第98話 頼り
店の外に出るとディアス先輩は入り口の横に座り込んでいた。
「ディアス先輩」
「おお、ドレイクか、悪いな……」
「いいですよ、それよりも飲みましょう」
そう言って俺は持ってきたジョッキをディアス先輩に渡す。
「お前……こういう時は水を持ってくるのが普通だぞ?」
「先輩と飲みたかったので」
「はぁ……まあいいか」
無言で乾杯をして二人して酒を飲む。
「今日はお前が主役なのにすまなかった……」
「先輩は空気読めないから気にしてませんよ」
「お前……面白くなったな?」
「おかげさまで」
ニコっと笑って先輩を見る。
「……ぷっ、ははははっ!!」
笑ってくれた。
「いや、頼りになる後輩だ。自慢の後輩だよ本当に……」
「俺は何か返せましたか?」
「え?」
「いつも先輩たちに世話になるばかりで……俺は何かできたかなって……」
「そうだな、居てくれるだけでも十分ってもんだ。可愛い後輩にはな」
「先輩……落とそうとしてます?」
「いーや、俺に男を抱く趣味はねえよ、知っているだろ?」
「知っていますよ」
夜空を見あげる。
街の喧騒と料理の良い匂い、そして輝く星々。
「先輩、知っていましたか?」
「何を?」
「今日、エリゼさんが来ていた事」
「……いや、知らなかった」
「必死に声を出していたのですぐに俺は気づきましたよ」
「そうか、エリゼが……」
街の喧騒が静まった気がした。
ポタポタと涙がこぼれ落ちる音がする。
「それにロディスさんも」
「兄貴も来てたのか……そうか」
ディアス先輩は普段なら真っ先に手を振って気づいているはずの人だ。
「俺は馬鹿だよ……大馬鹿者だ……」
いきなり強さを手にすると周りが見えなくなる経験を俺は何度もしていた。
「今度メイルに剣を教えてくれませんか?」
「……剣?」
「先輩より教え上手な人知りませんから」
「!!」
「お前……俺を落とそうとしているな?」
「俺に男を抱く趣味はありませんよ」
「そうか」
「はい」
二人して笑いあう。
「店に戻って飲みましょう、先輩、腹減ってますよね?」
「ああ! 戻るか!!」
俺は店の中に入ろうとした。
「ドレイク」
? 振り向くとそこには晴れ晴れとした顔のディアス先輩が笑顔を浮かべていた。
「サンキューな」
俺は嬉しくなった。
「今度、焼肉奢ってくださいよ? それでチャラです」
「ははっ! いくらでも奢ってやるよ!! ほら! 中へ入るぞ!!」
中へと戻ると皆が見てくる。
「悪い! 反省してきたわ!」
なら大丈夫だろうと皆またグラスを持つ。
「では注目!」
フラム副団長が席を立つ。
「我ら騎士は国と民を守るための剣である! それを今一度胸に刻んでほしい! そして! 我が魔法師団が行動で周囲に示さねばならん!!」
「「「はっ!!」」」
「これからも! お前らの未来と活躍に期待している!!
