1.一回目
―――ジリジリジリ
―――ピッ
鋼鉄のように思い瞼を開け、霞む視界で目覚まし時計が表示する時間を見る。
「…四時か」
髪の毛を水で濡らしかき上げ、歯磨きをしながら朝日だけに照らされた暗い部屋でニュースを見る。
『続いて、次のニュースです。昨日行われたショッピングモールでのテロ、犯人はいまだ逃亡中の事。被害人数は数千―――』
「…どうでもいい」
口をゆすぎ、ガムを加えて外に出る。
「四時十分、遅刻する…」
エレベーターに乗ってると時間が無いので、階段を数段飛び越えながら外に出て一キロ先の駅までそのまま走っていく。
「ふっ、すーふっ、すーふっ」
四時に十分発の電車にぎりぎり乗り込むことができた。
「…」
『次は~新日本~新日本~お出口は右側です。電車の――――』
「少し仮眠する…か……」
もう忘れかけていた懐かしの、ぬくもりある人の声が頭に呼びかけてくる。
【向こうに行っても頑張るんだよ!!】
【分かってるって母さん、行ってきます!!!】
【たまには連絡寄こしなさいよ!!!!】
――母さん…――
―――――もなく出発します~』
「――っ!?危ねっ!」
四時四十四分ポイントA到着。
そのまま四時五十分会社のデスクに着席する。
「昨日の続きと先方へのあいさつと今日使う資料を作らないと…」
顔を叩き活を入れる。
「よっしゃ!笑顔笑顔!!!」
五時十分、遅れて課長が執務スペースに入ってくる。
「号令!」
「「「「おはようございます!!!」」」」
「はい、意気込み!」
「はい!馬車馬のように働けることが本望です!」
「はい!背を曲げる角度は九十八度!」
「はい!我が社が世界一!」
「はい!えーっと」
「そこ!こっちこい!」
「す、すみ、すみません!ロボのように命令されたことは嫌がらずにやり―――
「あ?」
――馬鹿が――
腰に巻いていたベルトを取り、金具側が当たるように何度も何度もその女A社員にぶつける。
「おま、おまえはっ!働くことが苦なのかっ!」
「い、いべ」
口を開こうとした瞬間、頬を狙い喋らせないようにする。
「なんだ!?何とかっ!言えって!!!」
「すべ、ごべ、い、いやめで」
叩き続けること十分後。
その女A社員は地べたに這いつくばり服やタイツはところどころ破けており歯は何本か飛び、顔の原形をとどめていないほどに膨れ上がっていた。
「はぁ、はぁお前、よく見るとエロいな」
「おがぁぢゃん、おどうぢゃん」
「こっちっ!こい!」
「いや、いやあぁぁぁぁああああ」
片足を引っ張りながら課長と社員が執務スペースを後にした後、他の社員は机に座り一言もしゃべらず仕事にかかる。
その間、社内には打鍵音と肉が強くぶつかり合う音が小一時間ほど続いた。
午前八時課長が執務スペースに戻ってきて一人一人に新しく仕事を与える。
「お前は先方のとこ、お前はこの資料を昼まで、お前はーそうだな、俺と来い」
「「「喜んで!!!」」」
男B社員は社外へと、女B社員は課長室へと行き男A社員は一人、山積みに積まれた資料をまとめていく。
その間も打鍵音と甲高い声と肉がぶつかり合う音、何か汁物を啜る音が社内に響いた。
午前十二時すべての仕事を終わり昼休憩をとるが、この間は前日の仕事がまだ残っているので栄養ドリンクを飲みながら仕事を進める。
午後一時課長から頼まれていた仕事を全て終えたので、資料をもって課長室に届けに行く。
「失礼します。頼まれていた資料終わりました。」
「おう、ご苦労」
床には先ほど課長に付いて行った女B社員が痙攣しながら倒れていた。
「そういやプレゼンの資料、出来てんのか?」
「はい!完璧に仕上がっています」
「お前は他の奴とは違って優秀だな、ご褒美だそれ好きにしていいぞ」
そういうと床に倒れている女B社員を指さす。
「ありがとうございます!!!」
女B社員をおんぶしながら課長室を後にし、リフレッシュルームに連れて行く。
――偽造くらいした方がいいか――
女Bの服を全て脱がせた後その部屋を後にしてまだ終わっていないプレゼン資料を終わらせる。
午後五時、プレゼンを終了してデスクに付こうとしたが尿意を催したので先にトイレに駆け込むと個室に女性A社員が捨てられていた。
午後九時、男B社員が会社に戻り課長に報告している間に女AとB社員がバニーガール姿で執務スペースに戻ってきた。
その数分後に課長退勤。
午後十二時、帰る支度をしながら課長の置手紙を確認し、在宅ワーク用の書類を持って帰る。
午前一時帰宅。
栄養バーを食べながら残りの仕事を済ませている間にふと電車で見た夢を思い出す。
「…そういや久々に連絡するか」
携帯を開くと母と父から大量のメッセージが届いていた。
母からはあれから毎日の献立と今日あったこと、これから行くところが楽しそうに送られていた。
「こんなの送って来てたんだ」
最新のメッセージは三日前、家族とショッピングモールに行くというメッセージだった。
「ショッピングモール…?」
【続いて、次のニュースです。昨日行われたショッピングモールでのテロ―――――――――
「冗談だよな…」
脇汗が滝のように流れ、額には冷や汗が滲み出ながら被害者の名前から自分の母の名前を探していくが数万人の名前の中から家族を探すのには骨が折れる作業だった。
「母さん!父さん!しずく!」
パソコンで探しているときに誰かからメッセージが飛んできた。
――母さん!?――
『泉ちゃん気持ちよかったでしょ?これ追加の仕事ね♪』
「クソ爺が!!!!」
さらにもう一つのメッセージ、今度は父親からだった。
『恵いい加減にしてくれ』
「父さん?」
父親から今まで送られていたメッセージを見返す。
『母さんが今病院に運ばれた!しずくは行方不明だ!』
「は?」
『恵も早く病院に来てくれ!母さんが話したがってる!しずくは警察の人に任せてある!!!』
「おい…」
『母さんが、今息を引き取った…』
『しずくも川で見つかったそうだ…』
『恵、どうして来てくれなかったんだ?どうして父さんの言うことを聞いてこっちに残ってくれなかったんだ?どうして―――――――
今まで蓄積されていたストレスは全て自前の頑丈な感情で耐えていたが、ダムが決壊するが如く母親と妹が死んだ事実に抱えていたストレスが一気にあふれ出てしまう。
「…ごめん、俺言う事聞かなくて」
――あぁ、もしやり直せたらこんな――
――俺の人生、後悔ばかりだったな――
プツンとテレビの電源が落ちるように意識が切れる。
「――――――ちゃん起きて?恵ちゃん!」
「――っ!」
目が覚めると懐かしい天井と懐かしい顔が目に収まる。
「恵ちゃん!今日入学式なのに遅刻しちゃうよ?」
「入学…?」
「いつもはすぐに起きるのに、今日は変ね」
「母さん?」
「カアサン?ママですよー」
テレビが切り替わり、ニュースが流れる。
『続いてのニュースです。我々人類が火星で移住し始めて今日で100年が経ちました。またそれを祝うように新日本はお祭り―――――』
「百年、ってことは」
――どうやら俺は、三十年前の小学校入学式当日の俺に生まれ変わったらしい――




