8.魔法でバトル!
「……いい子だから、落ち着いて」
警戒をおこたらない姿勢を保ちながらも、ロジオンは合成獣の目を見つめ、さとすように優しくそう声をかけた。
ほんの一瞬だが獣の瞳が感情でゆらめいたような気がした。
「しょせん獣に言葉なんてわかりゃしねえよ」
呼びかけるだけムダだとばかりにラグシードが一蹴すると、威嚇するように咆哮した猛獣が、家具をなぎ倒しながら突進してきた。
(しょうがない。不本意だけどここは魔法で対処するしかないか)
深いため息をつくとロジオンは、慎重にロッドをかまえ魔法書の一文をそらんじる。
『 フォーチュン・タブレット第一篇・炎の魔法円 』
たちまち足許に炎の魔法円が浮び上がり、その勢いを得て、呪文を詠唱し解き放つ。
【⋆˙⟡★⟡ 罪人に刻む赤熱の烙印! ⟡★⟡˙⋆】
炎の塊がみごとなまっ白い体毛に引火し、灼熱地獄へと誘いこむ。
しかし、獣は周囲の空気を震わせるほどの咆哮とともに、自らを焼きつくそうと襲いくる炎を瞬時にふりはらい消滅させた。
「やっぱこの程度の呪文じゃ歯が立たないか……」
深刻そうな横顔でつぶやいているうちにも、獣は倒れている家具などの障害物を軽々と飛び越えて、敏捷に床を蹴って宙に舞う。
「シリアスぶってるとこ悪いが、おまえがケチな魔法しか使わんから、よけいに怒らせちまったみたいだぜ。すみやかに始末できなかったせいでこのざまだ!」
「土壇場で人をこき下ろす言葉しか浮かばないなんて、君には思いやりが欠落してるっていう証拠だね。少しは天罰でも食らえばいいんだ!」
とびっきりの皮肉をこめて、冗談半分で口走ったセリフだったのだが……。
猛獣の攻撃を間一髪でかわすと、合成獣はロジオンたちがいたテーブルに体ごと突っこんだ。そこには事件が起こる前の食卓の光景が、奇跡的にもそのまま保たれていたのだ。
――数秒前までには。
「くっそー!俺の肉の丸焼きが……。好物だから最後までとっておいたのに!」
神の裁きか面白いように天罰が下り、うめき声をあげてラグシードが頭を抱えこんだ。
「ざまみろとか思ってるだろ?」
「いやあ、好きなものから最初に食べちゃう主義でよかったなぁと」
予想どおりというべきか、ロジオンからは晴れ晴れとしたさわやかな笑顔が返ってきた。
「チッ」と口惜しそうにラグシードが舌打ちする。
そのあいだにも合成獣は体勢を立て直し、こちらに向かってくる意欲満々である。すでに店内に彼ら以外の人間はいない。
「これで安心して暴れられるな」
肉を奪われた恨みもあってか、ラグシードはこぶしの関節を鳴らし憎々しげに言い放った。
「それにしてもあやまって殺しちゃったら、あとで損害賠償とか請求されないかな?」
「この期におよんでそんなこと言ってる場合かよ!?」
ラグシードの叱責が飛ぶ。
「こんな余裕のない状況で手加減できるかどうか、まだ自信がないんだよ……」
長旅の貧乏性ゆえかロジオンは育ちに似合わず、金がからむと思わずおよび腰になってしまうのだった。
「とはいえ、まだ未完成の魔法だけど、久しぶりに使ってみるか!」
自分を景気づけるように、ばちんっと頬を手のひらでたたく。
「あれ、やるのか?」
との問いかけにロジオンは真面目な顔でうなずくと、
「失敗したらサポートよろしく」
とぎこちない笑顔をはりつかせて援護を求めた。
「それはどうかな。愛想つかした俺がトンズラしないですむように祈ってるぜ!どっちかっていうと、その確率のほうが高そうだけどな」
たのみの綱のラグシードからはなんとも薄情な答えが返ってきた。しかし、つきあいの長いロジオンはすでに慣れっこになっている。
ふざけ半分のかけ合いの成果か、不思議と緊張はほぐれていた。
「じゃあ、始めるよ……援護、たのむ」




