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私は、光属性/☆8 その4

 人間というのは不思議なものだ。

 あれだけ眠れないと思っていながらも、目を閉じて前後からの可愛い寝息に聞き入っていたら、いつの間にか意識を失っていたのだから。

 目が覚めると、胸に顔を埋めていたのセレアイラさんも、背中に密着していたヘスティー様も既に無く、だらしない寝相を晒して仰向けになっている私だけがベッドの上にいた。

 体を起こして見回すと、彼女たちはすぐに見つかった。何やら楽しそうに会話の花を咲かせている。ガールズトークでもしているのだろうか。一般的な女子って、恋バナとか好きだろうし。


「おあようございます……」

 寝起きで呂律の回っていない口で挨拶すると、談笑していた二人は振り返って、私に笑顔を向けて挨拶を返してくれた。優しさが身に沁みる。

「椿さん成分を摂取できたので、私たちは元気満タンですよ!」

 ヘスティー様のセリフにセレアイラさんも頷く。ちょっと顔が赤い。私成分というものが何なのかは分からないけれど、まぁ、二人とも元気になったのなら良しとしよう。

 私の方も、いじける以外の理由で眠れたお陰か、なんとなく胸が軽い。着替えたばかりだった服はまた皺くちゃになってしまったけど……。


「じゃあ、生きましょうか! 椿さん!」

 そう言ってヘスティー様が立ち上がって、私の手を取った。

 セレアイラさんもなんだか旅支度のご様子で、いつもの白いローブに魔女帽子、杖を持って、背中には背嚢を背負っている。

「行くって、どこへですか?」

「もう、忘れたんですか? 王都に今回の件について報告に行くって、椿さんが寝込む直前にも、寝込んでる最中にも、定期的に言ってましたよね?」

「え、そうでしたっけ?」

 全く耳に覚えがない……。どんだけ心が内に籠もってたんだ、私。情けない……。

「ん、もう! ま、そんなことだろうとは思ってましたけどね! 椿さん、ね!」

「本当にすみません、ヘスティー様……可愛いです」

「可愛いって褒めておけば誤魔化せると思ってませんか、椿さん? まぁ、そうなんですけど……えへへ」

 そうなんかい!


「あの、ツバキさん……私は……? ぁ、ぃぇ……やっぱり、何でもないです……」

 少しモジモジしながらセレアイラさんが尋ねて来たと思ったら撤回された。だけどその撤回を受け入れるかは私に選択権があるので、当然受け入れずに応える。

「セレアイラさんも可愛いに決まってるじゃないですか」

 私と比べたら、大抵の女の人は可愛いし、セレアイラさんはぶっちゃけ、ヘスティー様とも比肩するレベルの美人さんだ。そんなに遠慮がちに聞かずとも、私はすんなりと可愛いと言える。


「――ん〜ッ!!」

 セレアイラさんは、私の言葉を聞くと、それは嬉しそうに、リンゴのように赤くなった両頬を両手で覆って、可愛い鳴き声を上げたのだった。

 美人でも可愛いと言われると、こんなに嬉しそうにするものなんだなぁ。



 私が寝込んでいた間にセレアイラさんがやっていたのは、業務の引き継ぎも含めていたらしく、昨日今日はそれも終わって、旅支度も終わり、完全に私の復調待ちだったところだったそうな……。それを知って、申し訳ないという気持ちが五、六倍に跳ね上がった私です。



 というわけで、その後すぐに神殿を出た私たちは、馬車を手配したあと、墓地へと向かった。ここまで伸ばし伸ばしになってしまっていたけど、セレアイラさんに、お別れを言わせてあげなくちゃいけない人たちがいるからだ。


 ヘスティー様が工房を呼び出し、中から大きな袋を次々と持ってくる。私は中には入れないため、入り口でその袋を受け取って並べていく。丁重に。慎重に。そして、最後に唯一の白い袋を、セレアイラさんのすぐ目の前に置いた。


「これは……?」

 気づくと、他の神子魔術師の子たちもやってきて、後ろに並んでいた。

 整然と並ぶ神子魔術師たちの代表のように、一歩前のところに立つセレアイラさんに、ヘスティー様は語りかける。女神らしい神々しさを纏って。


「かなり遅くなってしまいましたが、セレアイラさん。お仲間の皆さんと、勇者――ソーヤさんの葬儀をしましょう。これは、あの場所から回収したご遺体です。顔などは整えていますから、見ても大丈夫ですよ。お別れの言葉をかけてあげてください」


