第95話 騎士団長
ディアス先輩と試合をする約束をしてから一ヶ月が経つ。
俺は朝早くから身体を動かしていた。
今日は騎士団で行われる決闘の日。
俺とディアス先輩が戦う約束から話が広がり、闘技場を使ってイベントとしてやることになった。
相手はディアス先輩だ、本気で臨まなければいけない。
「じゃあ、いってくる」
「気を付けてね! 応援しに行くから!」
「おう!」
メイルの朝の訓練に付き合いつつ自分のコンディションを整える。
やれることはやった、後は本番で勝つだけだ。
今日の試合は闘技場で行われる。
騎士団員や城に勤めている兵士達、それと国王陛下達、王族の方々も見に来る予定だ。
一年前に行われた御前試合が懐かしい、あの時もこんな感覚だった。
身体が熱い、五感が研ぎ澄まされて自信に満ち溢れている。
俺は午後四時から行われる試合の為、早く家を出て魔法師団の修練場へと足を運ぶ。
今日行われるのはハイルさんと刀刃の試合、俺とディアス先輩の試合。
他にも試合はあるがメインイベントはこの二試合である。
テレビ中継もされるようでかなり大規模なイベントだ、全国から観客も来ている。
刀刃もLv.100に到達していて、誰が勝つかは予想がつかない。
俺は修練場に刀刃とマシュアを呼んで朝から訓練をしていた。
「ここまでにしておこう」
マシュアが時間を見て一度俺達を止める。
「そうだな、刀刃! 勝って来いよ!」
「勝ちますよ、死んでもね。ドレイク先輩も御武運を」
「お前もな」
タッチを交わして刀刃は試合が始まる為に先に修練所を後にした。
「じゃあもう少し付き合ってもらうぞ、マシュア」
「ああ、いくらでも相手になろう」
僕の相手はあのハイル騎士団長、名実ともに騎士団最強の一人だ。
先輩達にああは言ったがさっきから震えが止まらない。
思えばこんな大舞台に立つのは初めての経験だ。
あの日ドレイク先輩とフラム副団長の御前試合を観て僕は決心した。
いつか僕もあの大舞台に立って、熱い試合をして勝利を収めると。
こんなに早く実現できるなんて……。
コンコンコンとドアがノックされる。
「刀刃君、まもなく試合です。……刀刃君?」
ナーシャが心配そうに僕の名前を呼ぶ。
「ナーシャ……さっきから、震えが止まらないんだ……」
するとナーシャは刀刃の前まで来る。
そして刀刃へと口づけをした。
「!!」
ゆっくりとナーシャの熱が離れていく。
「貴方がどんだけ頑張って来たか私は知ってる。だから、勝ってきなさい!!」
「ナーシャ……」
僕は両手で自分の顔を叩いた。
両手を見る、震えは確かに止まっていた。
「勝ったら、僕と付き合ってくれるかい?」
「負けても振らないから、安心して戦ってきなさい」
フフッと二人で笑いあう。
「行くよ、見ていてくれ、僕の晴れ舞台を」
「かっこよく決めて来なさい!」
バシッと背中を叩いて応援される。
「ああ!」
大切な刀を持って僕は闘技場へと歩いていく。
覚悟は決まった、心に少し余裕も出来た。
後は、ハイルさんに勝って、ナーシャへ勝利のプロポーズを捧げるだけだ。
「観客の皆様、お待たせしましたーー!! 本日のメインイベントを始めます!!」
会場は大いに盛り上がっていた、進行を任されているのはギルド風の歌の歌姫ことウェンディー・ハーキスだ。
「では騎士の入場です!! 騎士団長のハイル・アーツ様、魔法師団の刀刃様です!!」
僕はゆっくりと闘技場の中央へと進んでいく。
「刀刃ーー!!」「勝てよーー!!」「行け―ー!!!」
仲間たちの声が聞こえる、だけど正面から歩いてくるハイルさんから目が離せなかった。
「ハイル様ーーー!」「キャーー――!!」「結婚してくださーい!!」
やけに女性ファンが多いな……羨ま、いやいや、集中するんだ。
中央へと着き二人が対面する。
ハイルさんはまだ周囲へと手を振っている。
「待たせて悪いね。でも、僕はこの日をすごく楽しみにしていたよ、剣を極めし者同士、今日はいい試合にしよう」
「勝ちますよ、それが貴方に対する僕なりの敬意です」
「いいね、やろうか」
ハイルさんの口角が上がり、戦闘態勢に入る。
互いに剣を構える。
「それではーーー!! 試合!! 開始!!」
互いに駆け出す!!
