第十九話:旗を立てる日
七月初旬の午後。
調布市議会での委員会審議の傍聴席には、珍しくテレビ局のカメラが入っていた。
「次年度の地域支援制度に係る予算案について、
『ことまちラボ』モデルを基軸にした制度化提案が上がっています」
議員が読み上げる言葉の中に、確かに“自分の活動”が含まれていた。
——もはや、自分は“外側”にはいられない。
そう実感した瞬間だった。
週末、まどかの店で再び支援チームが集まった。
「……で、どうするんですか。
市議会選挙、秋ですよね?」
石倉が、探るように聞く。
大友は、深く息を吐いた。
「まだ、決めてない。
でも、“制度を動かす”って言葉を聞くたびに、
今の立ち位置では届かない場面が増えてきたのも事実だ」
今村が静かに口を開く。
「仮に出馬するなら、“個人”としてじゃなく、“チーム”として構えた方がいい。
この活動を“票集めの手段”にされたら、それこそ後味悪いから」
「分かってる。
支援を“政治化”するんじゃなくて、政治の中に“支援の言葉”を持ち込むつもりでいる」
その晩、大友は自宅で一枚の紙を取り出した。
それは、市議会議員選挙における立候補届のフォーマットだった。
氏名:大友 泰斗
職業:地域支援事業代表
所属:無所属(予定)
主たる訴え:「現場から、制度を変える」
それを前にして、長く、沈黙が続いた。
日曜の朝。
家族で井の頭公園へ出かけた帰り道。
ベンチで休む大友に、湊が無邪気に尋ねた。
「パパって、なんでおしごといっぱいあるの?」
「うーん……街のために、いろんな人を助けたいからかな」
「じゃあさ、パパ、えらくなるの?」
「えらくはならないよ。
ただ、みんなが困らないように、ちょっとだけ先に声を出す人にはなろうかな」
夜。
恵里と二人で話し合う。
「……正式に考えようと思う。出馬」
「じゃあ、私も一緒に考える。
“家族が暮らすまち”のことだから」
「ありがとう。
これからは、“支援”じゃなくて“未来”って言葉で語る覚悟が要るかもしれない」
「覚悟は、最初から見てるから大丈夫。
旗を立てなよ。あなたの言葉で、あなたの場所に」
翌朝、大友はパソコンを開き、立候補に向けた所信を書き始めた。
私は、制度の外から声を届けてきました。
今度は、制度の中から“声を拾う人”になります。
名前だけの議員ではなく、現場に立つ議員に。
そして、「ことまち」を全国の言葉に変えていく第一歩を——




