4.宣戦布告
……ノートは朦朧とした意識を覚醒させてゆく。
無意識に体を起こそうとするが、そこで違和感があった。なんだか体が重い。
その瞬間、気づく。ここには下向きの重力があるのだ。
さっきまで何をしていったっけ………
はっきりしない意識の中、頭を動かそうとする。
確か、そう、だ、陽月に頭を突かれたあと、起きたら、ここに......?
周囲を見回すが、陽月はいつの間にかいなくなっていた。重力の支配を受けた体をがんばって持ち上げ、起きる。
そこは広大な議場だった。
議場と言っても、球状の空間であった。横に5つ並んだイスと演台の間にノートは倒れており、遠目にも6つ、同じようにイスや演台があって、この球状の空間の内壁に沿って配されていた。
そのイスにだれか座っている。遠すぎてよく見えないが、ノートには確信のようなものがあった……あれは他のセカイの準神である。
そしてこの球状の空間の中心にも豪華な演台が浮いている。演台の奥には、大きなウィンドウが浮いていた。
ノートが物珍しそうに見回していると、その大きなウィンドウに、誰かが映る。
黒髪で、黒い瞳をした少女。
「皆さん、聞こえてますか? ………うん、はい、はい、大丈夫そうですね」
澄んで美しく響く声だった。
いつの間にか中心の豪華な演台の周囲に、6人も知らない人物が現れていた。
誰も彼も天使然とした、長い布を巻きつけたような格好をしていたが、腕や足を取り外しては色の合わない別の真っ白な肢体を取り付けて恍惚の表情をしていたり、目玉を付け替えたりなど、「少し変わった」人達ばかりだった。
そのうちの一人が演台で話しているらしい。
確認しているのだろうか、こちらに尋ねるように呼びかけてくる。
しかし、彼女姿をよく確認した瞬間……ノートに衝撃が走った。
「陽月……?」
……声も、髪も瞳も漆黒をたたえているが、その均整のとれた顔、作り物めいたサラサラの肩口までの髪はどうみても……陽月と同じだった。
「あなたはいったい……誰だ?」
双子だと言われても信じるレベルで瓜二つの顔を見て、狐に化かされているように錯覚する。
ノートの混乱を他所に、ウィンドウの中の女性は淡々と進める。
「では、セカイ総議会、はじめます。本日もお加減のよろしくない『神』に代わりまして、議長は天使である私、『テレイオーシス』が務めます」
天使と名乗ったところを見ると、どうやら陽月と関係がありそうではあった。
「でははじめに、しばらく空席だった第7セカイに、新しい準神の方が選ばれました。その方にご挨拶をいただくところから始めます第7セカイの方、目の前にある演台までどうぞ、あいさつをお願いします」
それを聞くと、ノートに一瞬で緊張が走る。
目の前の演台の足元が光った……来るよう、促している。意を決して演台へ歩いてゆくと、中心に浮かぶウィンドウにノートが大映しになる。
他のセカイの準神達が、ノートへ視線を向けているように感じた。……様々な視線がノートを見ている。その事実だけでノートの口の中はカラカラだった。
しかし、これから世界を変えようというのに、こんなところで尻込みしているようではだめだと自らを鼓舞する。
覚悟を決めたノートは深呼吸をし、口を開く。
「僕は第7セカイの準神になった、ノート。何で準神になったか……それはこの世界がおかしいからだ……! 何も悪くないのに人は理不尽に死ぬ、誰かが戦争を始めれば、始めたやつは戦わずに、始めるなんて言っていない国民が死んでいく……こんなの間違っている……! なら……やってやる。僕が君達みんなぶっとばして、権限を手にして神になる、そして……」
ノートは、見えない準神達に向かって、殴りつけるように宣言する。
「僕は、この世界を革命する!!! そして人々を、楽園に導くッ!!!」
ノートは、拳を胸の前で握った。ノートは自らの言葉によって興奮していた。
「……以上です」
ノートは言うべきことを言いきったとテレイオーシスに視線を向けた後、すぐに踵を返して立ち去ろうとする。
その後ろから、嘲るような笑い声が微かに聞こえて来て、ノートは足を止める。眉根を上げ、咎めようかとも思うが、お互い敵同士、挑発であることはすぐ分かった。笑わせておけばいいと思い、そのまま戻ろうとする。
そのとき。
「……待て」
それは、テレイオーシスの声ではなかった。
低く、冷たい印象を受ける、若い男の声だった。
ウィンドウには、一人の準神が映され、こちらを見据えていた。
飲み込まれそうなほどの漆黒の肌に、燃える上がるような内の心を表した真紅の瞳、すらりとした長身で、長めの白髪をした青年だった。
彼がその黒いコートを翻しながら腕を組み、鋭い視線でノートを貫く。
ノートはその敵意をまるで隠さない瞳に応じるため、再び演台までやってくる。
「なにか?」
「……俺は第2セカイの準神、ゼリアスだ。お前が第7セカイの準神か」
「そうだけど」
「ふん、先程から物を知らない不遜な態度だな。端的に言おう……お前のセカイに『セカイ戦』を仕掛けると、宣戦布告させてもう」
「セカイ戦?」
「そうだ、互いのセカイが持つ『権限』をかけて戦う」
「……互いと言うけど、僕は権限なんてもの、持っていないぞ?」
「誰がお前の言葉なんて信じる? そもそもこの第0世界全体でいくつ権限があるのか、誰も把握していない……神以外な。お前が持っていてもおかしくない」
「待てって! だから準神になった僕がそんなもの持ってるわけ……」
「話は以上だ」
ゼリアスは一方的に話を切り上げると、さっさと行ってしまった。いくら呼びかけても戻ってくる様子がないのを見て、ノートは諦めて演台から離れた。
その後も会議は続いたが、元々ノートの知らない話ばかりだというのと、ゼリアスのことで頭がいっぱいでほとんど内容は分からなかった。




