私は、光属性/☆8 その7
「というわけで、椿さん! 本当のステータスのページを!」
私は頷いて、カードの枠外まで視線を巡らせると、右端に矢印マークを発見した。これで次のページが見られるに違いない。
迷わずその矢印をタップすると、ページが切り替わって、ヘスティー様たちと同じような画面になった。やっぱりあったね。ではさっそく確認しようじゃないか、私のしょぼい本当のステータス……を?
「え、これって……」
セレアイラさんが目を輝かせ、ヘスティー様と私が唖然とする。
では、見ていこう。
名前:黒咲椿
種族:人間
職業:勇者 (臨時)
あ、臨時勇者って扱いになるんだ……。
レベル:17
ここまでは良かった。だが、この数値の右には、燦然と輝く八つの星マークがあったのだ……。
つまりこうだ。
レベル:17 (+800)
レベル通算で817!! 私の星マーク、有効なのかよ!!
私、人生九周目みたいな感じになってるじゃん!
というか、この先を見るのが怖い。もうどうなっているのか大体予想がついているから……。
でも見なきゃいけないんですよねぇ……。自分のステータスの把握は大事なことだし。
――いざ。
力:80 (+5500)、魔力:50 (+5500)、器用さ:80 (+2500)、敏捷性:50 (+2500)、オド量:100 (+2500)
いや、プラスになることは予想できてたから覚悟もできてたんだけどさ、それはそれとしてね……。
私の素のステータス、低くないか?
これがレベル実質800超えの人間の数値か?
オド量以外全部二桁だぞ……。でも、そのオド量がプラス分を加味しても、セレアイラさんより低いってのはどうなのよ。
魔力に至っては、さっきセレアイラさんが言ってた一般人の平均値だぞ、これ。
あまりにも低いバニラステータスを前に言葉を失っていると、セレアイラさんが凄い凄いとテンションを上げてくれていた。
「ステータスの数値が4桁とか、歴史の資料でも見たことないですよ! ツバキさんは本当に規格外なんですね!」
どうやら、実数値の方が重要らしい。それを言うなら、セレアイラさんだって3桁後半に入っているのだから、大して変わらないと思うし、何より桁がどうこうではないお方が隣りにいるんですけど……。
やめよう。神様と比較してもしょうがないし。
心の中で小さく溜息を吐く。ここは素直に、褒められたことを喜んでおこうと、気持ちを切り替えた。
が、そんな折のことである。
フッフッフ〜と、セルフ顎クイのように手を当て、不敵に笑うヘスティー様がそこにいた。
「セレアイラさん、まだまだ、椿さんの凄さはそんなものじゃありませんよ!」
なん……だと……!?
「え、まだ先があるっていうんですか!?」
私も知らない隠し機能が私に備わっているとでも言うのか!?
ヘスティー様は私のステータスウィンドウを指で引っ張って持って行き、下方にスクロールさせた。
「答えは、このスキル欄にあります!」
そしてそう言って、私たちに私のステータスを向ける。
言われるままスキル欄を見る。
まず大前提として、言語変換やら私のチートスキルであるところの『O・C・T』が鎮座している。そこに目が留まるが、ヘスティー様は指で指摘する。
「ここですここ! その下!」
下?
視線を下ろすと、もう一つのスキルがあった。それは、『勇者の矜持 (臨時)』とあった。
ここでも臨時ですか……。まぁ、それはいい。問題はこれの中身なわけだが……。
私はそのスキルをダブルタップした。すると詳細な説明が現れた。ていうか、操作方法これで良いんだ。
若干の気づきと驚きを覚えつつも、詳細に目を通す。――どれどれ?
『勇者の矜持 (臨時)』
勇者としての責任を覚悟し、力を希求した場合に発動する。
一旦止める。
なんでここの文章もちょっとカードゲームっぽいのさ。気になっちゃうじゃん。でもまぁ、発動条件というのは分かった。『できる』じゃなくて『する』だから強制発動効果なんだね。
それと『場合』だから、チェーンを組む順番は選べる……って違う!! これはカードゲームではない!!
危ない……。カードゲームのテキストとして読んでしまうところだった。
つ、続きを読もう……。なんでもうこんなに疲れてるんだろう、私。
えっと……。
――ステータスの数値を倍にする。
マジかよ……。
え、『元々の』じゃなくて、実数値の倍?