 セレアイラさんが息を呑む。自分の目の前に置かれた白い袋を見下ろすと、顔を上げてヘスティー様に問うような目で見つめた。


 ――彼なのか? と。


 ヘスティー様は頷く。母のような麗らかな顔で。


 セレアイラさんが手を震わせながら、袋のファスナーを開くと、ヘスティー様の死化粧(エンバーミング)によって整えられた、端正な顔の男性が現れた。まるで眠っているみたいに安らかな顔をしているそれは、けれど決して目を開くことはない。


 私も、潰れていない彼の顔を見るのは初めてだった。


 セレアイラさんは慈しむように笑って、その頬に手を触れた。そして、一分か、二分か、あまり長くない時間、目を閉じ、空いてる手を胸に当てて祈りを捧げた。そういうことを、他の遺体にも一人一人丁寧にして回る。祈りの間に、閉じた瞼から止め処なく溢(こぼ)れた雫は、彼女の慈愛と贖罪の顕れのように感じられた。


 私とへスティー様も黙祷を捧げる。セレアイラさんを守ってくれてありがとうと、私は心の中で感謝を添えた。


 私たちの黙祷が終わると、セレアイラさんに、ヘスティー様が尋ねた。

「ご遺体の埋葬方法はどういうものですか?」

 セレアイラさんは答える。

「この街では、遺体のアンデッド化と聖水の水質汚染を防ぐために、ご遺体は火葬した後に聖水で満たした骨壺に入れて埋葬します」


 かなり丁寧な感じなんだなぁ。でも、結構時間かかりそう。これから王都に出発って話だったけど、全部終わってからなら、あと数日は滞在することになるのだろうか?


「さて、お祈りもお別れも済ませました。埋葬の各手順は、ここにいる彼女たちでも出来ますから、私たちは出発しましょう」

 セレアイラさんはそう言うと、振り向いて、神子魔術師たちに後を託す言葉を贈った。

 それに対し神子たちは、異を唱えることもなく「いってらっしゃい」とセレアイラさんを送り出す。ただ、その瞳には幾らかの寂しさがのぞけた。


 本当にこのまま出発しても――

「いいんですか?」


 思わず私の口から溢れた言葉に、セレアイラさんは、他の神子魔術師たちと同じように、瞳に僅かばかりの寂しさをのぞかせながらはにかんだ。

 「いいんです。ツバキさんという新しい勇者もいるのに、いつまでも出発しないなんて、ソーヤにも怒られてしまう気がしますので」

「でも、せめて、ソーヤさんの分の火葬くらいは見届けても……」

「ツバキさん。それでは、不公平じゃないですか。確かにソーヤのことは好きでしたけど、それを理由に彼の埋葬だけを見届けるなんて、自分勝手じゃないですか? 神に仕える身として、一人見届けるのなら、全員見届けるのが筋というものです。でも、そんな時間はありません。王都からも早く出頭するようにとせっつかれていますから。それに――」

「それに?」

「私、怖いんですよ。……初恋の人が、骨になって出てくるのが……。きっと、またいっぱい泣いてしまいます。ツバキさんには、またそんな情けない姿を見せたくないんです。……えへへ、これも私情ですね、忘れてください」

 言い終わると、セレアイラさんは私の返事を待たずに、小走りで馬車へと向かって行ったのだった。もう問答無用ということなんだろう。それだけ急いでいるということでもある。私ごときが引き留めて申し訳なかったなと、猛省し、私もセレアイラさんを追いかけるように馬車へと駆けた。


 しかし、初恋の人が骨になって出てくるのが怖いか……。火葬が当たり前だったからあんまり考えたことなかったけど、さっきまで見知ってた顔がただの骨になって出てくるって、確かに衝撃的な体験かも……。

 案外、土葬の文化圏って、信仰とかよりもまず先にそっちが理由なのかもしれないなと、なんとなく思った。


 あ、いや、セレアイラさんは普通に火葬の文化圏の人だったわ。

 個人の感覚を文化圏になぞらえるのは主語の肥大化だから注意しないと。それに、私ごときが何様でモノ言ってんだよって話だ。猛省猛省!


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