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私は、光属性/☆8 その6

 道中、また襲ってきた魔物をセレアイラさんがサクッと倒す。握り拳程度の水礫(みずつぶて)を飛ばすだけのはずの最下級魔法が水塊で圧殺する範囲攻撃に化けているので、戦闘が終わると、周囲が水浸しになっている。

 そういえば、最初に魔物を倒したときは、水の槍を撃ち出す魔法のはずが、ウォーターカッター乱れ撃ちみたいな規模になって、地面まで穴ボコ賽の目状になってたっけ……。

 いくらなんでも威力上がりすぎじゃないかと、その原因である自分のことを棚に上げて思ってしまった。

 まったく誰だよ、『元々の攻撃力の倍の数値分アップする』って頭悪い効果考えたのは――私だったわ。

 まぁ、カードゲーム的に雑に攻撃力とは書いたけど、実際問題として、数値がどうなってるのか、まだ見てないんだよね、私。ちょっと嫌な予感がしてるんだ……。


「セレアイラさん。突然ですけど、ステータスとか見せてもらえます? 私のも見ていいので」

「あ! 私も気になってました、それ! 椿さんの装備になってどれくらい強くなってるのかとか!」

 うん。私の目論見を完全に口に出してくれましたね、ヘスティー様。手間が省けました、ありがとうございます!

「そういえば、私も自分自身で確認してなかったです。じゃあ見せあいっこしましょうか?」

 見せあいっことは、可愛い響きである。こんな事ができる間柄になる人が自分の人生でできる日が来るとは、感慨無量だ。

「あれ、泣いてますか? 椿さん?」

「いや、ちょっとあくびを……」

 うっかりほろりしてしまった。じゃなくて、こういうときは「目にゴミが入っただけよ!」と強がるのがセオリーだった。やっちゃったなぁ。次に期待ということで。

 そんなわけで、まずはセレアイラさんのステータス確認です。


 えっと……種族:人間。職業:魔術師。レベル89。意外と高いな。

「え!? レベルこんなに上がってる!?」

 自分のレベルに自分でびっくりしていらっしゃる!?


「もしかして、神殿長を倒した分ってことじゃないですか?」

「あー。そうかも知れませんね。人間を倒してもレベルって上がるんですね……。ちょっと複雑な気持ちです」


 そりゃあ、犯罪者当人や犯罪者を相手にでもしなければ、人間を殺すなんてこと、普通の人間は経験しないだろうしね。あとは軍人……この世界じゃ騎士や兵士になるのかな? 彼らでも目下の敵は魔族や魔物なわけで、人間と殺し合いをするなんてことは稀なはずだから、やっぱり、一般的にはあまり知られていない知識なのかもしれない。

「ちなみに、元のレベルってどのくらいでしたか?」

「42ですね」

「倍以上上がってるのか……」

 ドゥラマ神殿長、どれだけレベル高かったんだろう……。


 で、肝心の細かいステータスは……?

 えっと……力:79 (+450) 魔力:146(+450) 器用さ:120 敏捷性:89 オド量:2700


 数値を見て、三人で束の間、無言になった。


「いやなに!? +450って! 半分に割っても225だよ!? どの数値を倍にして足してるのこれ!?」

「いや、待って下さい、椿さん! これもしかして、力と魔力の数値を足して倍にしてるんじゃないですか!?」

「え!?」

 ヘスティー様の言う通りに、力と魔力の数値を足して倍にすると、450の数字が現れた!

「なぜ、両方……? これ、私がマッチョになったみたいじゃないです?」

 そう、その疑問ですよ、セレアイラさん。あと、別にマッチョにはなってないので大丈夫です。


 ふむふむと、ヘスティー様がセレアイラさんのステータスを見て考え、結論を出す。

「どうやら、椿さんが『攻撃力』って大雑把に指定したので、攻撃に関わるステータスを全部参照したみたいですね……」

 あー。そういう感じか。じゃあ私のせいだな。とりあえず謝っておこう。マッチョにはなってないけど。

 私の謝罪を、セレアイラさんは遠慮しながらも受け取ってくれた。


 じゃあ次は――

「次は、私でーす!」

 元気いっぱいにヘスティー様が手を挙げ、ステータスを開いた。

「ちょっと恥ずかしいですけど……見て、良いですよ……椿さん!」

 キャッ! なんて最後に声を上げて両手で顔を覆うヘスティー様。可愛いけど、ちょっとわざとらしすぎて、あざとすぎる。本当は別に恥ずかしがってもいないのは分かりきっている。

