5.第-0世界
セカイ総議会後。
ゼリアスはゴシック調の一室で机に向かい、腕を組みながら考え事をしている。
そこにコンコン、と扉を叩く音が響いた。
「入ってくれ」
ゼリアスが声をかけると、彼と同じく漆黒の肌をした、女性の準神が扉を開ける。
「どうした、セナ」
セナと呼ばれたその女性は、青みがかった長い黒髪、深い群青の瞳をしていた。
第2セカイを代表する漆黒、その色で仕立て上げられた気品を感じさせるドレスは彼女の一部であるかのようだった。
凛とした仕草で入ってきたセナが、藪から棒に問いかける。
「ゼリアス、あれはどういうつもりですか?」
咎めるというより、困惑の色を多分に含む声音だった。
ゼリアスはふむ、と間をおいて答える。
「どういうつもりもなにも、我々第2セカイの信条通り……弱肉強食だ。権限を持っていれば奪う、そうでなければ反抗する気も起きないほど徹底的に痛めつけ、今後我々に手を出す選択肢を持たせない、それだけだ」
「わざわざそこまでしなくても……」
「むしろ最初から無視するより、彼に力を証明させるチャンスを与えている分、優しいというものだ」
「……本当は個人的な感情ではないのですか?」
「フフッ、まあ、あそこではそう見えただろうし、そう思ってもらっても構わない。ただし決定事項だ、やめるつもりはない」
セナはゼリアスの瞳を見つめる。その奥にあるものが何なのか、セナには分からなかった。
「……あなたは変わりました。最初は非常に勤勉で真面目な、優しい人だと思っていました」
「今でもそうだが?」
「違う」
セナは断言するようにピシャリと言い放った。
「あるときから、明らかに変わりました。以前の君ではなくなりました」
セナは昔を懐かしむような、淋しく思うような心持になる。
「私は知ってます。君は誰よりも努力をしていました。誰よりも弱いことを認め、受け入れ、そのための行動をしていました。誰よりもシュミレーションルームで研鑽を積んでいました。あの時の君はさわやかな笑顔をする人でした」
ゼリアスは自嘲気味に笑った。
「そんな風に見えていたんだな、俺は」
「けれど、何かが、君を変えました。確かに弱肉強食がうちの理念ではありますが、その中でも弱者であることに甘えず、努力をし続け、弱者を見下す人ではありませんでした。一体、君に何があったんですか? 教えてください」
二人はお互いを牽制し合うように、しばらく見つめ合う。そしてゼリアスはフッ、と笑った。
「変わった、か。いいや、俺は何も変わっちゃいない。最初から、心の奥底では、何もできない自分を呪い続けていた。いつか、この手で他の奴らに届かないところを掴みとってやろうと思っていた。ああ、そうだ……ずっと、ずっと。人だった頃から俺は落ちこぼれで、指をくわえて他人をうらやましがる事しかできなかった」
悔しさを思い起こしたゼリアスは手を握りこむ。手からは血が滲んでいた。
「しかし、ついに、俺には運が回って来た。どんなにもがいても手に入らなかった、『才能』というやつを、近いうちにこの手にすることができる……」
ゼリアスはセナの方へ振り向く。
「セナ、」
ゼリアスは不敵な笑みを浮かべていた。
「この世界の1から7、0、-1から-7……それら数直線上の世界達から外れた世界……世界の理・世界の枠から外れた世界」
ゼリアスは眼を細めた。
「第-0世界、-0世界を、君は知っているか?」




