第十一話
一年生の校舎から離れている図書館へと向かう道中、クウリは調べものについてまだ何も知らないルミヒアに説明していた。
「ふーん、確かにそれは変だねー。アタシも聞いた事ないよ、粒の事なんて。」
そして思っていた通りの返事が返ってくる。
「まあ、そういう訳で図書館に向かっているんだ。」
「なるほどー。でもどんな本を見たらいいのか分からないよね。」
「そうなんだよ。まさか『魔法と粒の関係』見たいな本は無いだろうしね。ルミは何か考え、ない?」
『うーん』とか言いながら考えるルミヒア。
「アタシはないかなー。エレメント魔法について書いてある本を片っ端から調べていくぐらいしかないんじゃない?」
「やっぱり? はあ、5人掛かりでも一体どれほどの時間が掛かるのやら。」
調べたいことが余りにも不明瞭で、それだけについて書かれた本はないのだろうとクウリは思っている。どれかの本の章の一つ丸ごと粒について書かれていたら踊って喜ぶだろう。だけど、何も見つからない方の確率が高いだろう。
そんなクウリの参った感情が顔に出ていたのか、ルミヒアはクウリを励まそうとする。
「まあ、とにかくがんばろ! きっと何かが見つかるよ!」
元気よくそう言うルミヒアのおかげでクウリは少しだけ元気を出す。
その二人の姿はまるで十年来の友達のようで、アクエリはクウリが新しい友達を作っている事を嬉しく思っていた。
(でも、どうして仲良くなる子がかわいい女の子なのよ!)
** *
15分程歩いて、五人は図書館の前に到着した。
「ほえー、大きい〜・・・」
「ほんと、そうだね〜」
まだ図書館を見た事がないクウリとルミヒアは口を開けて唖然とその巨大な建物を見上げていた。図書館は各学年校舎と同等かそれ以上の大きさで、左側を見ればカフェテラス完備の食堂が見える。更に、中には本だけでなく、他の人の邪魔にならないように団体用の勉強部屋もある。これで寝室まであったなら、図書館で生活できるかもしれない。もちろん、蔵書も半端無いが、そんな訳で図書館の大きさは普通の図書館とは比べもできない。
「さ、クウリ、早く中に入ろう!」
クウリとルミヒアの親しげの姿についに我慢できなくなり、アクエリはクウリの手を取って図書館の中へと誘う。
アクエリのいきなりの行動にクウリはやや動揺しながら、アクエリの手を振りほどく訳にも行かず、よろめきながらアクエリに続いた。そして、突然一人残されたルミヒアは図書館の入り口がバタンとクウリ達の後ろに閉まるまでそこで立ち尽くしていた。
「さて、早速調べものを始めたいけど、その前にどんな本を見たらいいのかを相談した方がいいと思うの。」
図書館に入り、適当なテーブルを見つけて座ると、アクエリが皆に話しかけた。そしてラクは片手を上げて声を上げる。
「それについては私も考えていたが、とりあえず魔法についての考察が書いてあるものとか、魔法の参考書とかを読んで行くしかないんじゃないのか?」
ラクのその言葉に肯定の頷きをするクウリとルミヒア。
「それもそうね。それじゃあ、魔法理論の本が置いてある部門から何冊か取って来て手分けしてそれらしい事が書いてある本を探しましょう。」
他の皆も異存はなく、そうと決まり、取りあえずは五人で持てるだけの本をテーブルに持ち帰った。
「うーん、だめだー。何も見つからないー。」
調べ始めてから数時間が経ち、そろそろ日が沈む頃、背伸びしながらクウリは読んでいた本を下ろし、隣で本を読んでいるアクエリに話しかける。
「エリお姉ちゃん、何か見つかった?」
クウリの声を聞くと、アクエリは読書を中断して頭を横に振りながら残念そうに結果を告げる。
「全然。どれも同じような事ばっかり。魔法の基本理論とか応用とか。時々、上級魔導士用の魔法理論も書いてあるけど、どれも粒について触れていないわ。」
アクエリがそう返事をすると、他の皆も頷いた。
「こっちも似たようなもんだ。粒の事は全然書かれていない。」
と、ケレイユ。
「こっちもダメー。はふー、お腹空いたー。」
テーブルの上に上半身を投げ出しながら言うルミヒア。そして夕食の時間が近づいており、その上、本を読みふけるのは頭を使い、それも疲れさせていた。
「そろそろいい時間だし、今日はもう終わるにするか?」
疲れているのはルミヒアだけではないと知っているラクがそう提案し、クウリの方を見る。
見られたクウリは不思議そうに『俺?』と自分を指差しながら言うけど、ラクが頷く。
