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冬日向に舞う風花~夏と冬の狭間に揺れる夕陽の物語~  作者: 翠月
1章 冬日向とひび割れた心
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外伝 ヒヨドリジョウゴと夏海の声

サボテンは枯れてしまった。


元々、植物の世話をするのが好きなわけではなかったが、全く世話をしていなかったわけではない。

植物には水をあげていれば、それだけで育つものだと思っていた。


ひたすら毎日、水をあげた。そうしたら体が割れ、ぶよぶよになって腐り始めてしまった。


母や姉に、初デートの記念だからちゃんと世話をしろ、とよく言われていた。当時は余計なお世話だと反発していた。

だが、枯れて後戻りができなくなった今になって、ようやく真面目に栽培方法を調べておくべきだったと後悔した。


夕陽が差し込む窓に置いてある、枯れたサボテンの前でスマホを手に症状を調べる。


どうやら水をあげすぎたらしい。水を吸いすぎてブヨブヨになり、根腐れというものを起こして水が吸えなくなる。と書いてあった。


水をあげすぎるのも良くない、そんな初歩的なことさえも気付かずに私は夕陽との思い出を枯らせてしまった。


いや……違う。気付いていた。


私は、枯らせてしまった。


彼は枯れずに私のそばに居続けてくれると思い込んでいた。私らしくあり続けることが彼にとっても幸せなことだと都合よく決め付けて。


枯れたらもう帰ってこないというのに、私はそう思っていた。


秋にしては少し冷たい風が優しく吹き込み、カーテンと私の頬を撫でる。


瞳が熱くなり、目の前が濡れた。


サボテンに最後の水が垂れる。

朝練が終わり、教室に到着すると、夕陽はまだいなかった。


いつも彼を探しているけど今日ほど、いなくて不安になった日もなかった。


お母さんの朝ごはんは食べたかな……。


八木坂さんから来たダブルデートのメッセージを見て、何の根拠もないのに、あなたがいなくなるんじゃないかって不安になって……私がキスをしたせいで練習前の時間がなくて食べられなかったかもしれない……。


ごめんね。そう心の中で彼に謝る。


まだ誰もいない教室で一人、椅子に座って夕陽が来るのを待っている。


私はドアが開くたびに視界をそちらに向ける。友達が一人、二人と入ってきた。


いつものように友達に挨拶をしながら、目線だけは夕陽を探す。


友達には申し訳ないけど、彼じゃなくて残念だった。


だんだん、私の周りに友達が集まり始めた。視界に友達はたくさんいるが、夕陽はいない。


ドアが開く。机の周りにいる友達のすき間から夕陽の姿が見えた。


彼は人が多いのが苦手だから、教室では一人でいることが多い。だから私は軽く手だけを振る。


彼が手を振ってくれた。


嬉しい。今日も夕陽がそばにいるとわかっただけで、私は頑張れる。


別の日——


今日は朝練がなかったから夕陽とは一緒に登校はしなかった。


最近、朝練がない日は登校するのが遅い。何をしているのだろう?


周りの友達の輪から抜けて、教室の窓から校庭を覗く。


校門を歩く彼が見えた。姿を見れて嬉しかったが、見覚えのある女子が隣にいた。


八木坂さんだ。なぜ一緒に登校してるんだろう。たしか、彼女は電車で最寄りの駅まで来てから、自転車で学校まで登校していた気がする。


わからない、彼の家と学校は駅前を通らずとも登校はできるはずだ。彼の隣は私のーー


友達に声をかけられて、現実に引き戻される。


振り向くと友達から、どうしたの?と聞かれたから理由を聞くと、顔が笑ってないよ。と言われた。


他の女子と話していても何の問題もない。彼にもそういう交友関係くらいはあって当然だ。


だけど、わかっているけど、どうしようもなく不安になる。早く教室に来てほしい。


しばらく待っていると、ドアが開く音が聞こえる。


彼が入ってくるのを確認できて安心する。今日も一日、勉強もバスケも頑張ろうと、そう思えた。


昼食はいつもどおり、机をくっつけて友達と喋りながら食べる。彼は相変わらず一人で食べている。

私は友達の話に相槌をしながら、一人で楽しそうに食事しているところを見てお昼ごはんを食べるのが日課だった。


また別の日ーー


今日は朝練があったから夕陽と一緒に登校をした。お母さんの朝ごはんを渡してあげると、感謝しながら受け取ってくれた。今度はもっと早起きをして私が作ってあげようかな。


お昼ごはん。いつも通り、一人の彼を見ながら食べようとしていたら、廊下で八木坂さんと一緒に話をしている。


嫌な予感がする。教室に帰ってくるよね?


