私は、光属性/☆8 その3
どのくらい眠っただろうか。目を開けると、まだ窓から日の光が差して明るいけれど、太陽の出てる時間が三〇時間もあるこの世界だと、経過時間の感覚が掴みにくい……。
私の腕の中には、貧相な胸に顔を押しつけて、可愛らしい寝息を立てるセレアイラさんが、変わらずそこにあった。そして、彼女の腕のホールドも健在である。
どうしたものか。さすがに完全に目が覚めてしまった……。起こさずに何とか脱出できないかな?
少し体をよじる程度では、彼女の腕はびくともしない。手でやんわり解こうとも考えたけれど、腕の位置が悪い。私の手が回らないところにセレアイラさんの手の結び目がある……。普段から柔軟体操をしておけば……なんて、今更すぎる後悔をした。
頑張って三度寝でもする? いやだから、目が冴えちゃってるんですって! 誰に突っ込んでるんだ私は! と脳内一人漫才をしていると、扉が開いた。そこに立つのは我が女神――
「ただいま戻りましたぁー!」
底抜けに明るい笑顔を振りまきながら、東山奈央さんによく似た声でヘスティー様がご来臨なされた。
助かった! これでセレアイラさんのホールドを解いてくれる人手ができた!
ん?
何かおかしい。
戻ってきたら、ヘスティー様は私の名前を呼びながら近づいてきて、今日の報告をしてくるはず。それが、私がこれまで寝込んでいる間でもずっとしてくれていたことだった。でも、今回はそれが無い……。
なぜ?
その疑問を解消しようと、私は、扉の方へと目線を泳がす。そこには、明け放たれたままの扉があるだけだった。
音も無く姿を消したヘスティー様はいずこへ?
「椿さん……」
「うひゃあああ!?」
背後。それも至近距離の耳元でヘスティー様が私の名前を呼んだ。
いきなりのことと、こそばゆいのと、声のトーンがなんか怖かったのが重なって、私は腕の中で眠っているセレアイラさんのことを失念して、素っ頓狂な声を上げてしまった。
あまりにも突然のことで動転していると、布の擦れる音がして、すぐ、私の背中に柔らかくて温かい感触がががが!? こ、これは……もしかしなくても、へ、へへへ、ヘスティー様!?
なぜ私は、というか、ヘスティー様は私とセレアイラさんが横になっている布団に入って、剰え、私の背中に密着しているのでしょうか!?
動転の上に動転が重なって、逆にちょっと冷静になって――なれるかあっ!
そして、頭が真っ白、お目目ぐるぐる状態に違いない私に追撃。
「ふぅ〜」
耳に息が!!?
「へ、へへへへへすてぃしゃまあぁ〜!?」
「ふふ、椿さん、可愛いです……」
顔は見えずとも、きっと蠱惑的なお顔をして笑っているであろうことは想像に難くない声音だった。
「ど、どうして、こんないたずらを?」
「ズルいので」
「ズルい?」
私の一体全体何がズルいというのだろうか? 確かに、小狡いとも言えるインチキ効果を使って勇者をやってはいるけれど、それとこれとは話が違う気がする。うん。きっとそのことじゃないんだということは、さすがの私にも分かる。
「セレアイラさんが、です」
ああ、そっちにズルさを感じてたんですね……ん?
「ならなんで私に?」
「だって、こんなに気持ち良さそうに眠っているセレアイラさんにするのは、悪いじゃないですか」
言ってセレアイラさんの頬を優しく指で突いた。セレアイラさんからは可愛い声が漏れ、私の胸に一層強く顔を埋めてきた。
「セレアイラさんを休ませるとは聞いてましたけど、それが添い寝だったのなら、当然、話が変わってきます。……だから、私も椿さんと一緒に眠りますね」
「ぇえぉっと……わ、私はもうそろそろ起きようかと――」
「ね・む・り・ま・す・ね♡」
それは殺人級の可愛さを含有した声色だった。
目が冴えているだ? 何寝ぼけたことを言っているんだ私は! 眠気など明日分から引っ張ってくればいいのだ! こんな可愛い顔で添い寝して♡ と言われたら (言われてない)、こうなったら三度寝だって四度寝だってやってやんよ!
「ど、どど、どうぞ……」
あ、はい。内心でいくら勇ましくても、現実はこんなキョドりまくりの喪女でござい……。
でもそれでもヘスティー様はいじることなどもせず、嬉しそうにお礼を言うと、私の脇に腕を入れて、お腹に回し、ギュッと後ろから抱きしめてくれた。優しく、ほんのり甘い香りが後ろから漂ってくる。
そして、その香りと柔らかさと温もりに沁み入っていると、程なくして、前からのものと合わせて二重に可愛らしい寝息のハーモニーが私の耳を幸せにしていったのだった。
うん。やっぱり眠れないな、これ。