一応クウリの為に図書館に来ているのだから、切り上げるかどうかを任せるのはある意味道理である。
「うん、今日はもういいかな。明日からは週末だから、時間はたっぷりあるだろうし。あっ、もちろん何か予定があれば手伝わなくてもいいよ。」
クウリは手伝いを強制したくなく、皆にそう言う。
「他の人は分からなんが、ここまで来れば、最後まで付き合うさ。それに、結構気になるしな。」
「うん、それに他にやることないしねー。」
と一年生たちが言うと、上級生の二人も『うんうん』と頷いた。
「ありがとう、皆! じゃあ、この借りて来た本を戻したら帰ろっか。」
テーブルの上に散らばっているたくさんの本を指しながら言うクウリ。
そして言い終わると、クウリたちは本を集めだして、本棚に戻すべく勉強部屋を出る。
「”えーっと、これはここで・・・この本は・・・ここかな?”」
「クウリー、まだ終わらないー?」
本の返却に手間取っていると、アクエリがクウリを呼びに来た。
「もうすぐだよ、エリお姉ちゃん。・・・と、最後はこれか。」
そう言ながら手にある本に視線を落とす。すると、本の題名が目に入る。
『アクオス・ティアレイクの自伝』
(あれ? こんな本借りて来たっけ・・・まあ、多分他の人が持って来たんだろう。)
そう結論するクウリ。しかし、気になるのは本のタイトル。『アクオス・ティアレイク』。ひょっとしたらアクエリと縁戚関係なのだろうか。
そう思うと、途端にその本の中身が気になり始める。
好奇心に負けてクウリが本の表紙をめくり、読み始める寸前にまたアクエリの催促が聞こえる。
「クーーリーー」
そう言えば、皆を待たせていたとクウリが思い出し、本を閉じる。
「”っと、この本は借りていくか。ちょっと古そうだけど、特別に保管されていた訳でもないみたいだから多分大丈夫かな。”・・・エリお姉ちゃん、いまいくー。」
クウリが本棚の奥から出てくるとアクエリが待っていた。
「あれ、クウリ、その本どうしたの?」
出て来たクウリが手に本を持っているのを見たアクエリが聞く。
「あっ、これ?」
言いながら本を上げるクウリ。
「ちょっと題名が気になって、借りて行こうかなと思った。調べ物とは関係ないよ。」
アクエリに題名が見えるように表紙を見せる。すると『アクオス・ティアレイク』と言う名が目に入り驚く。
「あれ、これって御先祖様じゃない!」
「えっ、本当にエリお姉ちゃんの家の人だったの?」
そうならちょっと面白いかな、くらいにしか思っていたクウリが驚愕する。
「うん。へえ、あの人、自伝なんて書いたんだ。」
「エリお姉ちゃん、その人ってどんな人だったの?」
「えーっと、200年前ぐらいの人なんだけど、私たちの御先祖様で、実はその人、水の賢者だったの。」
「水の賢者! すごい人だったんだ・・・」
「あはは、まあ、確かに魔導士としてはすごかったけど・・・ちょっと変わった人でもあったみたいね。」
苦笑しながらそう言うアクエリは明らかにオブラートに包んで言っていた。まあ、御先祖のことならあまり悪く言いたくはないのだろう。
「変わった人・・・」
「うん。賢者で魔法の実力がすごかったのに、王宮から離れて過ごしたり、普段は魔法に触れずに生きていたりね。」
「なるほど、それはちょっと変かも・・・」
「まあ、そんな人だったからかな。今ではもうそんな賢者がいたことも普通の人たちは忘れているのかもしれないわね。その直系の私が自伝とかあったことを知らなかったくらいだし。」
「あはは・・・」
「ねえ、クウリ。クウリがそれを読み終わったら私にも貸してくれない? 私もちょっと御先祖様がどんな生き方をしたのかはちょっと気になるし。」
「うん、いいよ! なんだったらエリお姉ちゃんから読んでみる?」
「それはいいわ。別にすごく読みたい訳でもないし。多分クウリと同じ程度の関心しかないわ。」
「それじゃあ、俺から読むね。」
「ええ。それじゃあ行きましょうか。皆も待っているわ。」
「うん。あっ、そう言えば本を借りる手続きはどこでやるの?」
そう言えば知らなかったと思い出すクウリ。その様子がおかしかったのか、少し笑うアクエリ。
「ふふふ。入り口の近くに受付の人がいるから、その人が手続きをやるわ。」
「なるほど。じゃあ行こう、エリお姉ちゃん。」
「ええ。」
そして、クウリとアクエリは手に本を持ちながら皆と合流するために本棚を離れた。




