった。教室へと歩いている間、ルミヒアはクウリを元気づける為に色々な話題を振っていたが、クウリの反応は鈍かった。まだアクエリの事を考えていて、ルミヒアの話はほとんど耳に入らない。やがてルミヒアは小さく溜め息を吐き、諦めてケレイユと雑談しつつ歩いた。
** *
「うぅ〜〜〜〜〜〜・・・」
その頃、自分の教室に到着して椅子に座り着いたアクエリはクウリ同様、頭を抱えて唸っていた。クウリとの喧嘩が一週間も続いてアクエリもいい加減仲直りがしたいのだが、クウリの顔を見るとどうしてもあの時に感じた心の痛みが蘇ってそこから逃げたくなる。
「アクエリ?」
「ふぅ〜〜〜・・・」
「やれやれ・・・」
ここ最近、アクエリはずっとこんな調子でラクはお手上げ状態だ。それに理由を聞こうとしても—
「なあアクエリ、本当に、クウリ君とは何があったんだ?」
「むぅ〜〜〜〜〜〜ん・・・」
と、このように何も答えてくれない。アクエリとクウリを見ていれば二人の間に何かがあったのは分かるのだが、それが何なのかは全然言わない。
「はあ・・・ほら、もう授業が始まるぞ。頭を切り替えろ。」
「はあーい・・・」
気の抜けた返事をしてアクエリが身を起こし、のそのそと勉強道具を用意する。
そのすぐ後に先生が入って来て授業が始まったけど、アクエリはずっと上の空で先生の話を聞いていなかった。
授業はそのまま過ぎていき、今は午前の部が終わり丁度昼休みになったところである。
アクエリは相変わらず心ここにあらずという感じで、授業が終わった事にも気がついていない。そんなアクエリを見てラクは苦笑いをしてアクエリを食堂へと連れて行く為に立ち上がったが、その時にアクエリに誰かが近づいているのが目に入った。それは最近またよくアクエリに話しかけるようになったミスト王国第二王子ネビア・ダンストだった。新学年に入ってアクエリがいつもクウリといるようになってしばらくは諦めていたようだが、喧嘩の所為でアクエリはもうクウリに会いに行かなくなりこれ幸いとちょっかいを出し始めた。
「やあ、アクエリ。お昼を一緒にどうですか? 幸い、私は他の人との約束もないし、もっと仲良くなるいい機会だと思いますよ。」
「はぁ〜〜〜〜・・・」
しかしアクエリは話しかけられた事にも気がついていないらしく、溜め息を吐くだけだった。その間にもネビアはアクエリを誘おうと色々言っていたけどアクエリはネビアを見もしなかった。ネビアはそれでも諦めずに話しかけ続けたがアクエリの無反応に顔に出さなかったけど苛立ちを感じ始めていた。そしてそれが本格的な怒りに変わる前ラクは二人の間に入り、アクエリの腕を掴む。
「お、おい・・・」
「ほら行くぞ、アクエリ。お昼を食べ損ねる。」
「あ、うん、そうね・・・」
ラクに腕を掴まれてアクエリはやっと反応を見せる。そして立ち上がり、そのまま教室の外へと歩いた。
「ち、ちょっと待てアクエリ。」
自分を置いていく調子で歩くアクエリにラクが慌てて声をかけ、追いつこうと早歩きで離れた。
残されたネビアは二人が出て行く姿をただじっと見つめたけど、自分が無視されたのに気がつくと顔を歪めて誰もいないドアを睨んだ。
「ちっ! おい、行くぞお前達。」
忌々しげに舌打ちし、ネビアはいつも一緒にいる数人に呼びかけると自分もそそくさと教室を出た。
** *
(よしっ! 直接エリお姉ちゃんに会いに行こう。)
今日も授業中ずっとアクエリとの事をどうしようかと悩んでいると、クウリは考えるのを止めてそう決心する。ここ数日、クウリの考えは堂々巡りし、結局いい案が何も浮かばずにいた。そして今日も考えが何も浮かばないと、クウリは自棄になり、どうせこのまま何も変わらないのならちょっと強引でも会いに行く事にした。
その後、最後の授業が終了すると同時にクウリは荷物をまとめ、ケレイユやルミヒアが声をかける暇もなく教室を出て行った。廊下は授業から解放された生徒で賑わっていて急いでいるクウリはもどかしく思った。そんな生徒の波を掻き分け、クウリがやっと一年校舎を出ると、すぐにアクエリ達の四年校舎へと急いだ。
しかし、クウリは致命的な事を失念していた。
実はいつもアクエリがクウリを迎えに来ていたのでクウリは四年校舎に言った事はないのだ。その為、クウリはその場所を知らなかった! そして、クウリは慌てて出て来たから考えはそこまで至らなかった。
クウリがそれに気づいた時にはすでに遅く、クウリは盛大に迷い、すでに自分がどこにいるのかも分からなくなっていた。
(はあ、ここどこ? うん、話し声・・・?)
