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第9章 : ひらけた海路

祭りも終わり、七月の最後の日。


照りつける夏の太陽は容赦なくアスファルトを焼き、じっとりと重い潮の匂いが漁師町の隅々まで満ちていた。


ミンミン蝉の鳴き声が、激しく響いている。夏も盛りだった。


隆たちは、再び「白鴎丸」に集まっていた。


海岸近くの高台、夏草に埋もれるようにして打ち捨てられた古い廃船。その狭い船倉は、外の猛暑を吸い込んでむっと蒸し暑かったが、開け放した天窓から時折吹き込む海風だけが涼を運んでくる。


そこは、大人たちの目を盗んで集まれる、彼らだけの特別な聖域だった。


「ということで、修一さんから宝探しの協力を持ちかけられたが、俺は断った。腹が立ったからだ」


船倉の中央に置かれた古びた木箱を囲み、隆が引き締まった表情で切り出した。小学生としては大柄なその身体から、頼もしいリーダーの熱気が放たれる。


「第一、優希を脅かすような真似が気に入らない。これまで、ずっと俺たちに隠してきたくせに、俺たちが動き出したら協力しろ、とは虫が良すぎると思わないか」


その言葉に、定夫と航が深く頷いた。


隆のすぐ隣に座っていた優希は、小さく肩をすぼめ、少し潤んだ目をして隆を見つめていた。白鴎丸の薄暗い光の中で、その端正な横顔は、普段の快活さとは裏腹に、どこか儚げに映る。


隆が自分を守ってくれたことへの熱い感情が、いまだに胸の奥で燻っていた。


「……ボクが感じたのは」


優希が静かに口を開いた。


「修一さんは、洞窟の細かい位置までは、わかっていないと思う」


航が、目を鋭くして同意した。


「そうだよな。神社の写真を見ただけじゃ、笠島との位置関係から大まかにしかあの場所を特定できない。現在の地形と厳密に比較しないと、正確な地点は割り出せないはずだ」


「ああ、俺たちの方が、そこに関しては一歩リードしている」


隆は拳を握りしめた。しかし、すぐにその顔に険しい陰が差す。


「でも、問題はここからだ」


「洞窟の入り方がわからない、だよね」


優希が、隆の言葉を継ぐように言った。その声には、隠しきれない焦燥が含まれている。


「そうなんだ」隆は深く息を吐き出した。


「源さんですら、あの渦潮が消えるかどうかは知らないって言うんだ。


あの激しい渦潮を避けて、どうやってあの岩礁地帯に近づけばいい? あの執念深い渦巻は、みんなもこの目で見たろ」


「まあ、なんとかなるって!」


ムードメーカーの定夫が、頭の後ろで手を組みながら気楽な声をあげた。


「遊覧船があった時代には、あそこまで近づけたんだろ? だったら、行けないはずがないじゃんか」


「そのためには、過去の記録が必要だ。……修一さんは、何か知っているんだろうか」


隆が呟くと、優希が思い出したように顔を上げた。


「おじいちゃんが言っていたよ。修一さんは冬の冷たい海でも、ずっと潜っていたんだって。

たぶんだけど、渦潮以外の場所を片っ端から潜って、洞窟を探していたんだと思う。執念だよ、あれは……」


「なるほどな。となると、俺たちが調べた以上の伝承を、あの人は握っている可能性がある」


隆は一同を見回し、力強く提案した。


「よし、ここらで一度、俺たちが調べた情報を整理しようじゃないか。航、紙に書いてくれないか」


「了解」


航が短く応じ、ガラクタの棚から大きめの模造紙と鉛筆を取り出してきた。


木箱の上に紙を広げ、慣れた手つきで鉛筆を構える。


航の鉛筆が、次々にキーワードを繋げていく。


「密貿易」→「ダカット金貨」→「龍の首の形の岩と岩だな」→「崩落」→「海中洞窟」→「渦潮」→「遊覧船」→???


