↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/39

9.フォルトナの魔法円……のはずだったんだけど

  挿絵(By みてみん)



 空気《くうき》が自身《じしん》に吸《す》いつくように一体化《いったいか》し、やがて渾然《こんぜん》となった。静謐《せいひつ》なまでに心《こころ》が澄《す》みわたり、魔法力《まほうりょく》で全身《ぜんしん》が満《み》たされてゆくのを感《かん》じる。



 自然《しぜん》と深《ふか》く息《いき》を吸《す》って吐《は》き出《だ》す。

 古来《こらい》からの生命《せいめい》のいとなみ。

 そのくり返《かえ》しで精神《せいしん》を整《ととの》える。



『 フォーチュン・タブレット秘儀篇(ひぎへん)・フォルトナの魔法円(まほうえん) 』



 低《ひく》く短《みじか》くつぶやいて彼《かれ》が念《ねん》じると、床《ゆか》に見なれぬルーン文字《もじ》の魔法円《まほうえん》がみるみるうちに輝《かがや》き出《だ》した。



 翠色《みどりいろ》にふちどられた魔法《まほう》の光《ひかり》は、荒廃《こうはい》した食堂《しょくどう》を幻想的《げんそうてき》な雰囲気《ふんいき》で包《つつ》みこむ。



『 星(ほし)の恩恵(おんけい)を受諾(じゅだく)せし者(もの)ここに祈(いの)る 』



 朗々(ろうろう)と呪文《じゅもん》の詠唱《えいしょう》をはじめる。



『 優(すぐ)れた叡智(えいち)と幸運(こううん)に導(みちび)く結晶(けっしょう)のかけら

  我(われ)のもとへ集(つど)い恩寵(おんちょう)を与(あた)えたまえ……』



 そのあいだ、合成獣《キメラ》の鋭《するど》い爪《つめ》の猛攻《もうこう》を剣《けん》で攻防《こうぼう》しながら、ラグシードが合成獣《キメラ》を惹《ひ》きつける。先《さき》ほどとは打《う》って変わって真剣《しんけん》な顔だ。



 猛獣《もうじゅう》の力がよほど強《つよ》いのか、日《ひ》ごろ凄腕《すごうで》を吹聴《ふいちょう》している彼の剣《けん》がやや押《お》され気味《ぎみ》だ。早《はや》いところ決着《けっちゃく》をつけないと餌食《えじき》になってしまうかもしれない。



 ロジオンは全身《ぜんしん》の気力《きりょく》を奮《ふる》い起《お》こし、必死《ひっし》に集中力《しゅうちゅうりょく》を高《たか》めた。



『 災(わざわ)いを退(しりぞ)き憤怒(ふんぬ)を静(しず)めるフォルトナの力(ちから)よ

星屑(ほしくず)の魔法円(まほうえん)を刻(きざ)んで此処(ここ)に降(ふ)りそそげ── 』



 そして彼《かれ》は渾身《こんしん》の力をこめて、手の平《ひら》を天《てん》にかかげて声《こえ》を限《かぎ》りに叫《さけ》んだ。



【♔✧˖°★⟡ 星(ほし)の瞬(またた)きは闇照(やみてら)らす宙(そら)の刻印(こくいん)!!⟡★✧˖°♔】



 天《てん》に向かって呪文《じゅもん》を発動《はつどう》した瞬間《しゅんかん》、星《ほし》を砕《くだ》いたように煌《きらめ》く五《いつ》つの光《ひかり》の柱《はしら》が、天空《てんくう》から矢《や》のように降《ふ》りそそぎ、辺《あた》りはまばゆい閃光《せんこう》に包《つつ》まれた。



 その膨大《ぼうだい》な光《ひかり》の奔流《ほんりゅう》にのみこまれそうになり、遠《とお》のく意識《いしき》をつなぎとめようとロジオンは懸命《けんめい》にあらがった。



(ここ…で、気《き)を失《うしな》うわけには……い…か…な……い………)



 しかし彼《かれ》のせつなる願《ねが》いも虚《むな》しく……。



        

