↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/43

18.ラグシードと占い師の娘

 挿絵(By みてみん)



 そのころラグシードは日暮《ひぐ》れの歓楽街《かんらくがい》をさまよっていた。



 無目的《むもくてき》に通《とお》りをぶらついていると、路地裏《ろじうら》でフードを目深《まぶか》にかぶった若《わか》い娘《むすめ》が、三人《さんにん》の男《おとこ》にからまれているのが視界《しかい》に飛《と》びこんできた。



 男《おとこ》たちはいかにも街《まち》のごろつきといった風貌《ふうぼう》で、強引《ごういん》に女《おんな》の腕《うで》をつかんで近場《ちかば》の酒場《さかば》に連《つ》れこもうとしていた。



 ラグシードが立《た》ち止《ど》まって見《み》ているのに気《き》づいたのか、連中《れんちゅう》の一人《ひとり》が眼光《がんこう》を鋭《するど》く走《はし》らせた。



「なんだおまえ。俺《おれ》たちに文句《もんく》でもあんのか?」



 顔《かお》に刀傷《かたなきず》がある強面《こわもて》の男《おとこ》が、睨《にら》みをきかせてこちらに因縁《いんねん》をつけてきた。しかし、ラグシードは微塵《みじん》も臆《おく》するようすを見《み》せず、潔《いさぎよ》く啖呵《たんか》をきった。



「大《おお》ありだね。女口説《おんなくど》くんなら一人《ひとり》でやれよ。ムードもなく寄《よ》ってたかって群《むら》がって……むさ苦《くる》しいったらありゃしねえ」



 皮肉《ひにく》たっぷりに男《おとこ》たちを見返《みかえ》すと、いともたやすく悠然《ゆうぜん》と言《い》ってのけた。



「モテない連中《れんちゅう》のやることは見苦《みぐる》しくて見《み》てらんないね」



「……いい度胸《どきょう》してるじゃねぇか、兄《にい》ちゃん。英雄気取《えいゆうきど》りもほどほどにするんだな。俺《おれ》たちを侮《あなど》ると痛《いた》い目見《めみ》るぜ。後悔《こうかい》したってもう遅《おそ》いがなっ!」



 すぐ頭《あたま》に血《ち》がのぼる精神構造《せいしんこうぞう》にできあがっているのか、リーダー格《かく》とおぼしき屈強《くっきょう》な大男《おおおとこ》が、彼《かれ》の顔面《がんめん》をねらって殴《なぐ》りかかってきた。



 ラグシードは余裕綽綽《よゆうしゃくしゃく》それを回避《かいひ》すると、力《ちから》まかせにくり出《だ》した拳《こぶし》を男《おとこ》のあごに思《おも》いっきり叩《たた》きつけた。拳《こぶし》が強烈《きょうれつ》に炸裂《さくれつ》して苦悶《くもん》のうめき声《ごえ》をあげながら、大男《おおおとこ》は激《はげ》しく路地《ろじ》に倒《たお》れこんだ。



「喧嘩上等《けんかじょうとう》!いくらでも相手《あいて》してやるよ」



 うさ晴《ば》らしになるとばかりに、ラグシードは好戦的《こうせんてき》に残《のこ》りの連中《れんちゅう》を挑発《ちょうはつ》した。



「「こんのおぉぉッ!!」」



 案《あん》の定乗《じょうの》せられて二人同時《ふたりどうじ》に襲《おそ》いかかってきたが、宙《ちゅう》を切《き》って見事《みごと》に空《から》ぶりした。



 とっさに身《み》をかがめたラグシードが、後《うし》ろ手《て》に両手《りょうて》を地面《じめん》につけると、膝《ひざ》を曲《ま》げ屈伸《くっしん》の反動《はんどう》を利用《りよう》して、二人仲良《ふたりなかよ》く蹴《け》りをお見舞《みま》いした。



 そのまま体勢《たいせい》を整《ととの》えるなり、後方《こうほう》に宙返《ちゅうがえ》りしていとも華麗《かれい》に着地《ちゃくち》を決《き》める。



「お嬢《じょう》さん、大丈夫《だいじょうぶ》か?」



 あれほどの立《た》ち回《まわ》りでも、ラグシードは息《いき》ひとつ乱《みだ》していない。



 娘《むすめ》が無事《ぶじ》なのを確認《かくにん》すると、安堵《あんど》したのか彼《かれ》は背《せ》を向《む》けて、足早《あしばや》にこの場《ば》を立《た》ち去《さ》ろうとしていた。



「ちょっと待《ま》って!」



 思《おも》わず娘《むすめ》は呼《よ》び止《と》めていた。助《たす》けてもらった恩《おん》もあるが、なぜかこの男《おとこ》に興味《きょうみ》を抱《いだ》いたのだ。



 理由《りゆう》はわからない。

 捕《と》らえどころのない一筋縄《ひとすじなわ》ではいかないタイプだ。



(しょうがないわね。直感《ちょっかん》がそう告《つ》げているんだもの。職業上逆《しょくぎょうじょうさか》らうわけにはいかないわ)



 狐《きつね》につままれたような顔《かお》の青年《せいねん》に向《む》かって、彼女《かのじょ》は頭《あたま》を上《あ》げると毅然《きぜん》とした口調《くちょう》で言《い》った。



「お礼《れい》にあなたを占《うらな》わせて。私《わたし》これでもこの辺《あた》りじゃ有名《ゆうめい》な占《うらな》い師《し》なの」




        ──✩₊⁺⋆☾⋆⁺₊✧──




(占《うらな》いかぁ……。女子供《おんなこども》じゃあるまいし、まったく気乗《きの》りしねぇなあ)