 でも、私には充分過ぎるほどに、こうかはばつぐんだ! なぜなら私は、ヘスティー様にゾッコン首ったけでチョロいのだ。

 まぁ、それはそれとして、ステータスは見るのだけれど。


 まず名前は……ヘスティアヌス命(のみこと)。

 ああ、やっぱりステータスの名前までは、さすがにニックネームでとはいかなかったか。


「名前は、できるだけ見ない感じでお願いします……」

「あ、はい」

 なんで名前見てたのバレたんだ? 念話は使えないはず……。まぁいいか。


 種族:現人神(あらひとがみ)……。

 ん? 現人神ってたしか、人間でありながら神の力を使うみたいな、神が憑いてる人……みたいなのだっけ? でもヘスティー様は紛うことなき本物の神様だから……これ、間違ってないか?

「ヘスティー様、種族が現人神になってますけど……?」

「えええ!? なんでですかああ!? あ゙!? ホントです〜!?」

 ヘスティー様にも想定外だったのか、これは。それはそれとして、表情がコロコロ変わるオーバーリアクションがとても可愛いですね!


「う〜ん……。もしかしたら、神が直接降りてくることがないはずの世界だから、神そのものが種族選択肢にそもそも無いってことなのかもしれません……」

 つまり、ヘスティー様の種族をこの地上で表せる最も近い種族が現人神しか無かったってこと……なのだろうか? 逆に、現人神は存在してるんだな、種族として。

「現人神って、そもそもどういう種族ですか?」

「さあ……聞いたこともないです。そんな種族もあるんですね……」

 かなり知識のある方の現地人であるセレアイラさんも知らないって……もうとっくの昔に絶滅してるんじゃないのだろうか?


 気を取り直して、ヘスティー様のステータスの続きを見る。

 職業:道具職人。

 道具職人!? ま、まぁ、間違ってはいないか……。

 レベルは……78!

 結構ある! ドゥラマ神殿長を倒したのが分配されてるのだろうか?


 それで、力:100 魔力:350 器用さ:∞ 敏捷性:50 オド量:∞


 え……。

 私は一度目を擦って二度見する。

 なんか、数字じゃないものが書かれてるんですが……。


「この、数字の8を寝かせたみたいな記号は何ですか? 表記ミスでしょうか?」

 無邪気なことを言うセレアイラさん。

 と思えば、なんだか目がめっちゃ泳ぎ出した。

「あはは、まさか……まさかですよ? これ……いやいやいやいや。……ありえないですよね!?」

 などと私に同意を求めてくる。あ、うん。これ、知ってるね、セレアイラさん。最初のは現実逃避してただけだったらしい。気持ちは分かる。私もまだ自分の目を疑ってるし。

 ヘスティー様、えっへんと胸を張ってる場合ですか。そっちの気持ちも分かりますけど! 自慢したくなりますもんね! くそ、可愛いなあ!


「じゃあ、深くは触れない方向で。次、私のを見ましょうか」

「なんでですか!? もっと触れていきましょうよ、椿さん!」


 あんまり可愛いドヤ顔なので、いじりたくなった私を許してほしい。

 だってほら、頬をぷくっとさせて、腕にすがりついて揺すってくるこのヘスティー様の可愛さたるや……。もはや凶器である。


「じゃあ、ちょっとだけですよ?」

「ちょっとじゃなくて、いっぱい触れてください! なんて言ったって無限ですよ! ム・ゲ・ン!」

「じゃあ……そもそも器用さ無限ってなんですか?」

「私の手にかかれば、作れないものはないって意味での器用さ無限です!」

 ヘスティー様がむふーと鼻を鳴らす。可愛い。

 え、でも本当に? 本当に何でも作れるの? 地球破壊爆弾とか、どこにでも繋がるドアとかも?