「ここが分からない」


「そして、伝承に残る『龍』の正体は、あの場所を阻む渦潮のことだ」


隆が断定するように言った。


しかし、そのとき、定夫の顔からいつものおちゃらけた表情が消えた。


「いや、待ってよ……。俺、見たんだ。龍を」


船倉の空気が、一瞬で凍りついたように静まり返った。


「えっ……いつだよ」


隆が怪訝そうに聞き返す。


「祭りの締めを、岸壁で漁協の組合長と一緒に手伝っていた時だよ。ほら、いつも祭りの最後に、笠島あたりの海がぼうっと光るだろ? あの時だ」


一同、息を呑んで定夫に身を乗り出した。定夫は少し極まり悪そうに、頭を掻いた。


「こんなこと言っても、普通は信じないよな……。だから誰にも言えなかったんだ。でも、確かに見たんだ。海から、黒い、棒のような『龍の首』が、すうっと持ち上がるのを……」


「信じるさ、当たり前だろ」隆が定夫の肩をドンと叩いた。


「定夫が見たっていうなら本当だ。」


「ああ、見間違いにしては具体的すぎる」


優希と航も真剣な目で頷く。


定夫の顔に、ぱっと明るい喜びが広がった。


「なんか……嬉しいな。信じてくれてさ。でも、本当にあの一瞬だけ、何かが海から生えるみたいに現れたんだ」


「やっぱり、なんかいるんだな、あのあたりには。あそこ、やたらと深いみたいだし」


隆が腕を組んで考え込む。


「それ、学校の図書室で調べたんだ」


航が言った。


「崖のすぐ沖から、海底が一気に落ち込んでるんだ。学校の本によると、相模湾でも有数の深さになるらしい」


「 もろ深海じゃんか!」定夫が目を丸くして叫んだ。


「深海から湧き上がる何かが、渦潮やその『影』に関係しているのかもしれないな……」


隆が呟き、航の手元に目を落とした。


紙の上には、これまでの情報が網羅されていたが、最後の一行だけが空白だった。航は静かに鉛筆を走らせ、そこに大きくこう書いた。


【不明:洞窟の入り方】


やはり、そこに突き当たる。どれだけ外堀を埋めても、あの渦巻く海を突破する方法が分からなければ、宝には手が届かない。


優希はしばらく黙っていた。


修一の寂しそうな横顔が頭から離れなかった。


沈黙が流れる中、優希が上目遣いに隆を見つめた。


「……修一さんに、協力してみたら?」


「お前!」隆は驚いて声を裏返した。


「怖い思いをしたばかりだろ。あいつが何考えてるか分からないんだぞ。それでもいいのか?」


「でも、別に何か乱暴されたわけじゃないし……」


優希は膝の上で小さく手を握りしめ、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。


「あの人、本当にあの宝に、自分の人生を賭けてるんだと思う。普通の人なら、すぐに諦めて、別のことを始めるよ。うちのパパみたいにさ……。でも、あの人は止められなかった」