 そう思《おも》いながらもしぶしぶ娘《むすめ》について来《き》たのは、彼《かれ》なりに理由《りゆう》もあった。



 最初《さいしょ》はフードに隠《かく》れてよく見《み》えなかったのだが、月《つき》の光《ひかり》に照《て》らされた娘《むすめ》の顔《かお》が、思《おも》わず息《いき》をのむほど美《うつく》しかったからだ。



 動機《どうき》なんていつだって、単純《たんじゅん》で不純《ふじゅん》なものである。



 きゅうくつな路地《ろじ》を何本《なんぼん》か抜《ぬ》け、店《みせ》じまいした商店《しょうてん》の脇《わき》にあるせまい階段《かいだん》を上ると、古《ふる》めかしい扉《とびら》があった。



 そこには『占《うらな》いの館《やかた》』といういかにもな看板《かんばん》がかかげられていた。



 彼女《かのじょ》にうながされるまま部屋《へや》に入ると、麝香《じゃこう》のような香《かお》りが漂《ただよ》っていた。占《うらな》いの館《やかた》らしく、まじないの道具《どうぐ》や妖《あや》しげな呪術用品《じゅじゅつようひん》が棚《たな》を占拠《せんきょ》している。



 それらを胡散《うさん》くさそうに物色《ぶっしょく》していると、とがめるような咳《せき》ばらいとともに背後《はいご》から声がかけられた。



 占《うらな》い師《し》は天蓋《てんがい》で仕切《しき》られた場所《ばしょ》にラグシードを案内《あんない》すると、水晶《すいしょう》が鎮座《ちんざ》しているテーブル席《せき》に彼《かれ》を誘導《ゆうどう》し、自分《じぶん》も対面《たいめん》するような形《かたち》で椅子《いす》に腰《こし》をかけた。



「別《べつ》にこれといって占《うらな》ってほしいことなんかないんだけどよ」



 まるでとりつく島《しま》もないといったようすで、不機嫌《ふきげん》そうにラグシードが言《い》うと、



「そんなこと最初《さいしょ》からわかってたわ。占《うらな》いなんて信《しん》じないって顔《かお》に書《か》いてあるもの」



 占《うらな》い師《し》は澄《す》ました顔《かお》で、平然《へいぜん》と言ってのけた。ならなんで誘《さそ》ったんだと疑問《ぎもん》に思《おも》ったが、どこかつかみどころがない雰囲気《ふんいき》の娘《むすめ》なのだった。



 彼女《かのじょ》はそれまでかぶっていたフードを下《お》ろすと、正面《しょうめん》から射抜《いぬ》くような視線《しせん》で彼《かれ》を捕《とら》えた。



「――エルフ族《ぞく》!?おまえエルフなのか!」



 ラグシードは瞳孔《どうこう》を見開《みひら》くと、驚《おどろ》いた拍子《ひょうし》に椅子《いす》から腰《こし》を浮《う》かせた。



 萌黄色《もえぎいろ》のつややかでまっすぐな長《なが》い髪《かみ》。

 若草色《わかくさいろ》の神秘的《しんぴてき》な瞳《ひとみ》。

 そして最大《さいだい》の特徴《とくちょう》である先端《せんたん》のとがった長《なが》い耳《みみ》。



 俗世《ぞくせ》を嫌《きら》うエルフは森《もり》の中《なか》に隠《かく》れ住《す》み、滅多《めった》なことでは人間界《にんげんかい》には現《あらわ》れない。各地《かくち》をさすらった経験《けいけん》のある彼《かれ》でさえ、本物《ほんもの》のエルフを見《み》るのはこれが初《はじ》めてだったのだ。



「目立《めだ》つから出《で》かけるときは、フードをかぶるようにしているの」



 どおりで美人《びじん》なわけだ。ラグシードは一人合点《ひとりがてん》がいったとばかりにうなずいた。



 エルフ族《ぞく》は長身《ちょうしん》で、眉目秀麗《びもくしゅうれい》な者《もの》が多《おお》いと聞《き》く。

 彼女《かのじょ》の場合《ばあい》ももれなくそれに該当《がいとう》するであろう。



「それじゃあ占《うらな》いを始《はじ》めるわね」



 娘《むすめ》は卓上《たくじょう》に置《お》かれた水晶球《すいしょうきゅう》に手《て》をかざすと、集中《しゅうちゅう》するためにまぶたを閉《と》じた。



 それをいいことにラグシードは深々(ふかぶか)と椅子《いす》にもたれ、腕《うで》を組《く》むとかなりぶしつけな目線《めせん》で彼女《かのじょ》をながめた。獲物《えもの》を値《ね》ぶみするような、遠慮会釈《えんりょえしゃく》のない視線《しせん》だ。



 ちょっとお高《たか》くとまってるのが鼻《はな》につくが、文句《もんく》なしに美人《びじん》だし、服《ふく》の上《うえ》から推測《すいそく》するにスタイルもなかなかのものだ。



 青年《せいねん》は娘《むすめ》のまえで平静《へいせい》を装《よそお》いながら、頭《あたま》のなかがいかがわしいことで埋《う》まってゆくのをあえて放置《ほうち》していた。



(詳細《しょうさい》は脱《ぬ》がせてみないことにはわからないが、それもまたお愉《たの》しみだ。なにしろ滅多《めった》に遭遇《そうぐう》できない水準《レベル》の女《おんな》であるのは言《い》うまでもない……ッ!)



 ラグシードは欲望《よくぼう》を押《お》し殺《ころ》した神妙《しんみょう》な顔《かお》で、ごくりと喉《のど》を鳴《な》らした。



(なんとかうまいこと誘導《ゆうどう》して、今夜《こんや》の相手《あいて》にでも誘《さそ》えないもんかな……)




 挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。