 聞いてみると、即答で「もちろん作れます!」と自信満々に肯定された。マジかよ……。これはたしかに無限の器用さだわ。


「あ、さっきから実は気になってたんですけど、このオド量っていうのは何なんですか?」


 マナであれば、私がやってるのとは別のカードゲームで聞き覚えがあるが、オドというのは聞き覚えがない。

 そしてこれには、セレアイラさんが回答してくれた。


「オドというのは、人など、動植物の内から生まれ出る魔力のことです。魔法を使うために消費する燃料のようなものですね。そして、星に満ちる魔力のことをマナと言います。オドが動植物の内から余剰になって溢れたものも、マナと名称が変わります。体内にある内はオド。出たらマナということですね」

 へぇ~。マナはマナであるんだ。

 ん?

「余剰分が溢れるってことは、オド量っていうのは、燃料として使えるキャパシティってことですか?」

「そうですね。体内に貯めておける限界量ということになります」

 ふむふむ、オドは燃料としての魔力で、オド量はタンクの大きさってことか。じゃあ結局、別の項目の方の魔力とはなんぞや?

「ステータスにある魔力とは何が違うんですか?」

「ステータスの方の魔力というのは、魔法を行使した際の、効果の大きさに影響を与える数値です。大きければ大きいほど効果も大きくなります」

「この、ヘスティー様の350っていうのは、大きい方なんですか?」

「それはもう! めちゃくちゃ大きいです! 一般人の平均が50程度。私たち魔法使いでも150〜250。神殿長ほどの実力者でようやく300と言われていますからね。350は別格です!」

「まぁ、セレアイラさんは今、600弱はありますけどね」

「それは言わないでくださいよ〜。むぅ〜。ツバキさんて、案外、意地悪なんですね」

 おっと、慣れてきたからと少々馴れ馴れしかったか。陰キャは慎ましくせねばと初心を思い出そう。

「ちょ、調子乗ってすみませんでした……」

「ええ!? なんで突然落ち込んだんですか!? 情緒!」

「あ、これは発作みたいなものなんで、放っておいて大丈夫ですよ、セレアイラさん。普通に接していれば、そのうち治りますから」

 さすがヘスティー様。もう私の扱い方を心得ていらっしゃる。

「はぁ……な、なるほど?」


「はいはい! では椿さんの番といきましょう! ほら、椿さん、ステータスステータス!」

「あ、はい」

 ヘスティー様に言われるまま、私はステータスを広げる。そこには――


「あの……なんですか、これ?」

 セレアイラさんは困惑。ヘスティー様は苦笑いをしている。こんなにイカしているのに……。

 私のステータスとして現れたそれは、私にはお馴染みの、カードゲームのカードデザイン。裏側まできっちり再現するこだわりぶりで、自己満足で納得している。意味も無くクルクルとカード型ステータスを回したりしちゃう。

 肝心の中身については、上からカード名、属性、レベル、絵図、種族等の記載、効果やフレーバーテキスト欄、攻撃力と守備力。これこれといった、実家のような安心感さえ覚えるデザインだ。

 ではさっそく、上から順を追って見ていこう。


 まず名前……は、別に飛ばしてもいい気がするが、順番だからね。

『黒咲椿(くろさきつばき)』

 ちゃんと振り仮名まで振ってある。


 次に属性。『光』

 なんで闇じゃないのかって? 光の方がなんとなく勇者っぽいと思ったからだよ。


 で、次はレベル。星の数で表すやつ。これが八つ。つまり星八でレベル8ということだ。

 ちょっと議員さんの構文みたいになったけど気にしないでいただきたい。


 んで、絵図が書かれる部分。普通なら一番盛り上がるカードの顔でもある箇所だが……写っているのはキモい私の自撮り写真みたいなものなので飛ばす。

 ていうかこれ、いつの場面だろう……。私が剣を振りかぶってる? ゼムキルと戦ってたときかな? でもあのときのはもう少し短かい剣だった気も……分らん。

 次だ次!


 種族とかの欄。

『戦士族/効果』

 シンプルイズベスト。


 そしてお待ちかねの効果の本文!

