↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/39

25.空と大地の境界線

 挿絵(By みてみん)



 空飛《そらと》ぶ使《つか》い魔《ま》セルフィンの背《せ》に二人乗《ふたりの》りして、瞬《またた》く間《ま》に大空《おおぞら》を翔《か》けあがった。



「見《み》てごらん、水平線《すいへいせん》がきれいだよ」



 晴《は》れ晴《ば》れしたさわやかな声《こえ》で、ロジオンがうながす。しかし、瞼《まぶた》を開《あ》けたいものの、アナベルには下《した》を眺《なが》めるような余裕《よゆう》はない。



 セルフィンの騎乗《きじょう》は思《おも》いのほか不安定《ふあんてい》で、ふり落《お》とされないよう必死《ひっし》にしがみついていなければならなかった。



 腕《うで》をロジオンの背中《せなか》に巻《ま》きつけながら、アナベルは浮遊感《ふゆうかん》に戸惑《とまど》うあまりその手《て》にぎゅっと力《ちから》をこめた。



「……ごめん、怖《こわ》いよね?まだ操縦《そうじゅう》になれてなくて……おっと、ぶっつけ本番《ほんばん》みたいな感《かん》じだから。二人乗《ふたりの》りは初《はじ》めてだし」



 心配《しんぱい》に思《おも》ったロジオンは肩越《かたご》しにふり返《かえ》ると、瞳《ひとみ》をつぶったままのアナベルを見《み》てかすかに微笑《ほほえ》む。そして彼女《かのじょ》に優《やさ》しく声《こえ》をかけた。



「この辺《へん》は気流《きりゅう》が安定《あんてい》してるから大丈夫《だいじょうぶ》。アナベル、目《め》を開《あ》けてごらん」



 遥《はる》か上空《じょうくう》を漂《ただよ》いながら、ロジオンにうながされてアナベルはおそるおそる薄目《うすめ》を開《あ》けた。すると、まるで地図《ちず》を展開《てんかい》したような光景《こうけい》が眼下《がんか》に広《ひろ》がっていた。



 ふもとに雄大《ゆうだい》な森林《しんりん》を従《したが》える山脈《さんみゃく》、神秘的《しんぴてき》な透明度《とうめいど》をほこる湖畔《こはん》、若葉萌《わかばも》える緑《みどり》の草原《そうげん》、丸《まる》い水平線《すいへいせん》を描《えが》く広大《こうだい》な海原《うなばら》、それに続《つづ》く港湾《こうわん》。



 見下《みお》ろしたアナベルは目《め》を見《み》はると感嘆《かんたん》の声《こえ》をあげた。



「信《しん》じられない開放感《かいほうかん》!ねぇ、街《まち》が玩具《おもちゃ》みたいに小《ちい》さく見《み》えるわ。世界《せかい》って想像《そうぞう》したよりずっとずっと広《ひろ》いのね。空《そら》がこんなにも近《ちか》いなんて!雲《くも》だって手《て》を伸《の》ばせばすぐ届《とど》きそう」



 二人《ふたり》は太陽《たいよう》の光《ひかり》をさんさんと浴《あ》びながら、澄《す》みきった青空《あおぞら》と弓《ゆみ》のような地平線《ちへいせん》を見《み》わたした。



「空《そら》と大地《だいち》の境界線《きょうかいせん》。初《はじ》めて飛《と》んだとき僕《ぼく》も驚《おどろ》いたよ。こんなにも自分《じぶん》がちっぽけだったなんて。自然《しぜん》の包容力《ほうようりょく》に癒《いや》されたのかな、悩《なや》みなんか全部吹《ぜんぶふ》っ飛《と》んでしまいそうになった。初《はじ》めて世界《せかい》が優《やさ》しく感《かん》じられたんだ」



 目《め》を細《ほそ》めて溌剌《はつらつ》と語《かた》る少年《しょうねん》の姿《すがた》に、あらためて愛《いとお》しさが胸《むね》にせりあげてきた。背中《せなか》にまわした腕《うで》を通《とお》して伝《つた》わってくる彼《かれ》の温《ぬく》もり。



(今《いま》、すごく幸《しあわ》せ。でもこの幸福《こうふく》はいつまで続《つづ》くんだろう?)