「そういえば、優希の父さんも、医者になる前に一時、宝探しをやってたって源さんが言っていたっけな」


隆は少し冷静さを取り戻し、顎をさすった。


「修一さんは、きっとなんか知っているんだ。あの人しか知らない、古い記録か何かを。それでも、まだ

 宝に行き着いていないってことは、何かが足りないんだよ。」


隆は模造紙の上の「ダカット金貨」を見つめ、それから三人の仲間の顔を見た。


「……汐見堂に行ってみるか。みんなで」


「おうよ! みんなで行けば、怖くない!」


定夫が胸を叩いて、古いテレビ番組のギャグのようなセリフを叫んだ。


張り詰めていた船倉の空気が、その一言で一気に和らぐ。


「よし、決まりだ。修一さんの出方を見る。油断はするなよ」


隆の号令に、全員が力強く頷いた。


目の前に広がる夏の海はどこまでも青く、深く、少年たちの挑戦を拒むようにきらめいていた。



八月の最初の日。


この時期としては珍しく空一面に薄い雲が広がり、海から吹きつける風は肌寒いくらいだった。


真夏の熱気が一瞬だけ嘘のように引き、湿った潮騒の音だけが暗く響いている。


隆たち四人は、潮の匂う細い路地を抜け、古物商「汐見堂」の前に立っていた。


ガラガラと引き戸を開けると、そこは相変わらず骨董品やガラクタが所狭しと蠢く、時間の止まった異界のような空間だった。


奥の薄暗がりから、店主の松崎修一が姿を現す。


穏やかな笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には鋭い光が宿っていた。


「いらっしゃい。必ず来ると思っていたよ」


優しく声をかける修一に対し、隆は大柄な体をまっすぐに伸ばし、一歩前へ出た。


「まだ一緒に宝探しをすると決めたわけではありません。でも、僕たちだけでは宝に行き着けないのも分かっています。今日は情報交換に来ました」


修一は「ほう」と感心したように目を細め、静かに頷いた。


「君は、腕力だけでなく、やはり賢いな。いい判断だ。……奥へ来たまえ。飲み物ぐらいは用意しよう」


四人は、促されるまま初めて汐見堂の奥へと足を踏み入れた。


そこは古びた居間だった。


畳は使い込まれて擦り切れていたが、何よりも目を引いたのは、正面の壁一面に貼られた相模湾の古い地図だった。


すっかり黄色く変色したその紙面には、無数の赤い印や細かな手書きのメモがびっしりと書き込まれている。


三十年という歳月、宝探しに全てを捧げてきた修一の狂気じみた執念が、そこから立ち上ってくるかのようだった。


「この赤い印は、直接潜って洞窟のありかを確認しようとした場所だ。……若い頃の僕も潜ったがね、

 ほとんどは君のお父さんの達也君が潜ったんだよ。ちょうど、今の君くらいの年齢だったな」


「えっ……父さんが!?」


隆は思わず声をあげた。外国航路の船長として世界を股にかける父の姿と、この暗い部屋の地図が急に結びつき、困惑する。


「君のお父さんは、あの頃から筋金入りの海の男だったよ」


修一は奥の小さな台所から冷えたサイダーの瓶を四本持ってくると、低いちゃぶ台の上にコトコトと並べた。


「まあ、そう硬くならずに座りたまえ」


「……いただきます」


隆が頭を下げて手をつけると、四人はそれぞれコップにシュワシュワと泡立つサイダーを注ぎ込んだ。


喉を鳴らしてひと口飲んだ修一は、グラスを見つめながら口を開いた。


「今だから言おう。隆君が持ち込んだあのコインは、正真正銘の『2ダカット金貨』だ。あれだけで

 50万円はくだらない品物だよ」


「ご、ごじゅうまんえん!?」


定夫がコップを片手に間抜けな声をあげた。優希と航も息を呑む。


修一は子供たちの反応を見て、満足そうに薄く笑った。


「あの時は『偽物だ』と言って悪かったね。よくあれを模した土産物が欧米の遊園地などで売られているから、てっきりそうかと思ったんだよ」


(嘘だ……)


