第九話
クウリの魔法暴走事件の翌日、クウリは無事退院し、体のだるさが残るも授業に参加していた。
クウリはクラスメート達を危険に曝してしまった事にちょっと罪悪感があり、教室に入る時僅かに躊躇したがケレイユの後押しで扉を潜ると心配していたクラスメートの襲撃を受けた。
「ティアレイク君、大丈夫なの?」
「クウリ、もう授業に出てきていいのかよ?」
「うん、先生が守ってくれたおかげで怪我はないよ。ちょっとだるい感じがするけど、別に心配しなくてもいいって言われた。」
皆はそれを聞いて一同、安心する。
そして安心するとそのまま心配げな視線が好奇心に変わる。なにせ、暴走したクウリの魔法を直接見たのだ。その上、昨日は学校中が暴走した極大魔法の噂で持ち切りだった。その所為もあってクウリの一番身近にいるクラスメート達は他の生徒に質問攻めにあっていた。すると、自然とクウリの事が気になったけど、怪我の事もあったからいきなり魔法について聞くのはなんとなく気まずかった。
「よかった・・・あのあとずっと見なかったから結構心配だったんだ。一応先生にも酷い怪我はないって言われたけど、やっぱりこうして無事な姿が見られて安心するよ〜。」
そう言ってくれたのは活発そうな女の子。
「はは、ありがとう、タレインさん。」
ルミヒア・タレイン。クラスメートの一人で何度かお昼を一緒にした事がある娘だ。
「もう、ルミって呼んでといつも言っているでしょう?」
「うん、ごめん、ルミ。」
ちょっと照れながらクウリは呼び名を訂正した。ルミは少し馴れ馴れしいところもあるけれど、その生まれつきの陽気さのおかげでそれは全然不快に感じられず、ルミは以外と慕われている。そしてクウリも個人的にルミは気になっている。
その一番の理由はルミがなんとなく懐かしい感じがしたからだ。そう、ルミの事を知れば知るほど、その雰囲気や言動が真由に似ていると感じていた。
クウリがそんなことを考えているとルミは好奇心でいっぱいな顔を浮かべて他の生徒も気になっている事を聞く。
「それで、それで。クウリ君のあの魔法、危なかったけどすごかったよね。」
それを聞いてクウリは「あはは・・・」と頭を掻きながら笑う。
「それで気になってたんだけど、クウリ君ってば、ひょっとしてすごい人?」
口に手を当ててニシシと悪戯っぽく笑う。
「すごいか分からないけど、ちゃんと制御できないと全然意味がないよ。」
「えぇー、でもやっぱりすごいよー。先生達もあんなすごいの見た事がないって言ってたよ。さすがはティアレイクとも言ってたし、今頃お姉さんも色々聞かれてると思うよ。」
ルミの言う通りその頃のアクエリもクウリ同様、クラスメートに謎の弟について質問攻めにあっていた。「弟がそれほどすごいのかを知っていたか」とか、「弟は大丈夫だったのか」とか、「弟の好きな女の子のタイプはどんな」とか。最後のだけにアクエリはピクリとしたがそれを表に出さず、質問に答えていた。幸いなのは一年の校舎が離れているのでまだクウリが義理の弟と知られていない事だ。もしそれが知られていたらきっと皆の反応は更に大きかったのだろう。
アクエリがどうにか皆の質問をいなしていた時、ラクと言えば笑い声を押し殺しながら親友のオロオロする姿を観賞していた。そして心の中できっと同じような事態に遭っているクウリに冥福を祈った。
しばらくすると両クラスに教師が到着し、二人のティアレイクはしばしの平穏にほっとした。
先生が到着し、授業が始まり、周りがやっと静かになるとクウリは席で考え事をしていた。教室の前で先生が講義をしていたがクウリには全然聞こえていなかった。
ルミにも言っていたけど、いくら魔力がすごくても制御ができなければ意味がない。となると、問題はどうして魔法が暴走したのかを突き止めることだ。いや、どうしてそうなったのかは簡単だ。
エレメント魔法を発動させた瞬間に頭の中を襲ったあの無数の粒のイメージ。いきなりの情報の奔流に混乱し、魔法の制御を誤ったのだ。
(あれは何だったんだ?)
普通の魔法を使った時にはそんな物は見えなかったからあれはきっとエレメント魔法特有の現象なのだろう。そして、これは推測だがあれは水の分子だったのではなかったのかと思っている。水、エイチ・ツー・オー、水素二つと酸素一つの化合物。見る人によってはミッ○ー・○ウス。
とにかく、もしそうならエレメント魔法とは分子レベルでの水の操作で、優秀な魔導士は10の33乗(約二万リットル、ちなみにオリンピック級のプールならこれの約百倍)とか想像もできないほどの数の分子を扱っているのだ。普通なら考えられない。どう考えても脳の方が先に参る筈。
そこでクウリが思ったのは、きっとこの世界に生まれた人は生まれつきの何かによってその精密な操作が可能になることだ。
無論、これら全てはただの思いつきで全くの見当違いの可能性もあるが、クウリの勘はこれが正しいと自分に告げていた。後は他の人に聞くなりなんなりをしてそれを確認すればいい。