 始《はじ》まりがあればやがて終《お》わりが来《く》る。

 今《いま》までの人生《じんせい》で散々学習(さんざんがくしゅう)してわかりきっていることだ。



 終止符《しゅうしふ》が打《う》たれることを怖《おそ》れて、アナベルはか細《ぼそ》い声《こえ》でつぶやいた。



「このままどこかに行《い》っちゃいたいな……」



「え?なにか言《い》った?風《かぜ》の音《おと》が邪魔《じゃま》でよく聞《き》こえないんだ」



「――ううん、なんでもない」



 アナベルは静《しず》かに頭《かぶり》をふると、ひたむきな視線《しせん》でロジオンの背中《せなか》を見《み》つめた。



「そろそろ降《お》りるよ。心《こころ》の準備《じゅんび》はいい?」



 瞬間《しゅんかん》、少年《しょうねん》の顔《かお》に浮《う》かんだいたずらっぽい笑《え》みに、なぜか嫌《いや》な予感《よかん》が脳裏《のうり》をかすめた。



「――それって、ちょっとした覚悟《かくご》が必要《ひつよう》ってこと?」



「そうとも言《い》う。しっかりつかまってて!いいかい?セルフィン!あの花畑《はなばたけ》に急降下《きゅうこうか》だ!」



「ちょっ!?待《ま》っ……て、ひぃえぇええええっ!!!」




        ──✩₊⁺⋆☾⋆⁺₊✧──




「う……うん……」



 うっすらとまぶたを開《あ》けると、心配《しんぱい》そうに見下《みお》ろすロジオンの姿《すがた》があった。



「よかった……気《き》がついて。落下《らっか》のショックで意識《いしき》を失《うしな》ってたんだよ」



 わずかの間《あいだ》だが失神《しっしん》していたようだ。

 彼女《かのじょ》を見《み》てロジオンがくすくすと笑《わら》っている。



「でも意外《いがい》だったな。武術《ぶじゅつ》に優《すぐ》れた君《きみ》が乗《の》り物《もの》には弱《よわ》いなんて」



「あんな乗《の》り物《もの》、平気《へいき》なほうがどうかしてるでしょっ!」



(あたしとしたことが振《ふ》り回《まわ》されっぱなしだわ。自分《じぶん》ばかり恥《は》ずかしい姿《すがた》をさらすのもしゃくだし、そろそろ形勢逆転《けいせいぎゃくてん》したいところね)



 空飛《そらと》ぶ合成獣《キメラ》に変化《へんか》したセルフィンは、すでに鷲《わし》の姿《すがた》にもどり大樹《たいじゅ》の幹《みき》で羽休《はねやす》めをしている。



 そのリラックスしたようすにつられたのか、アナベルはずっと気《き》にかかっていたことを口《くち》にしていた。



「ところでロジオン。故郷《こきょう》でその……想《おも》い人《びと》とか、待《ま》っている女性《じょせい》はいるの?」



 できるだけ平静《へいせい》を装《よそお》って口《くち》にしたものの、脈拍《みゃくはく》はすごい速度《そくど》で波打《なみう》っていた。



(これだけ美形《びけい》でしかも貴族《きぞく》の出身《しゅっしん》なら、恋人《こいびと》や許婚《いいなづけ》がいたっておかしくない。心《こころ》に決《き》めた女性《じょせい》がいなければ理想《りそう》なんだけど。でも……それって奇跡《きせき》に近《ちか》い確率《かくりつ》かしら?)



 そんなアナベルの動揺《どうよう》をよそに、ロジオンは肩《かた》を落《お》とすと皮肉《ひにく》な笑《え》みをこぼした。



「いたら苦労《くろう》してないよ。僕《ぼく》はずっと探《さが》してるんだ。運命《うんめい》の女性《じょせい》を――」



 幸運《こううん》の女神《めがみ》がついに自分《じぶん》に微笑《ほほえ》んだのだと、アナベルは確信《かくしん》した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。