「「「はっ!!」」」
「我ら魔法師団に栄光あれ!! 乾杯だ!!」
「「「乾杯!!!」」」
皆でグラスを合わせて団結を深める。
「俺は!! 魔法師団一の騎士になってみせます!!!」
「!!」
ディアス先輩だ。
「ならば、堂々としていろ。そのマントは飾りではない」
「はっ!!」
しばらく料理を楽しんでいると刀刃の横にナーシャが来た。
「こんばんわ~先輩方」
「おう、どうした?」
ナーシャはニコニコしているが刀刃はちょっとモジモジしている。
「ははーん、ひょっとして……」
ディアス先輩は心当たりがあるらしい。
「実は……私達、お付き合いすることになりました!!」
「!!」
「マジか……!!」「おめでとう!」「やるな刀刃!!」
場が刀刃とナーシャの話題で一色になる。
「おめでとう、刀刃、ナーシャ」
「ありがとうございます!!」「……ありがとうございます、ドレイク先輩」
「なんだよ刀刃、こういうのは男の方から言うもんだぜ?」
ディアス先輩がちょっかいをかけているが……まあ、確かにそうかもしれない。
俺も報告はしないで黙っていた方だから何も言えない。
結婚の報告は流石に休みが終わって一番にしてあるが……。
「僕のどこがいいか分からなくて……」
「ということは? ナーシャからアタックしたのか?」
ワーグルが聞いてみることに。
「ええ、控室で震えていたからキスしちゃいました!!」
「恥ずかしい……」
刀刃は両手で顔を隠している。
「わお、大胆だなー……」
ディアス先輩は大げさに驚いて見せる。
「ナーシャちゃーん?」
「はい!」
ナーシャはライラに呼ばれて席を移動した。
今は女性陣に囲まれて根掘り葉掘り聞かれている。
いわゆる女子トークという奴だ。
「ナーシャは堂々としているのに刀刃はなんかあれだな」
バアルが言葉で刺していく。
「だって、ナーシャみたいな可愛い子にいきなりキスなんてされたら、誰でも夢みたいだなってなりませんか?」
「まあ、気持ちはわかるが、ナーシャの思いは受け止めて真摯に返すことだな。一方通行だとすぐに破綻するぞ?」
「それは、困ります……」
「プレゼントとかデートとか考えておけよ?」
「は、はい、勉強になります……」
ディアス先輩の恋愛講座が始まった。
俺達はそれをなんとなく聞きながら酒を飲んでいる。
「ところでバアルは彼女いないのか?」
俺は気になって聞いてみることにした。
「ん? 俺は医療班のセーラと付き合っているぜ」
「そうだったのか……確かに何回か一緒にいるのを見かけたな」
「ワーグルはどうだ?」
今度はジノが聞く。
「僕は時雨ちゃんと付き合ってるよ」
「!!」
「時雨が、ワーグル先輩と!!?」
刀刃が大声で言ったため女性陣の注目の的になる時雨。
「時雨ちゃーん? どういうことかな?」
「兄者! 声がデカいです!!」
「ご、ごめん!」
「ワーグル君と時雨ちゃんかー……結構合っているかも」
「ミュフィス先輩!!」
時雨があたふたしている。
「で? ワーグルから行ったのか時雨から行ったのか気になるな」
ディアス先輩が深掘りをしていく。
「そこは僕から言ったよ。好きです、お付き合いしてくださいってね」
「「「おおお!!」」」
「ルーカスとユミルも怪しいよな……」
「いや、あそこはまた別の感じで……」
そういった話で盛り上がっていると新しい客が入ってきた。
「カランコロン」
「だーっ! 疲れたあ!! ボス! 今日はとことん飲みましょう!!」
丸刈りで刺青を入れている男が入ってきた。
「いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」
「ああ? 俺達の顔見て分からねえの? 貸し切りに決まってんだろ?」
「それは……」
「なんだ? 貸し切りに出来ねのか?」
「ボ、ボス。それが……」
「いつからこの店は偉くなったんだ? ええ?」
女性店員の顔を覗き込み脅迫をする男。
「ひっ……!! すみません……!!」
「おい」
「ああ?」
「いつから光の剣は、私達よりも偉くなったんだ?」
「!!」
「誰だてめえは……って! フラム・グレース!!!」
ボスと呼ばれた男はフラム副団長を見て驚いている。
「ボス……!! 魔法師団はマズいですよ!!! Lv.100が何人いるか……!!」
丸刈りの男は慌て始める。
「チッ!! おい! 場所変えるぞ!!」
「は、はい!!」
ゾロゾロと集団を引き連れて去っていく。
「こ、怖かった……」
女性店員は腰が抜けたようで地面に座り込む。
「大丈夫ですよ、私達が守りますから」
ライラが肩を貸して椅子へと座らせる。
「助かりました……」
それにしても光の剣とは……あんなゴロツキ集団だったか?
その後二次会組と別れ、俺達は待ち合わせをしている父さん達の所へ向かった。