結局、帰ってこなかった。私は彼のいない学校の昼食を初めて食べた。


不安だった。いつもは教室で一人お昼ごはんを食べているのに、なんで今日はいなかったの?


この不安を埋めてくれるのは彼だけなのに、ここ最近は八木坂さんといる時間が多い気がする。


彼女からメッセージが来たときに感じた、漠然とした不安がおぼろげな輪郭を作り、襲いかかってくるような感覚を覚える。


さらに別の日ーー


今日も朝練はなかったから、夕陽とは別々に登校した。


校庭を覗いていると、今日も八木坂さんと登校している彼の姿が見えた。やっぱり、わざわざ駅前を通って彼女と一緒に登校してるのだろうか。


放課後のバスケの練習が終わった後、いつも一緒に下校しているから聞けば良いのだろうけど、重い女、面倒な女と思われたら嫌だから……いつまで経っても聞けないままだ。


それでも彼が教室に入ってくる姿を見れば、私の心は安心する。


お昼ごはんになると、彼は廊下で待っている八木坂さんと一緒に教室からいなくなってしまうことも増えた。だから、彼のいない学校の昼食も増えてきた。


一緒いる時間が減ってきたことが、不安で怖くて、どうにかなってしまいそう。


でも最近、同時にこう感じたりもする。


「男を含めた友達と話したり遊んだりしてる私の姿を見ている夕陽はどう感じているのだろう」と。


私はバスケ部のレギュラーとして他の部員と仲良くしないといけないし、教室内でも色んな友達と話すのは楽しいことで、悪いことだと一度も感じたこともなかった。その延長にある、外で遊ぶことも……。


でも、私は夕陽と八木坂さんの距離が近くなった事実だけで、こんなにも心が不安定になってしまった。

もしかして……彼も同じなのではないか?


今まで、私以外の女と仲良く話してる姿なんて見たことがなかったから想像もしなかったけど、それは言い訳にもならない。


私は、最初から夕陽のことを考えてるようで、何も考えてなかったのかもしれない。


だってそうでしょ?夕陽の立場からすれば、私のことを「恋人よりも友達のほうが大事だと思っている彼女」だと思っていても何ら不思議じゃない。


そう考えたら寒気がした。今まで私がしてきたことは夕陽にとっては苦痛だったのでは?私を気遣ってずっと、それに耐えてきたのでは?


今までの私の言動や考え方は根本的に何かを間違えているのではないか?


そういえば、明後日の日曜日も彼からデートに誘われたけど篠田たちと遊びに行く予定がもっと前から入っていたから断ってしまった。土曜日の午前練習のあとは、部活仲間も含めてカラオケに行く予定だ。


これを最後にしよう。来週からは、友達よりも夕陽とデートすることを何よりも優先しよう。じゃないとーー。


……起こってもいない妄想をこれ以上するのは止めよう。


とりあえず、今すぐできることは……次のお昼ごはんは一緒に食べようと声をかけよう。手遅れになる前に。


翌日の土曜日、夕陽が篠田たちと夜バスをしてることを忘れていて、カラオケを抜け出して電話をかけてしまった。

留守電になってしまったので、あとで気にしないで、とメッセージを送ろうと思っていた。


だけど、送る前に彼から着信が来た。

最初の着信は取れなかったけど、次はすぐ取った。


通話に出ると、いつものように優しかった。少し疲れているように聞こえるけど、バスケで疲れたのだろう。

夜遅くまで遊んでいる私のために、いつものようにお母さんの代わりに優しく説教を始めようとした。


いつものように、私を想ってくれる夕陽の声が心地よかった。


その矢先、男友達が私を呼びに来た。


夕陽にもその声が聞こえたかどうかはわからない。


電話口から彼の優しい声が聞こえない。


心臓の鼓動が早くなる。


周りの音が耳障りで、考えがまとまらない。


焦って、茶化してくる友達に「うるさい!」と怒鳴って振り払う。


何か言わないと……何を言えば……。


少しの沈黙のあと、いつも以上に優しい声で「楽しんできてね」そう、最後に言ってくれた。

たぶん、男友達の声が聞こえてしまったのだろう。


夕陽の声が震えていた。


胸騒ぎがする。


このままでは、夕陽と途切れてしまう。


「夕陽っ!待って!私、まだ、あなたに謝りたいことがーー」


私から離れないで、そう願って叫んだ。


そのまま通話が切れてしまった。誤って切れてしまったのではない。彼が切ったのだと思う。


無音が広がる。男友達の騒がしい声は徐々に聞こえなくなり、私はひとりになる。


何を悠長に……これを最後にしよう、来週からは彼を優先しようなんて思っていたのだろう。


結局、私は気付いていたはずなのに、何も理解してなかった。

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