クウリが彷徨っていると、ふとどこかから誰かの話し声が聞こえて来た。そしてこれで助かったと思いその人たちに声を掛けようとするがその人たちの姿が見えると、そのうちの一人が酷く興奮していてクウリは声をかけるのを止めた。
それからクウリは絡まれてはかなわないと思いその場から離れようと静かに向きを変えたが、一歩踏み出す前にその人たちの会話から気になる単語が漏れて思わずその足を止めた。
「ちっ、アクエリ・ティアレイクめ! ミスト王国の第二王子であるこの私の誘いを幾度も断るだけでなく、無視しおって!」
「全くです! 一体何様のつもりでしょう。ネビア様に誘って戴けるのがどれほどの名誉なことが分かっていないのですか?」
(エリお姉ちゃん・・・?)
自分の家族が話題にされていればクウリが気になるのも仕方がない。その上、会話の雰囲気からは不穏な空気が感じられ、クウリを更に心配させていた。
(あれ? あの人は・・・)
集団の中で一番興奮している人を見ていると、クウリはその人を見た事があるのに気がついた。確か学校に来る前に王都でアクエリと買い物をしていた時に会った・・・ネビア・ダンスト、ミストの王子。そう言えば、アクエリはネビアがしつこく自分を誘っていたと言っていた。今回の癇癪もそれと関係しているのか?
そこまで気がついて、クウリは本格的に彼らの話を盗み聞きする姿勢を取った。
「ふん、その通りだ。まったく・・・これほどの侮辱は初めてだ。この私に恥をかかせたことを後悔させて見せようぞ。」
「はい! 私もそうすべきだと思います。」
「ああ。アクエリめ。光栄に思い、誘われるままに従えばよかったもの。だからこういう目に会うのだ。」
「そうですね。それで、ネビア様? どうやってティアレイクの奴を後悔させますか?」
「そうだな。誰か適当な奴にアクエリを人気のない場所に呼び出し、それから私の部屋まで連れ去ろう。いくら彼女が強いと言っても、私たちが数人掛かりで襲えば倒せるだろう。そして部屋まで連れて行けばこちらのものだ。何せ、私は王子だからな。事が終われば彼女がいくら喚いても無駄だろう。」
「グヘヘ・・・そうですね。ネビア様、私たちにも“楽しむ”時間をくれますよね?」
下品な顔を浮かべて取り巻きの一人が聞くとネビアは眉をひそめた。
「その品のない笑いを止めろといつも言っているだろう。」
ネビアはそう注意してから今度は下卑た笑いを浮かべてその問いに答えた。
「私が終わった後に好きなだけ“楽しむ”と良い。」
「ひゃっほう! さすがネビア様です!」
ネビアの了解を得てその人は大いに喜び、周りの人たちも同じような反応をして喜びを表した。
クウリはそこまで聞き、もはや我慢できずに勢い良く茂みから飛び出た。
「!!」
ネビア達は突然の闖入者に驚き、動けなくなっていた。だが、乱入してきたのがたった一人の下級生だと気がつくと皆は安堵して、今度は嘲笑を浮かべながらネビアがクウリに話しかける。
「どうしたんだい、君? もしかして迷子かな? それなら道はあっちの方だよ? 早く行ったら?」
ネビアは親切そうにそう言ったが、クウリの事を見下していた事はすぐに分かった。しかし、それが無くてもクウリは怒っていた。
「うるさい! お前ら、エリお姉ちゃんに何をするつもりだ!」
「エリお姉ちゃん・・・? もしかしてアクエリの事? そう言えば君、前に会った事があったアクエリの弟?」
「そうだ、エリお姉ちゃんの弟のクウリ・ティアレイクだ! お前達の計画は聞いた。絶対にそんなことをさせないぞ!」
クウリにバレた事を知り、ネビア達が舌打ちをする。