        ──✩₊⁺⋆☾⋆⁺₊✧──




 マインスター家《け》の姉妹《しまい》が、なごやかなティータイムに興《きょう》じていたときだった。



 ふいに店《みせ》の奥《おく》にある扉《とびら》が勢《いきお》いよく開《ひら》き、いかにも仕立《した》ての良《よ》さそうな黒服《くろふく》に身を包《つつ》んだ男《おとこ》が現《あらわ》れた。



 隙《すき》のない物腰《ものごし》をしたこの男《おとこ》は、忠実《ちゅうじつ》な責務《せきむ》を果《は》たす者特有《ものとくゆう》の冷静《れいせい》な一瞥《いちべつ》で店内《てんない》を見わたすと、姉妹《しまい》がくつろいでいるテラス席《せき》に目《め》を留《と》めた。



 慇懃《いんぎん》なようすで近寄《ちかよ》ってくるなり、彼《かれ》はためらうことなく二人《ふたり》に声《こえ》をかけた。



「お食事中《しょくじちゅう》のところ失礼《しつれい》ですが、マインスター家《け》のご息女《そくじょ》ですか?」



「そうですけど。なにかご用《よう》かしら?」



 どこか物々(ものもの)しい雰囲気《ふんいき》を察《さっ》したのか、キャスリンは怪訝《けげん》そうに心持《こころも》ち眉《まゆ》をひそめて聞《き》きかえした。男《おとこ》はこの店《みせ》の支配人《しはいにん》であることを明《あき》らかにすると、さっそうと用件《ようけん》を切《き》りだした。



「当主様《とうしゅさま》から伝言《でんごん》をうけたまわっております」



「まあ、お父様《とうさま》から!?」


 

キャスリンはすっとん狂《きょう》な声《こえ》をあげてカップを取《と》り落《お》としそうになった。



「話《はなし》を続《つづ》けて!」



 ただならぬ異常《いじょう》な事態《じたい》を察《さっ》して、アナベルは男《おとこ》を急《せ》かした。



「サマラ地区《ちく》のアトゥーアン本店《ほんてん》で、先《さき》ほど乱闘騒《らんとうさわ》ぎがあったと伺《うかが》っております。その際《さい》負傷者(ふしょうしゃ)数名《すうめい》を出《だ》す惨事《さんじ》となり、建物《たてもの》もいちじるしく損傷《そんしょう》があったようです。そのため手《て》の離《はな》せぬ自分《じぶん》に代《か》わり、被害状況《ひがいじょうきょう》をくわしく確認《かくにん》してくるようにとのおおせです」



 けたたましい音《おと》とともに、即座《そくざ》にアナベルは椅子《いす》から立《た》ち上がった。



(これこそ待《ま》ちに待《ま》ったもめごとだわ!)



 彼女《かのじょ》は一瞬瞳《いっしゅんひとみ》を輝《かがや》かせたが、あわてて真面目《まじめ》な風《ふう》を装《よそお》うと支配人《しはいにん》に言《い》った。



「用件《ようけん》はうかがいました。次女《じじょ》アナベルが現場《げんば》におもむくと使《つか》いの者《もの》に伝《つた》えて」



「アナベル!?」



「お姉様《ねえさま》はこのままティータイムでもお続《つづ》けになって!レストランにはあたしが行《い》くわ」



 嬉々(きき)とした表情《ひょうじょう》を浮《う》かべてそう言《い》い残《のこ》すと、颯爽《さっそう》とテラスを飛《と》び出《だ》していった。



 先《さき》ほどまでの意気消沈《いきしょうちん》ぶりはどこ吹《ふ》く風《かぜ》。すっかり溌剌《はつらつ》さをとり戻《もど》したアナベルは、通《とお》りすがりの馬車《ばしゃ》を拾《ひろ》うと素早《すばや》く乗《の》りこんだ。



「見《み》てくるだけでいいのよっ!お願《ねが》いだから余計《よけい》なことはしないでちょうだいね!」



 事態《じたい》をややこしくすることにかけて、妹《いもうと》は天才的《てんさいてき》なのだった。一人《ひとり》その場《ば》にとり残《のこ》されて、姉《あね》は途方《とほう》に暮《く》れた。



 しかしそれもつかの間《ま》、気《き》をとり直《なお》すと優雅《ゆうが》な仕草《しぐさ》でハーブティーをすすった。カップの中《なか》でミントの葉《は》が、風《かぜ》に吹《ふ》かれてくるりと回《まわ》った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。