「つまりですね、勇者として力を振るうとき、椿さんの『力』の数値は11160にまで跳ね上がります! そりゃ人間離れした挙動もできますよね! というわけです!」
実数値だね、これね!?
「ツ、ツツツ、ツバキさん……よ、4桁どころではなく、ごごご5桁ぁぁぁ……」
数字が大きすぎてセレアイラさんが溶けてきた。このままいけばスライムになるかもしれない……。
「あ、ヘスティー様。私のこれ、臨時って付いてますけど、正規召喚された勇者とは何か違いがあるんですか?」
「よくぞ聞いてくれました、椿さん! 正規召喚された勇者の『勇者の矜持』は、常時効果が発動しており、ステータスアップの効果量は4倍になります!」
その数値に絶句した。
バケモノすぎる。そりゃドゥラマも正規召喚の勇者を始末しておきたいわけだよ。しかも成功してるし。
というか、正規召喚ではあったけど、神官という役職を潰したおかげで、勇者としてのスキルが付いてなかったって話だし、企みは大成功だったわけだ。
私というイレギュラーが現れてなかったら、この世界は終わっていたかもしれないなぁ。ヘスティー様、マジでナイス判断でした。まぁ、私を選んだことについては、あんまり良いとは思えないけど……。だって私だし。
と、みんなのステータスの確認もできたことだし、ぼちぼち出発しますか。
御者の順番は次はセレアイラさんだったはずだけど……。
「ごけた……ごけた……」
まだ私のステータスの数値のことでスライムになりかけたままなので、そっとしておくことにした。
優しく抱き上げて (お姫様抱っこが苦も無くできることに驚きながら)荷台に上がると、正気に戻ったようだけど、私の顔を見るなり、耳まで顔を真っ赤に染めて、人間のものか疑わしい悲鳴を上げて気を失ってしまった……。
ブスが突然間近に顔を寄せてすみませんでしたと、反省した。ちょっとは仲良くなれたかもと、調子に乗ってたかもしれない。
しかし、なんて言ってたんだろう、さっきの悲鳴。ちゅば……がおひ……。やっぱり分からん。
気を失ったセレアイラさんを荷台に下ろして毛布をかける。
「ありゃりゃ~、それは刺激が強すぎましたね〜」
御者台に座るヘスティー様に事の顛末を説明すると、そんな返しをされた。私はやはり刺激物だったらしい。
しかし、すでにそこに座っているということは、ヘスティー様が続けて御者をやるということなのか。
「お昼寝はしましたしね! 大丈夫ですよ!」
尋ねるとそう言って胸を叩く。すると私には無い部分がふよんと揺れた。
この際、せっかくだしと、私はヘスティー様に御者を教えてもらうことにした。早く、戦う以外でも役に立てるようになりたいし。
決して、馬車の揺れで揺れるヘスティー様の美の双子山を見ていたいとか、邪な下心あってのことではないと、ここではっきりと強弁しておく。
お願いしてヘスティー様の隣に座ると、御者台は思っていたよりも狭くて、ヘスティー様の柔らかいお体と密着してしまう。これ、集中できるかな私!? 太ももが! ヘスティー様の太ももが、私のとピッタリと!
が、そんなことを考えるのも束の間。ヘスティー様は「はい」と、手綱を手渡してきた。
私は横で見ながら要所要所のコツとかを聞くつもりだったんだけど……と、ぢっと手の中の手綱を見る。
「えっと、ヘスティー様? 私は教えてほしいって……言ってたんですけど……」
「習うより慣れろ! ですよ、椿さん! 大丈夫です。危なくなったらフォローはしますから!」
ひょっとして、ヘスティー様の指導方針はスパルタ系だったりします?
「ほら、わ、私、運転免許とか持ってないし……」
「大丈夫です。この世界の人は誰も持ってないので!」
そうだね。存在しないもんね。
「さあ椿さん、まずは発進からですよ! レッツゴーです!」
もはやこれまでか。こうなればやるしかない。満面の笑みのヘスティー様の言うことには逆らえないのだ。惚れた弱みなのだ。
覚悟を決めて、手綱を握ると、上からヘスティー様が手を重ねる。
「こうやるんですよ〜」
文字通りの手取り足取り。そして私はおっかなびっくりのドギマギ。ヘスティー様のご指導ご鞭撻を受けて、王都へ向けて馬車を発進させたのだった。
あれ? これ、見ようによっては、初めての二人の共同作業なのでは?
テンション上がってきた!