「ちっ、知られたからには仕方が無い。お前達、こいつを捕まえろ。そしてどこかに監禁してアクエリとの事が終わるまで誰にも会わせるな。分かったな?」
ネビアから命令を受けて他の人が頷いてクウリを捕らえるべくこっちに体を向けて来る。
クウリはそんなネビアの取り巻きを見ながらどうしたらいいのかを考えていた。剣も何も持っていない今の自分では多分戦っても負けるだろう。そして、こっちと奴らとの距離は大体10メートル。ならばどうするか。どこかの偉い人も言っていたではないか。『三十六計逃げるに如かず』と。こちらの勝利条件は敵の全滅ではない。アクエリに危険を知らせてそれを回避させることだ。
クウリはそう考え、逃げる事に決める。そしてそう決めると、相手に気づかせないように徐々に身体強化の魔法を使い始める。
クウリがエーテルを集めている間、奴らは様子を見ながらじりじりとクウリを包囲するために動いていた。そしてその包囲が完成する直前、ネビアは異変に気がつき声をあげた。
「おい、やつは魔法を使っている! 早く捕まえろ!」
「「「!」」」
ネビアがそう叫ぶと、包囲が完成していないにも関わらず彼らがクウリに襲いかかった。
しかしネビアが叫んだと同時にクウリは一気にエーテルを汲み上げ、限界まで体を強化させて包囲の穴を抜けてその場から逃げた。
ネビア達はクウリの思いも寄らなかった爆発的なスピードに少し呆然としたけど、ネビアはすぐに正気に戻ってクウリの後を追わせた。
ネビア達から逃げたクウリは強化魔法を持続させたまま、最初にネビアが教えてくれた道を探し当てると四年生校舎らしき建物を見つけてそこに駆け込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
人気のある場所に来てクウリは一旦足を止めた。しかし、まだ安心はできなかった。追っ手はすぐ後ろまでに来ていたし、まだアクエリに会えていない。そう思うとクウリは自分に活を入れてアクエリを探す為に校舎の中に入った。
アクエリの教室は前に聞いていた。クウリはそこを目指し、早歩きで向かっていたが途中で分からなくなり近くの人に道を聞いた。そしてようやくアクエリの教室にたどり着き、アクエリの名前を呼びながら中に入った。
「エリお姉ちゃん!」
教室中に突然クウリの声が響いて周りの生徒から注目を浴びる。それはアクエリや一緒にいたラクも例外ではなく、クウリの姿を見たアクエリはとてもびっくりした。
「クウリ!?」
教室に入ったクウリはアクエリを見つけて彼女と話すために近づいた。
アクエリはそれでもクウリと話そうとしなかったけど、突然の出来事に戸惑いを隠せなかった。しかし、もはやクウリに取っては自分達の喧嘩は小さな事だったし、アクエリと話す為なら自分の意地を捨てても構わないと思っていた。というか、ネビア達の話を聞いて元々なくなりかけていた怒りが吹っ飛んだ。
「エリお姉ちゃん、練習の事を黙っていた事は謝る。練習もエリお姉ちゃんと話し合うまで止めるから許してください、お願いします。」
頭を下げながら許しを請うクウリ。
アクエリはいきなりの展開に付いて行けず、あっけに取られていたがクウリの言葉の意味を理解すると慌てだした。
「と、とりあえず頭を上げて、クウリ。」
アクエリがそう言うとクウリは躊躇いながら頭を上げた。
「じゃあ、許してくれる?」
「う、うん。私も色々と言いすぎたし。私にも謝らせて。ごめんなさい。クウリの方こそ私を許してくれる?」
「当たり前だよ、エリお姉ちゃん。」
二人はこうして許し合い、一週間続いた喧嘩はあっけなく幕を閉じた。




