↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/40

12.恋の楽園

 挿絵(By みてみん)



(やっぱりやっぱりやっぱりぃぃっ!夢《ゆめ》の中《なか》の王子様《おうじさま》にうりふたつだわ!)



 初対面《しょたいめん》の少女《しょうじょ》に凝視《ぎょうし》され、戸惑《とまど》い気味《ぎみ》のロジオンだったが、勇気《ゆうき》をふるって声《こえ》をしぼりだした。



「あの……どこかでお逢《あ》いしたことありましたっけ?」



『はいっ、夢《ゆめ》の中《なか》で!』



 思《おも》わずそう受《う》け答《こた》えそうになり、アナベルは必死《ひっし》に口《くち》をつぐんだ。第一印象《だいいちいんしょう》をよりによって【変《へん》な娘《こ》】で、恋《こい》する男《おとこ》の脳内《のうない》にインプットするわけにはいかない。



「……あたし、アナベルっていいます。あなたのお名前《なまえ》は?」



「……僕《ぼく》?僕《ぼく》は……」



 そう言《い》いかけて、ロジオンは大変《たいへん》なことを忘《わす》れていたのに気《き》がついた。



「あっ!しまった……魔法《まほう》しくじったこと忘《わす》れてた。……合成獣《キメラ》はどうなった?」



「合成獣《キメラ》なら見違《みちが》えるほどしおらしくなったぜ。そちらのお嬢《じょう》さんみたいにな」



 皮肉《ひにく》たっぷりにラグシードが応酬《おうしゅう》すると、アナベルは頬《ほお》をふくらませて彼《かれ》を睨《にら》みつけた。事情《じじょう》がのみこめないロジオンは、二人《ふたり》のやり取りをきょとんとした表情《ひょうじょう》で見守《みまも》っていた。



「なら、よかった……。自己紹介《じこしょうかい》が遅《おく》れたけど、僕《ぼく》はロジオン。諸国《しょこく》を旅《たび》して魔法《まほう》の知識《ちしき》を収集《しゅうしゅう》しています。アナベルさんだったよね。君《きみ》はどうしてここに?」



「お嬢《じょう》さんはレストランのオーナーのご令嬢《れいじょう》だってよ」



「ひっ!?こ、これは……僕《ぼく》はとんでもないことを……???すみませんすみませんっ!必《かなら》ずべ、弁償《べんしょう》しますからっ!」



 とたんに顔面蒼白《がんめんそうはく》になったロジオンは、狼狽《ろうばい》のあまり何度《なんど》も頭《あたま》を下《さ》げた。



「落《お》ち着《つ》け、ロジオン。おまえが気《き》を失《うしな》ってる間《あいだ》にすでに話《はなし》の決着《けっちゃく》はついてるんだ。おまえはレストランを破壊《はかい》した極悪人《ごくあくにん》どころか、救世主《きゅうせいしゅ》あつかいだぞ?」



「へ?」



「あなたたちにぜひお礼《れい》がしたいの。だからうちの屋敷《やしき》に来《き》てもらえませんか?」



 まるで神《かみ》に祈《いの》りをささげるように、少女《しょうじょ》は胸《むね》の前《まえ》で手《て》を組《く》み瞳《ひとみ》をうるませ懇願《こんがん》している。



(なんなんだ?この状況《じょうきょう》……。よくわからないけど、断《ことわ》りづらそうな感《かん》じだよな?)



 ロジオンは自信《じしん》のなさそうな表情《ひょうじょう》を浮《う》かべ、ちらりと相棒《あいぼう》のほうを見た。



 俺《おれ》は別《べつ》にかまわないけど?

 といったようすで静《しず》かにうなずく。



「では、ご好意《こうい》に甘《あま》えて」



 アナベルに向《む》かってぎこちなく微笑《ほほえ》み返《かえ》すと、少女《しょうじょ》はかすかに頬《ほお》を赤《あか》らめたようだった。



「にしても、やっぱり失敗《しっぱい》したんだな、魔法《まほう》。このままじゃいつまで経《た》っても、フォルトナの魔法円《まほうえん》は未熟《みじゅく》なままか」



 合成獣《キメラ》は静《しず》めることができたとはいえ、魔法《まほう》の制御《せいぎょ》にしくじって、意識《いしき》をうしなって気絶《きぜつ》していたのだ。情《なさ》けないにもほどがある。



 瓦礫《がれき》の屑《くず》を服《ふく》から払《はら》い落《お》としながら、ロジオンは心《こころ》の底《そこ》からため息《いき》をこぼした。



 しかしそれとは対照的《たいしょうてき》に、ラグシードは面白《おもしろ》がっているようなふしさえ見受《みう》けられる。彼はくいっと親指《おやゆび》と人差《ひとさ》し指《ゆび》を立《た》てると、狙《ねら》いを定《さだ》めるように前方《ぜんぽう》にかざした。



「いや、乙女《おとめ》さえ見《み》つければなんとかなるんだろ?俺《おれ》、い~い、予感《よかん》がするんだけどな」



 その瞬間《しゅんかん》、天井《てんじょう》の穴《あな》から射《さ》しこんだ太陽《たいよう》の光《ひかり》が、偶然《ぐうぜん》アナベルをとらえて照《て》らしだした。



 一瞬《いっしゅん》、ロジオンは瞳《め》をうたがった──



 少女《しょうじょ》の瞳《ひとみ》は、あの可憐《かれん》な花《はな》びらと同《おな》じ紫《むらさき》色《いろ》をしていた。彼《かれ》と目が合うと彼女《かのじょ》は笑顔《えがお》を返《かえ》した。まるでエレプシアの花《はな》の精《せい》が微笑《ほほえ》んだようだった。



 ロジオンは瞳《ひとみ》をこらして、何度《なんど》もまばたきした。



 するとアナベルを包《つつ》んでいた光《ひかり》のベールはすっかり取りはらわれ、魔法《まほう》は解《と》けてしまった。そこにはごく普通《ふつう》の人間《にんげん》の少女《しょうじょ》がたたずんでいるだけだった。



(気《き》のせいか……。きっとあの呪文《じゅもん》を使《つか》ったからひどく疲《つか》れているんだ)



 そう自分《じぶん》を納得《なっとく》させると無意識《むいしき》に、今見《いまみ》た幻影《げんえい》を追《お》いはらおうとして頭《かぶり》をふった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。