修一の横顔を見つめながら、優希は心の中で即座に否定した。


あの時、メダルを一瞥した修一の見せた顔は、そんな生易しいものではなかった。


あれは獲物を見つけた猛禽の顔であり、長年追い続けた執着が弾けた瞬間だった。


優希は密かに警戒の糸を張り直す。


修一は子供たちの視線を気に留める風もなく、話を続けた。


「君たちも御船神社に行って、あの戦後間もない頃の笠島が映っている写真を見ただろう。あそこに宝の

 隠し場所が映っているのに気がついたかい?」


優希が静かに頷いた。「……洞窟らしきものが、見えます」


「その通り。君のお父さんの恒一君はね、あの写真を見る前から、海中洞窟以外に宝の隠し場所はありえ

 ないと言っていたよ。小舟で入ることができて、誰にも見つからずに宝を運び込めるとなるとね。

 ……君も、恒一君に似て賢そうだ」


優希を褒める修一に、隆が口を挟む。


「でも、あの写真だけで正確な洞窟の位置が分かりますか? 台風で目印の『龍の首』という岩が崩落し

 たと神主さんが言っていました」


「分かるさ」


修一は立ち上がり、壁の地図の一点を指差した。


「あの角度で、笠島の三つの岩礁が重なって見えているとなると、ここ以外にはありえない。半島の先端

 の西側……ここだ」


指し示された場所を見て、隆たちは顔を見合わせた。


「僕たちも、そこまでは予想しました。源さんに頼んで船でそこいら辺の海まで連れて行ってもらったん

 です。でも、恐ろしい渦潮が巻いていて、とても近づけませんでした」


その瞬間、修一の顔がカッと赤らみ、瞳にらんらんとした異常な光が宿った。


身を乗り出すようにして隆に詰め寄る。


「源さんは、何と言っていた!?」


「あそこの潮目は読めないし、近づく漁師は誰もいないと……」


「そうなんだ……!」


修一は興奮を隠しきれない様子で、深く息を吐いた。


「私も何度も近づくことを試みた。だが、あの渦潮はどうもあの深い海の底の複雑な潮流に関係しているらしくてね、容易に消えたりはしないんだ。」


「私はこのあたりの古文書を片っ端から当たってみたが、伝承にある『龍』とはあの渦潮のことだった。いずれの文献も、その恐ろしさを龍に例えている」


ここで、定夫が思い出したように手を挙げた。


「でも修一さん、鴎ヶ埼道路ができる前には、あそこらへんに遊覧船が走っていたと聞きましたよ」


「……そこまで掴んでいたのか」


修一は一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに感心したように頷いた。


「確かに遊覧船があった。だが、それ以上の情報は得られなかったんだ」


修一は、子供たちを一人一人見回し、低く静かな声で言った。


「では、とっておきのことを教えよう。たぶん、この町の誰に聞いても知らないことだ。……ここまで話

 したんだ。一緒に宝を探してくれるかい?」


隆は腕を組み、しばし沈黙した。修一の醸し出す不穏な気配は感じつつも、自分たちの力だけでは壁にぶち当たっているのも事実だった。


「……分かりました。協力します。僕たちも、これ以上のことは分からないし」


「よく言ってくれた」


修一は満足そうに頷くと、先ほどの異常な熱気を綺麗に消し去り、まるで優しい近所のおじさんのような微笑みを浮かべた。


そして、どこか遠くを見るような目で、静かに歌を口ずさみ始めた。


りゅうが ねむるよ かさしまに


きんを ひろえば かえれない


ひが しずむころ ふりむくな


りゅうが めをあけ なをよぶぞ


「このわらべ歌は知っているね。小さい頃に大人たちから聞いたことがあるだろう。……だがね、この歌

 には『続き』があるんだ。今ではすっかり失われてしまった、続きが」


「えっ……!?」


一同は顔を見合わせ、息を呑んだ。修一は薄く口元を歪め、続きを口ずさんだ。


つきのひかりの そのよるに


りゅうはくちあけ ねむりおつ


きんのみちが ひらくとき


きんをひろうは そのときぞ


歌い終えた修一は、子供たちの顔をじっと見つめた。


「月夜には龍が眠るらしい。……この歌を、これから一緒に研究してみようじゃないか」



「それじゃあ、失礼します」


子供たちが重苦しい汐見堂を後にすると、修一は一人、居間に残された。


静まり返った室内で、彼は引き出しの奥から一枚の古い白黒写真を取り出した。


入道雲が激しく沸き立つ夏の海岸で、十代の若い修一が、少年ふたりと肩を組んで笑っている。隆の父・達也と、優希の父・恒一の少年時代の姿だった。


