2.『虫刺され』
「早く起きてきなさい?もうお兄ちゃんになるんだからね」
「はーい」
――どうやら俺は小学生の時の俺に生まれ変わったらしい、というよりタイムスリップ?――
大きなベットから小さな体を起こして一階まで階段を使って降りていく。
「おはよう恵」
「と、、ぱぱ」
ポストから新聞紙を取りに行っていた父が玄関先でコーヒーを飲みながら息子に話しかけて来た。
「今日は珍しくお寝坊しちゃったのか」
「そうなのよ」
――あの父さんが”お寝坊”?――
「まぁ学校が楽しみで寝れなかったんだろ」
――まぁ子供相手なんだから当然か――
「恵?違うのか?」
「ん?あ、そう!学校楽しみー!」
父が笑みを浮かべながら先にリビングに行って朝ごはんを食べ始める。
「ふぅ、あぶないあぶない」
――って、別に危なくないか――
「まぁ!」
突然後ろから母が大声を上げたことにびっくりして危うく心臓が止まりかけた。
「な、なに!?」
「恵ちゃんが、顔を洗ってる~!」
――は?――
「恵もお兄ちゃんの自覚が出て来たんだな」
――なんだこの夫婦、寄ってたかって成人男性を馬鹿にしてるのか?――
歯を磨きながらごく一般的なことをやって褒められたことにいら立ち、文句を言う。
「べふにかほくあいあはふほ」
「一人で歯磨きしてる~~!!!」
「お!恵は偉いな~」
――馬鹿にしてんのか――
ご飯を食べて小学校の制服に着替えたあと母の支度を待っている間に外の景色を見る。
「まさか自分で服を着れるなんて~」←涙でうまく化粧が出来ずに遅れている。
――俺、本当に小学生に戻ったんだな――
地獄のような日々を思い返しているうちに自然と涙があふれだしてきた。
「あれ?なんでだろう」
――きっと子供になったから涙もろくなったんだ――
「どうした?恵」
「と、、ぱぱ、なんでも、、、な、、、い」
突然泣き出す息子を不思議がっていた父だったが息子が安心するために笑みを浮かべてそっと抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だ」
「ぱぱ、、、」
恵が泣き出してしまったのはきっと地獄から抜け出せた喜びでも、子供になったから涙もろくなったからでもなく。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
おそらく。
「終わったよーってあら?寝ているの?」
「あぁ、さっき突然泣き出してしまってね」
おそらく、親に甘えることができた喜びで泣いてしまったのだろう。
「怖い夢でも見たのかしら」
「かもな」
「すーーー」
恵、幾年ぶりの安眠。
「―――ちゃん起きて」
「ん、ん?」
「学校ついたわよ」
「んーーーー」
「ん!?」
――学校!?――
車から降りると子連れの親子が大勢、正門や裏門から校内に押し寄せている。
「行きましょって恵ちゃん車酔いでもしたのかしら、震えてる」
「俺先車止めとくから」
「おねがいね」
「あばばばばばばばば」
――いざ学校に入るとめっちゃ緊張してきたーーー!!――
「もうどうしちゃったのかしら」
敷地内を進んでいくと教員が親や子供に挨拶をしていたのだがその中に一人、懐かしげな顔があった。
「おはようございますー、おはようございますー。あ、おはようねー」
「あ!おちせん!」
「おちせん?」
「おは、あ?」
――しまったー!つい懐かし気のある顔を見てテンション上がって呼んでしまったー!!――
彼はのちに生徒から「おちせん」と呼ばれる古株の先生だ。なぜ「おちせん」なのかというと、髪型が落ち武者みたいにてっぺん禿げのロン毛じじぃだからだ。
――ちなみに本人はこの名前の意味を理解していない――
「どうしたのかな君?」
「あ、えっと、おはようございます!」
「うんおはよう、元気があっていいね」
「はい!」
――あぶねぇーこの冷汗の量は会社に寝坊したと思ったけど休みの日だったくらいの冷汗だぜぇー――
彼が務めていたブラック企業の休みは月に一回、課長が社長に会いに行ってる日だけ。
――にしても変わんないなーここは――
校内の上履き入れを見てなつかしさに浸っている。
――いやまぁ別に変らんか、昔だし――
「いや今か?」
「あら?恵ちゃん、首の傷何かしら?」
「へ?首?」
――そういやうなじ部分が痒いような――
「虫に刺されたのかしらね、帰りドラックストア寄りましょうか」
「はーい!」
「それはそうと、恵ちゃんは三組だからーー」
――三組?そういや三組の担任ってたしか――
「皆さん初めまして、担任の原健吾と言います、よろしくお願いします」
――おちせんキタァァァァァァァァ!――




