不登校
母にすべてを打ち明けたとき、返ってきたのは、思っていた言葉じゃなかった。
「机が倒れとるのも、たまたまでしょ。あんたの思い込みなんじゃないの?
ちゃんと学校行ったら?」
――その一言で、何かが切れた。
もう、限界だった。
何も、信じてもらえない。
私は、母に今までひどいことを言ってきた。
「ママのご飯、美味しくない。病院食みたい」
わざと肘をついて食べて、
一味を大量にかけたり、醤油を回しかけたりした。
でも、本当は違う。
ただ、苦しかった。
愛されていない気がして、どうしようもなく苛立っていた。
その感情をぶつけるように、味を壊した。
本当は、気づいてほしかっただけなのに。
――だからだろうか。
私のすることは、全部間違っていると、そう思われている気がした。
何を言っても、どうせ信じてもらえない。
そう思った瞬間、母との間に、見えない線が引かれた気がした。
味方なんて、どこにもいない。
――母すらも、敵だと思った。
しばらく経った、ある朝のことだった。
学校に着き、何も考えずに靴を履いた、その瞬間――
足の裏に、鋭い衝撃が走った。
思わず足を引く。
靴の中には、画鋲が入っていた。
気づかずに踏みつけてしまったらしい。
幸い深く刺さることはなく、にじむ程度の血で済んだ。
けれど、その瞬間、はっきりと理解した。
――ここは、危ない場所だ。
ただの嫌がらせじゃない。
下手をすれば、取り返しのつかないことになる。
心臓が早く打つ。
息がうまく吸えない。
私は慌てて靴を履き直し、近くにいた転校生の彼女にだけ告げた。
「先生に、帰るって伝えといて」
それだけ言って、走り出した。
その話を聞いた先生は、血相を変えて追いかけてきた。私は振り返らず無我夢中に走る。
けれど私は、玄関に飛び込むように帰り、
そのまま部屋へ駆け込んだ。
ドアを閉めた瞬間、ようやく少しだけ息ができた。
家に帰るなり、私は母にすべてを話した。
靴の中に画鋲が入っていたこと。
踏んだ瞬間の痛みと、怖さと――全部。
「もう、学校には行きたくない」
声は震えていたと思う。
しばらく黙っていた母はただ一言こう言った
「もう学校行かんでいいよ。先生に言うわ」
そのとき、やっとわかってもらえた気がした。
画鋲を踏んだあの時、怖さと同時に、別の感情が浮かんだ。
自分でも信じられないような感情が、胸の奥にあった。
少しだけ、ほっとしていた。
怖かったはずなのに。
傷だって、ちゃんと痛かったのに。
それでも、その出来事は、私にとって“解放”だった。
これで、行かなくていい。
もう、あの教室に戻らなくていい。
そんな考えが、自然と頭に浮かんでいた。
自分でも、少し怖かった。
こんなことで、安心してしまうなんて。




