19.そして
また夏が来て秋が来て、もうすぐ年を越すのかと思ったら春が来て。
――年を食えば食うほど年間の感覚が短くなっていくもんだけど、これはさすがに――
『卒業生、起立』
――早すぎないか?――
校長先生が壇上に上がり、講演台の前に立って卒業生やその親御さんにお辞儀するとのと同時にこちら側もお辞儀する。
『着席』
「えぇー、今日の桜はいつにも増して美しかったですが、私にはその桜よりも君たちが美しく感じます。つぼみだった君たちが、右も左も上も下も分からなかった君たちが、花を咲かせここを旅経っていくのを誇らしく思います。どうかこの先の人生を彩り豊かに過ごせますように。」
『校長先生、ありがとうございました』
それから教頭、学年主任と舞台に立っては話し。舞台に立っては話すを繰り返すこと20分後。
『卒業生、退場』
恵たちは小学校を卒業した。
卒業式が終わった後のクラスにて涙を流す卒業生がおちせんに感謝を述べていた。
「おちせん今までありがとー」
「元気でいろよ!」
――そういえば原先生のあだ名はおちせんになった――
「恵」
「紫音どうした?」
「いや、お前もおちせんに挨拶しなくていいのか?」
「いやだっ、女子たちが泣きながら囲んでるから行きづらいだろ」
「確かに」
なんて談笑をしているとおちせんが皆を一旦座らせる。
「じゃあ皆席ついて、最後の帰りの会をします」
「さいごぉぉぉぉぉ」
――そこ泣くところか?――
「そーだな、今日は17日だから恵!号令」
「あ、起立!」
恵の掛け声と同時にクラス全員が一斉に席を立つ。
「きおつけー」
礼!というつもりがうまく声が出なかった。
――あれ?なんでだろ。声が――
肩がピクリと上がり、呼吸調整がうまくできないせいで大きな声が出せなかった。
だが今は「礼」と早く言わないと皆が立った状態で待っているため、怒られてしまうと思い小さいながら声を出す。
「れぇぇえぇ」
掠れて震えた声で「礼」というと皆がこちらに振り向く。
――あれ?そんな変な声だったかな?恥ずかしさのあまり視界が――
うまく焦点が合わず、色しか認識できなくなったところで机に置いていた手の甲に何かが当たった。
――なんだこれ、水?――
そこでようやく自分が泣いていることに気づく。
――あぁそうか俺皆が、この環境が好きだったんだな――
涙を拭く恵をみんなが涙をこらえながら見届ける。
それは原健吾も同じだった。
「どおぉしたぁあ?きこえなかったぞぉお?」
涙を拭いて声帯を、感情を仕切り直す。
――悲しい思い出にはしたくないもんな――
「起立!きおつけー、礼!」
「「「「「お願いします!」」」」」
「はい!お願いします!」
――いつぶりだろうか、気持ちよく挨拶をしたのは――
ブラック企業に勤めていたころの朝礼を思い出す。
――いや――
が。
それと同時に小学校で号令していた日々も思い出した。
――もうとっくにしてたか――
「はい、起立!礼!!!」
「「「「「有難うございました!!!」」」」」
――俺今、ちょっと幸せ過ぎるかも――
この生涯において、恵が嫌な過去を思い出した最後の日だった。
「紫音ー帰ろうぜー」
「うん!」
親たちがいる正門まで紫音と一緒にゆっくりと思い出を振り返りながら歩いていく。
「なんかあっという間だったね」
「だなー」
「ここなんてさ、恵が先生と言い争ってたとこじゃない?」
そこにいるはずのない先生と自分が鮮明に浮かんでくる。
【雨だかと言って校内で鬼ごっこをしてはいけません!危ないでしょ?】
【ちゃんと歩いてますし右左だって確認してますよ?】
【そういう問題では…】
【どうしたんですか?】
【あ、小林先生実は―――】
【申し訳ありませんでしたーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!】
「懐かしいや」
「小林が来なかったら論破出来たのに…」
「なんか言ったか?」
「小林!先生、どうしたんですか?」
「俺も正門に行こうとしてんだよ、にしても吉田と柳木お前らだけだったぞ?忘れ物しなかったの」
「そうだったんですか!?」
「おま、おまあた、あたりまえだろ」
「そう!忘れ物しないのは当たり前にするんだぞ?」
「はーい」
「分かりました!!!」
「中学校でもうまくやってけよ」
「さよーならー」
――角度は45度弱!――
少し以前の記憶が戻った。
「明日から何しよっかなー」
「俺はゲームするぜ」
「いいね、僕も行っていい?」
「いけませんよ?宿題をしてからじゃないと」
「佐藤先生どうしたの?」
「転んじゃった子がいて消毒液を持って行ったところよ」
「おかしくないか?まだ入学してないのに宿題があるって」
「書類上は入学してるのよ、それに君達みたいに暇になって勉学をおろそかにする子がいないようにしてるの」
「子供に休息は無いのかよ」
「ていってもプリント三枚くらいだけどね」
「まじ?っしゃ!」
「はぁまったく、先生中学校でうまくやっていけるのか心配だわ」
「一人暮らしする息子の最後の晩餐かよ」
「言い得て妙ね、吉田さん」
「まぁね」
「「はっはっはっは!」」
「どうして佐藤先生と恵っていっつもどこかおじさん臭いんだろう」
「っといけない絆創膏取りに来てたんだった、それじゃ二人ともまたね」
「さよーならーーーー」
廊下を走り去っていく佐藤先生。
――やっぱ学校のルールっていい加減じゃね?――
「っと僕たちもお母さんたち待たせてるよ」
「走るか!」
「そだね」
そして正門まで走っていき各自の車に乗って家に帰っていきました。
おしまい!
その日の夜。
「宿題ってこの封筒の中に入ってたのかよ、どれどれちゃっちゃと終わらせますか」
封筒の中の紙を引くと、読書感想文が三枚出てくる。
「やってられるか!!!!!!!」




