3.新世界
「世界の……外側? そんなとこに何が……そもそも行けるの……って」
ノートの疑問をよそに、陽月は繋いだ手を引っ張りながらふわりと軽く舞い上がる。
陽月の、一切の歪みのない美しいストレートな白い髪が放射状に広がり、目を奪われる。
そのうちに、浮いた二人の足元に透明な厚いボードが展開されると、見えない誰かに突き飛ばされるようにーー空に向かって勢いよく飛んだ。
「っああああああああっ!!!???!?!?」
どんどん遠くなっていく地面に、ノートは驚きの声を上げると共に落ちたらただじゃ済まないと本能で感じてすくんでしまう。
「私が出した、『プリズム』っていう透明なボードで飛んでるんだよ。プリズムには反発力と、引き付ける力ーー斥力を付与できて、今は反発力を使って飛んでるんだ」
陽月とノートの足元には、一定間隔で透明な厚いボードが展開され、一定間隔で全身が押されるような感覚がある。
ノートが眼下を望むと、崩壊した街並みが広がっていた。それはミニチュアのように小さくなってゆく。
風を切り、雲を越え、やがの景色は世界地図で見るようなものに変わって行き、見上げると暗い宇宙が広がっていた。
恐怖はすでにもうなくなり、夢の中で自由に羽ばたいているかのようだった。
二人は加速し続け、そしてついには地球が大きく眼下に現れる。
どこまでも続くように思われるような、吸い込まれるような漆黒をたずさえた宇宙、そこに浮かぶ太陽、月、星々。ノートは今、地球と宇宙の狭間にいる。
「どう?」
上昇を止めた陽月は、地球を見下ろしながらノートにたずねた。
「現実とは思えない……」
映像や書物でしか見たことのない地球の景色に圧倒される。本物は視界いっぱいに、その大地や澄んだ空気の脈動が広がっていた。
二度と見れないかもしれないという予感めいたものを胸に抱きながらしばらく見入ったのち、ノートは陽月に振り返る。
「行こう、陽月が行くって言ったところに」
「大丈夫そうだね、じゃあ行こうか」
陽月は再び進み始めた。遠く遠く、どこまでも続く宇宙へ進みはじめる。
星は流星のように後ろへ駆けてゆき、星間の世界を進んでいる。
陽月はさらにプリズムを展開、二人は信じられないほど加速してゆく。
景色は魚眼レンズの風景のように歪んでいき、視野が狭くなる。色は青を越えて、全てが真っ黒になっていった。
その黒い世界を、二人は突き進んでいった。
……二人は謎の天体の前に辿り着いた。
「.......着いたよ」
渦を巻いて、その垂直方向に竜巻のようなものが付属している、とてつもなく巨大で漆黒の天体があった。
「……あれは、なんだ?」
「あれはこの銀河の中心にある、巨大ブラックホール」
「銀河の中心の、ブラックホール? 世界の外に行くのに、中心に僕たちは向かっていたの?」
「そう。銀河の中心にあるブラックホールを通じて、出口のホワイトホールから宇宙の外に出られるんだ」
ノートは天体のことについては分からず、ただ、その壮大すぎるイメージをなんとなく想像するしかなかった。
「……僕にはよく分からないが、そこに何かあるから連れてきたんだよね? なら、連れて行って」
「そうだね、じゃあ、行こうか」
陽月は周囲にプリズムをさらに展開する。
プリズムは前方に円錐のような形をとった。
......次はどんな空間が、世界が広がっているのか。
ノートは未知なる世界への期待と不安で、いっぱいだった。
陽月はそんなノートの不安を感じ取ると優しく手を握り返し、微笑んだ。
それを合図に、二人はブラックホールへ向かって進んでいく。
横殴りの激しい衝撃が襲い掛かり始めた。
光によってなにも見えなくなる。激しい光の流を進んでいると、突然、目の前が真っ暗になった。前後も左右も分からない暗闇を二人は進む。
そうして進んでいるうちに突然、光が二人を襲い、ノートは目をくらます。
だんだんと光が弱まっていき、ぼやけた視界が輪郭を取り戻していく。
ノートは周囲を確認した。
ーー白く、とにかく広い空間だった。
その静謐で広大な空間の中に、いくつもの巨大な球体のようなものが6つ、物言わず浮かんでいた。空間の中央には、全面が基盤の立方体が浮かんでいる。
どれもこれも、天体と変わらない大きさをしていた。
「ここはね、君のいた世界の外側。世界は七つあるんだ……そのうちの一つが、君のいた『第7セカイ』。あれがノートのいた世界」
陽月は振り返る。ノートもつられて振り返ると、背後には地球程の巨大な白い球体があった。
「あそこから私達は出てきた。あの球体の中に君のいた宇宙が圧縮されてるんだよ。そして周りにあるのが『第1セカイ』から『第6セカイ』。それぞれノートの世界のように、宇宙があるんだ。そしてあの真ん中にあるのが『エルピス』。あそこがどの魂を準神にするのか決めたんだ」
陽月はこのいまいる場所を示すように、両腕を広げた。
「そしてこの第1から第7セカイの集まっているここは、「第0世界」。ここと対を成す『マイナス世界』っていうのもあって、そこにも第-1セカイから第-7セカイ、それらはマイナスをダッシュに見立てて-1、-2と呼ばれる場所まであるんだ。そしてここからが本題……」
……ノートはそのあまりの世界の広がりに、ただただ呆気に取られていたが、陽月の言う本題という言葉に釣られて向き直る。
「本題……?」
「そう、君が戦うのは……この第1セカイから第6セカイの準神達となんだ」
「何だって……? 他の世界と、神の座を争うってこと?」
「そう。そして他のセカイの準神か持つ『権限』と呼ばれる強力な能力を、神の交代までに一番多く手にしていたセカイから神が選ばれるの」
「そうか……他のセカイと争った上で、自分のセカイの、他の準神とも争うことになるのか……それでも、やってやる」
ノートが戦いの厳しさに気を引き締めていると、突然陽月から予想だにしないことを言われる。
「ノート、君にはぜひ勝ってもらいたいんだ。君の考え方が倫理レベル+50だとして、他のセカイはだいたい-100億とか、そういうところばかりだからね」
「……え?」
「じゃあ、今から全てのセカイの準神が集まった『セカイ総議会』があるから、それに参加してね」
いきなりそういうと、陽月は人差し指でノートの額をトン……と突き、ノートは一瞬で意識が混濁した。
何が起きたのかと、ようやくうわ言のようなものを言うのが精一杯で、無重力の中、後ろにゆっくりと遠ざかりながら気を失っていった。