「あの椿さん……」

「何ですか?」

「これ、テキスト長くないですか? 枠に収まってないですよ?」

「そこは……ほら、文章量の規定もないオリジナルなテキストですし……。あ、あと、収まってない文は、こういうふうに……スクロールすれば読めますよ!」

「な、長い……。目がしょぼしょぼします〜。こ、今後の椿さんの活躍で明かされていくかもなので、これからのお楽しみってことで、飛ばしてもいいですか?」


 うーむ。良いようには言っているけど、やんわりと読むのが面倒くさいと避けられている……。ま、実際、今後使う効果もあるだろうし、その提案に乗ってあげよう。それに、カードゲームの効果って、アニメとかだと後出しした方が強いしね。


 というわけでラスト。攻撃力と守備力。

『ATK3000/DEF2500』

 最も有名なカードのものを拝借させていただいた。ドラゴンと魔術師で悩んだけど、ここは額面上の攻撃力が高く、高攻撃力の基礎値みたいな扱いのドラゴンの方を、とした次第です。

 本当は4000とか5000とかにもすることも出来たんだけど、それはなんか違うと思い、不採用とさせていただきました。


 私のステータスを見て、さっきから黙っていたセレアイラさんが、おずおずといった様子で手を挙げる。

「あの〜、この八つある星マークって……ど、どういう意味ですか?」

「レベル8って意味ですけど……」

「8……ですか……」

 なんだか歯切れが悪い。なにか言いたそうにも見える。聞きたいことなら遠慮なく聞いてほしいと、ヘスティー様が代わりに言ってくれた。それに私は激しく頷く。

 セレアイラさんは「じゃあ……」と、まだ恐る恐るに口を開いた。

「この、ステータスにある星マークは、こっちの世界だと特別な意味があるんです……」

「特別な意味……?」

 なんだろう? ランクとか、リンクとか、まさかマイナスレベルなんてことも!?

 私が鸚鵡(オウム)返しした言葉に頷き、セレアイラさんは続けた。

「ステータスに付く星マークは、レベル上限に達した人が、レベルリセットを行った際に付くとされています……」

「レベルリセット?」

「はい。レベルリセットとは、ステータスやスキルをそのままに、上限値になったレベルだけを初期化して、もう一度上げ直すというものです」

「なるほど。それをすると、星が八つ付くってことですね?」

「いえ。一つです。レベルリセット一回につき、一つ……」

「え、それってつまり……」

「はい。この世界においてツバキさんは、レベルリセットを八回もしている、レベル上げ九周目の化け物ということになります」

 マジかよ……。

「ち、ちなみにレベル上限て、いくつ?」

「100です。要するに、ツバキさんは実質、レベル800以上ということになりますね」

「は、はっぴゃく!?」

「私も、レベルリセットは文献で読んだことがあるくらいで、実物を見たのは初めてです。しかも、文献でも書かれていたのは星一つまでで、二つ以上は歴史的にも例がないです。それが八つもなんて……ツバキさんはやっぱりすごいんですね!」


 いや、私がスキルでテキトーに書いただけの星の数に、そんな意味あるはずないでしょ!? この誤解はなんとか解かなければ、私がレベル800超えの化け物というイメージが定着してしまう!

 真実を白日の下に晒す方法はないものかと、困ったときのヘスティー様頼みに縋(すが)る。

 ヘスティー様は任せてくださいと胸を叩いてくれた。さっすが女神様仏様ヘスティー様だぜ!


「セレアイラさん、誤解してはいけませんよ。これはあくまでも、椿さんが作ったステータスです。本物じゃありません。効果テキストの内容は本物ですけどね?」

 そうそう。だから星の数なんて飾りなんですよと、横で腕組み彼女面して頷く。

「椿さんの本当のステータスは、私たちと同じように表示されているものがちゃんと別のページにあるんです!」

「「あ、そうなんですね!」」

 セレアイラさんと同じリアクションを同時にしてしまった。

 うん。私も知らなかった。でも、そりゃそうか。この世界にはこの世界のルールがあるんだから、異世界人の私でもそのルールは適用される。ヘスティー様だって、この世界の枠内でのステータスはあったわけだし。

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