第二十話:未来から見た今
選挙ポスターの掲示板に、ひときわ控えめな笑顔の写真が並んだ。
「無所属・新人 大友泰斗
現場から、制度を変える。」
キャッチコピーは、何度も悩んだ末に決めた。
派手な約束も、大仰な夢もない。
ただ、「現場」から生まれた言葉を、制度の中へ届けたいという思いだけだった。
選挙戦が始まると、街の風景が少しずつ変わった。
支援してきた店の前に、小さな手書きの応援ポスターが貼られはじめた。
「ことまちラボの大友さん、応援しています」
「あの店が変わったのは、この人がいたから」
「“現場を知ってる人”が議会に必要だと思う」
そのどれもが、大友にとっては何よりの言葉だった。
演説の最終日。
国領駅前のロータリーで、マイクを手にした大友は静かに語った。
「私はコンサル会社にいました。
大きな企業の仕組みを変える仕事をしてきました。
でも、ふと立ち寄った喫茶店で、“一人の店主の悩み”に触れてから、
私の仕事は変わっていきました」
「地域に根ざした個人店。
制度に声が届かない“ちいさな営み”を支えるには、
同じ高さの目線と、制度をつなぐ橋が必要だったんです」
「私には大きな後ろ盾も、派手な実績もありません。
でも、“現場を見て、話を聞き、仕組みを考える力”なら、
このまちで育ててもらったつもりです」
「制度の外から支えてきた私が、今度は制度の中から声を拾う人になります。
——このまちに、暮らすことを誇れるように。
子どもたちが、将来も“ここで生きたい”と思えるように」
「どうか、皆さんの声を、私に託してください」
選挙戦が終わった夜、大友は静かに結果を待っていた。
票は、決して派手に伸びたわけではなかった。
だが、各所に点在した“静かな共感”が、最後の1議席を押し上げた。
【当選】
大友泰斗(無所属)1,472票
拍手も歓声もなかった。
ただ、恵里と湊がそっと抱きしめてくれた。
「パパ、すごいね」
「いや、ここからが本番だよ」
初登庁の日。
議員バッジをつけたスーツ姿の大友は、
駅前で出会った顔ぶれに深々と頭を下げながら、
一歩ずつ市役所へ向かって歩いていた。
その姿を見ていた一人の学生が、友人に小さくつぶやいた。
「なんかさ、あの人、
“街のこと、誰よりも分かってる感じ”がするよな」




