6.高級レストランに来てみたものの
二人は広場を抜けて大通りに入り、馬車や人でにぎわう目抜き通りを気ままに闊歩していた。
洒落た看板を出した高級店が軒をつらね、上品な貴婦人たちがショーウィンドーをながめながらおしゃべりに花を咲かせている。
「たしかに華やかな女性が多いのは認めるけど。それにしてもラグは田舎がきらいだね」
「二度と戻りたくないぜ、あんな場所──」
反吐が出るとばかりにしかめ面をした相棒の横顔を、あきれつつもやや複雑な心境でながめると、ロジオンは懐かしい情景をまぶたに想い浮かべて、ぽつりと言葉を発した。
「僕は戻りたい気もするけどね……」
正気か?とでも言いたげなラグシードは放っておくとして、長旅がこたえたのか情けない音を立てて腹の虫が鳴っているのに気がついた。
「そういえば朝から食事してなかった。そろそろレストランにでも入ろうか?」
「やっと、ごちそうにありつけるってわけか」
待望の食事の誘いに満面の笑顔で答えると、ラグシードは腹部をなでさすった。すると一陣の風が彼の鼻先を吹きすぎた。
「うん?……なんだかいい匂いがするな。あの店なんてどうだ?」
ちょうど食指をそそる芳香がただよってきた場所に、大理石の円柱をしつらえた高級レストランがそびえ建っていた。ラグシードの視線は早くも殿堂のような建物にくぎづけだった。
「──ちょっと待った!そんな高そうなとこ入らないよっ!」
ロジオンの制止も強引にふりきって、彼はためらうことなく一直線に進んでゆく。
「おまえは財布のひもが固すぎるんだよ。たまには贅沢しようぜ」
「自分は一文も出さないくせによく言うよ!」
ふてくされている相棒を置き去りにして、ラグシードは店の敷居をまたいだ。しぶしぶロジオンもその後を追う。
どことなくほこりっぽい旅姿の二人は、玄関先で早々に入店を断られるのではないかとあやぶまれたが、それも杞憂に終わった。
店は各地から訪れた観光客でごった返していたからだ。ドレスコードにうるさい店ではないことに感謝して、奥に見つけた空席の椅子に座る。
やがて颯爽とした制服姿のウエイトレスが、折り目正しく水を運んできた。そのひんやりしたグラスに口をつける。
「なるべく実家の世話にはなりたくないんだけどな」
豪華な革ばりのメニューをながめてロジオンが途方に暮れると、向かいの座席に陣取ったラグシードが、ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべて言った。
「そう目くじら立てるなよ。親のすね、かじれるうちはかじっとけ」
「なんかの格言みたい。それ」
おかしくなって二人はぷっと吹き出した。
注文した料理がテーブルに並んだころ、なにやら言い争う声がして思わずふり返ると、玄関付近で傲慢そうな貴族の客と店員がもめている。
原因はどうやら客が連れているペットのようだった。
その貴族は食事のあいだ中、外の柱につないでおくと言いはっているが、店員はどうかそれはご遠慮願いたいと丁重にお断りしていた。
店側の言い分も無理はない。犬や猫ならばともかくそのペットというのが……。
百獣の王ライオンと猛禽類である肉食の鳥、大鷲を両方かけあわせて誕生した合成獣だったからだ。
しかも全身が雪のように白い毛に覆われていて、おまけに左右の瞳の色がちがうのだった。