速度は同じ!
「せあああああああああっ!!」
刀を振るう。
「ははっ! 以前見た時よりも成長しているね!!」
激しい剣戟の応酬が繰り広げられる。
だが少しずつ押されている! ならあれを使う!!
「剣神の加護よ!! 竜殺しの一撃を!!」
「剣の英雄よ! 我が身に宿れ!!」
そして互いに衝突する。
激しい鍔迫り合いだ!
「ぐぅぅぅっ!!」
「どこまで持つかな!」
このままだと押し負ける!!
(一旦引いて立て直すか……!!)
「引くな刀刃! 前にでろ!!」
「!!」
ドレイク先輩!!
なんとか踏ん張りハイルさんの剣を前へと押し出す。
「うおおおおおっ!!」
ハイルさんは一旦下がって距離を取る。
互角だ。
今のところ互角。
「へえ、下がると思ってたよ」
「僕が今ここに立てているのは仲間の皆のおかげです。だから、負けられない!」
「僕にも背負っている物はある、だから、決めさせて貰うよ」
「光刃の加護よ」
(光魔法!? 初めて聞く魔法だ、なら全力で立ち向かう!!)
「せああああああっ!!」
僕が先に駆けだした、今までよりも速く。
そしてハイルさんの手首を狙う!!
ハイルさんが迎撃に入るが遅い! 貰った!!
斬った!! 確かに僕の刀はハイルさんよりも早く手首に当たったはずだ。
だが、先に手首を斬られたのは僕だった。
「貰ったよ」
ハイルさんは僕の手首を斬り落としてそのまま左胸寸前のところに剣を突き立てた。
「!!」
「僕の勝ちだ」
「はぁっはぁっ…… ッ!! ……参りました」
「勝者は!! 騎士団長ハイル・アーツ様だーーー!!!」
うおおーーと会場が湧く。
医療班が僕の下へと寄ってくる。
「刀刃君! 腕を治すわ! 傷口を見せて!!!」
駆け寄ってきたのはナーシャだ。
「ごめん……勝てなかったよ……」
するとナーシャは斬られた腕を掴んできた。
「かっこよかったわよ……だから! そんな顔しないで堂々としていなさい!」
「!!」
涙がこぼれてくる。
悔し涙ではない、嬉しかった。
近くで僕を見てくれて、心配してくれて、かっこよかったなんて女の子に初めて言われた。
「ありがとう!! ナーシャ!!」
僕はナーシャへと抱き着いた。
「ちょっと! まだ治療が!!」
「……ありがとう!」
「もう、よくやったわ、お疲れ様」
「……うん!」
僕は涙で前が見えなくなるほど泣いた。
治療が済み、控室に戻るとき、ドレイク先輩とすれ違った。
「ドレイク先輩……」
「惜しかったななんて言わねえよ、それくらいには実力の差があった」
悔しさが込み上げてくる。
「騎士団で長年積み上げて来た物が、俺や刀刃にはまだ足りねえ……」
「はい、分かっています」
「それでも、それが負けていい理由にはならない」
「……はい」
「俺が証明してみせる、新しい時代の到来だとな。だから刀刃、俺の試合を観ていろ」
「……はい!」
「行ってくるぜ、お前の悔しさ俺が晴らしてやる」
「お願いします!!」
「風邪ひかねえように着替えろよ? じゃあな」
そうしてドレイク先輩は闘技場へと歩いていく。
大きいな……僕はこの背中を追い続けるんだ、今は応援をしよう。
僕は観客席で試合を見る為に急いで走り出した。




