↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/39

32.眠れない夜の恋愛相談

   挿絵(By みてみん) 



 人《ひと》さし指《ゆび》から外《はず》した金《きん》の指輪《ゆびわ》が、さびしげに光《ひかり》を放《はな》ちながらテーブルの上《うえ》に置《お》き去《ざ》りになっていた。



 頭《あたま》がしびれたようになって、なにも考《かんが》えられなかった。

 ――いや、それは嘘《うそ》だ。



 アナベルは迷子《まいご》の子供《こども》のように心細《こころぼそ》い気持《きも》ちで、自室《じしつ》のベットに横《よこ》たわり毛布《もうふ》にくるまっていた。



 これで恋《こい》わずらいから開放《かいほう》されるという安堵感《あんどかん》とはうらはらに、彼女《かのじょ》をせき立てていたのは、ロジオンを引《ひ》き止《と》めたいという強《つよ》い想《おも》いだった。



(あたしを置《お》いていかないで、いかないで、いかないで――)



 よけいに心《こころ》の傷《きず》を深《ふか》くするだけだと知りながら、アナベルは願《ねが》わずにいられなかった。



(だめだわ……。これじゃあ今夜《こんや》は眠《ねむ》れそうもない)



 夜《よる》のとばりが降《お》りるころ、彼女は泣《な》きはらした瞳《ひとみ》をぬぐって屋敷《やしき》を抜《ぬ》け出した。一目散《いちもくさん》に馬車《ばしゃ》に飛《と》び乗《の》ると、濃《こ》い闇《やみ》に包《つつ》まれた夜《よる》の街《まち》へ走《はし》らせた。




        ──✩₊⁺⋆☾⋆⁺₊✧──




「リーム!こんな夜遅《よるおそ》くにごめん。でもどうしても相談《そうだん》したいことがあって……」



 勢《いきお》いよく扉《とびら》を開《あ》けると、アナベルは必死《ひっし》なようすで親友《しんゆう》にそう呼《よ》びかけた。



 だがそこで目にしたのは、室内《しつない》が薄暗《うすぐら》いため相手《あいて》の姿《すがた》ははっきりしないが、親友《しんゆう》が男《おとこ》と抱擁《ほうよう》を交《か》わしているシルエットだった。



「ごめんっ!邪魔《じゃま》したわっ」



 アナベルはあわてて二人《ふたり》に背《せ》を向けると、狼狽《ろうばい》のあまり床《ゆか》につんのめりにそうになりながらも、急《いそ》いで部屋《へや》を出ていこうとした。



「待《ま》って!アナベル。誤解《ごかい》よっ!」



 リームのせっぱつまったような鋭《するど》い声《こえ》が、彼女を必死《ひっし》に呼《よ》び止《と》めた。



「……アナベル?」



 相手《あいて》の男《おとこ》が低《ひく》くつぶやいた。



 なにやら聞《き》き覚《おぼ》えのある声に反応《はんのう》して彼女《かのじょ》がふり返《かえ》ると、薄暗《うすくら》がりの中から出《で》て来《き》た男《おとこ》と目が合った。



「ラグシード!?なんであんたがこんな所《ところ》にいるのよ!」



 思《おも》いがけない人物《じんぶつ》を目《ま》の当《あ》たりにして、すっとん狂《きょう》な声《こえ》でアナベルが叫《さけ》んだ。さすがの彼《かれ》も照《て》れくさいのか、バツの悪《わる》そうな表情《ひょうじょう》を浮《う》かべる。



「二人《ふたり》とも知《し》り合《あ》いだったの!?」



 アナベルとラグシードの顔《かお》を交互《こうご》に見ながら、あぜんとしたようすでリームがつぶやいた。



「それにしてもいいタイミングで飛《と》びこんで来《き》てくれたわ。私《わたし》もう少《すこ》しでこの男《おとこ》に襲《おそ》われるところだったんだから」



「お、襲《おそ》われるって……!?あんたあたしの友達《ともだち》になにすんのよッ!それとなんで二人《ふたり》が顔見知《かおみし》りなのか、ぜひとも聞《き》かせてもらいたいわね」



 アナベルが意地《いじ》の悪《わる》い笑《え》みを浮《う》かべてラグシードにつめ寄《よ》ると、たじたじになっている彼の代《か》わりにリームが説明《せつめい》した。



「彼《かれ》には先日《せんじつ》、私《わたし》が街《まち》で男《おとこ》にからまれていたところを助《たす》けてもらったの。それが縁《えん》でお礼《れい》に一度《いちど》だけ占《うらな》ってあげたことがあるんだけど、それだけよ。なのにあれ以来《いらい》、たびたびここに立《た》ち寄《よ》るようになって……」



「ラグシードが夜《よ》ごと徘徊《はいかい》して帰《かえ》ってこなかったのには、そんな理由《りゆう》があったわけね……」



 やや軽蔑《けいべつ》したようなまなざしを受《う》けて、ラグシードは素知《そし》らぬふりをした。



「それなのにこの男《おとこ》ったらなにを思《おも》ったのか、さっき突然押《とつぜんお》しかけてきて、『死《し》ぬかもしれないから一回抱《いっかいだ》かせろ』なんて言《い》うのよっ!?信《しん》じられない!無神経《むしんけい》にもほどがあるわ!」



 怒《いか》り心頭《しんとう》といったようすで、かなりの剣幕《けんまく》でリームがまくし立てた。しかし、肝心《かんじん》のアナベルは別《べつ》の部分《ぶぶん》が心《こころ》に引《ひ》っかかったようだった。



「ラグシード、死《し》ぬかもしれないってどういうこと?」



 うぐっと言葉《ことば》につまったように、彼は気《き》まずい表情《ひょうじょう》を浮《う》かべて口《くち》を閉《と》ざした。



「明日《あした》、屋敷《やしき》を出《で》て行《い》くってロジオンが言《い》ってたわ。それとなにか関係《かんけい》があるんじゃないの」



「明日発《あしたた》つって!?そりゃまた急《きゅう》だな。俺《おれ》だってそこまで聞《き》いてねえよ……」



 よそよそしく視線《しせん》をそらしてごまかそうとしているラグシードにかまわず、アナベルは静《しず》かだが語気《ごき》を強《つよ》めて話《はなし》を続《つづ》けた。



「話《はなし》をはぐらかさないで!もう一度聞《いちどき》くわよ。死《し》ぬかもしれないってどういうこと?」



 アナベルに真剣《しんけん》な瞳《ひとみ》で凝視《ぎょうし》され、彼《かれ》は観念《かんねん》したとばかりに大きなため息《いき》をついた。



「ロジオンにとっちゃ極秘《ごくひ》あつかいの内容《ないよう》だから黙《だま》ってたが、あんたには話《はな》さないわけにはいかなくなっちまったな。あいつは嫌《いや》がるだろうが、しょうがねえ」



 ラグシードは遠《とお》い記憶《きおく》に思いをはせるように、とつとつと語《かた》りはじめた。



 ロジオンが必死《ひっし》にアナベルに隠《かく》し通《とお》してきた、彼自身《かれじしん》の過去《かこ》について――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。