「達也……恒一……。まさか君らの子供と、再び宝探しをすることになるとは思わなかったよ」


修一は写真の表面を擦り切れるほど愛おしそうになぞり、ポツリと呟いた。


「僕だけ……あの夏休みが、まだ続いていたんだな……」



四人は無言のまま路地を歩き、導かれるように秘密基地「白鴎丸」へと戻ってきた。


薄暗い船倉のテーブルの上には、先ほど航が書いた【不明:洞窟の入り方】という大きな文字が残されたままだ。


「驚いたな……。あのわらべ歌に、続きがあったなんて」


隆が木箱に腰を下ろし、感嘆の声を漏らした。


航が眉をひそめる。


「でも、思わせぶりな歌詞の割りには、具体的な内容が分からないな。『月の光のその夜』って、いつの

 ことだ?」


しかし、優希だけが何かに引っかかったように、じっと考え込んでいた。


「待って……『月の光のその夜』……?」


優希は呟き、みんなを見上げた。


「ただの月夜なら、三日月でも上弦の月でも月は出るよ。どうしてわざわざ『その夜』って限定して歌う

 んだろう?」


「うーん、月かぁ……」


定夫が頭を抱え、ふと船倉の隅にある大きな雑具箱に目を向けた。


「そういえばさ、この船の雑具箱ってやたらと古いものが入ってるじゃん?昔の観光船のチラシをこの雑

 具箱でも見た気がするんだよね」


「そうだ! 俺も確かに見覚えがある!」


隆が立ち上がり、膝をついて雑具箱の蓋を開けた。中をかき分ける。古いコンパス、錆びついた船外灯、解けたロープ……その奥から、黄ばんだ紙の束を引っ張り出した。


一枚の古い白黒の紙を取り出してみせた。そこには『鴎ヶ埼遊覧船』とレトロな文字で書かれている。


海面に渦巻く渦潮のイラストと、そのすぐ脇をすり抜けるように進む小さな船。遠景の海の上には、おどろおどろしい龍の姿まで描かれていた。


その下に、数字だらけの一枚の表が挟まれていた。


「あった……!『鴎ヶ埼西域海面潮見表』だ!」


隆が走ってそれをテーブルに広げた。全員が身を乗り出して覗き込む。


表の上部には、古い活字でこう書かれていた。


『本表は、北流時は笠島と半島元瀬を結ぶ線以北における潮流を示し、南流時は笠島と半島元瀬を結ぶ線

 以南における潮流を示す』


下部には時刻とともに「転流時(Slack)」「最強(Maximum)」という表題が並び、潮の流れを示す細かい数字がぎっしりと印字されている。


そして、その表の欄外に、かつての船長――優希のひいひい爺さんが書いたと思われる手書きの朱書きが残されていた。


『満月、大潮、憩流けいりゅう


その文字の横には、潮流を示す数字が「0(ゼロ)」と書き込まれていた。


「これを見ろ!」隆が指を突き立てる。


「満月の大潮の干潮時……23時から、たった40分間だけ、あの激しい渦潮がピタリと止まるときが来

 る!」


優希の目がパッと輝いた。


「その時だ……! その時だけ、洞窟に入れる! それが『龍が口あけ眠りおつ』の答えだったんだよ!」


航が潮見表とわらべ歌の歌詞を突き合わせ、震える声で呟いた。


「満月の大潮の干潮時に渦潮が止まり、海面が下がって洞窟が姿を現す……完璧だ。全ての条件が繋がっ

 た」


「満月って月に一回だろ!?」


定夫が叫んでカレンダーに飛びついた。壁の破られたカレンダーを指差し、興奮気味に声を張り上げる。


「今月の満月はもう終わっちゃってる。となると、次の満月は……あっ! 8月8日だ! あと一週間後だ

 ぞ! ……なぁ、みんなで行こうぜ。修一さんには内緒でさ!」


定夫の提案に、船倉が一瞬静まり返った。


修一の不気味さを考えれば、自分たちだけで先回りするのが一番安全に思えた。


しかし、隆はゆっくりと首を横に振った。


「いや。修一さんには、ちゃんと教える」


「隆!?」定夫が驚いて隆を見る。


隆はまっすぐな目で仲間たちを見つめ返した。


「約束したからな。俺たちは協力するって言ったんだ。それに……あのおじさんは三十年間、この宝のた

 めだけに生きてきたんだぞ。騙すような真似はしたくない。堂々と一緒に行くんだ」


隆のまっすぐで力強い言葉に、定夫も航も、そして優希も静かに頷いた。


「よし……決まりだ。八月八日、決戦は一週間後の満月の夜だ!」


少年の力強い宣言が、静かな船倉に響き渡った。


白鴎丸の天窓から、雲の向こうに、夏の青空が覗いていた。


その向こうには、まだ細い月。


あと七日で満月。


誰もその夜、人生が変わるとは思っていなかった。


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