第93話 長杖
俺達は王都エストアへと戻ってきていた。
マシュアの結婚式も盛大なお祝いと共に行われて、終始皆が笑顔で楽しかった。
こんなにも充実して幸せな休日は初めてだ。
後はまた日常に戻り、騎士としてやらなければいけないことがある。
魔法師団第二修練場。
今日は朝早くから結構な人がいる。
俺は久しぶりにマシュアと近接戦の訓練をしていた。
「チッ!! 隙がねえ!!」
マシュアは雷魔法を捨てて今は短剣と弓を扱っている。
ゲルドとよく訓練をしていたからか熟練度もかなり上がっている。
昔みたいに近接戦が苦手な弓兵ではなく、遠近どちらも対応できるようになっていた。
だが、それだけで超えられる程に俺は柔な訓練はしていない。
回し蹴りを喰らわせ、ドガッという鈍い音と共にマシュアを後ろへ下がらせる。
その瞬間駆け出し猛攻をくらわせる。
「ぐぅぅぅっ!!」
かろうじて防御しているがそこから反撃には来させない。
そして最大威力の右爪で短剣を弾き飛ばして勝敗は決した。
「参った、もう一本頼む」
しばらくマシュアと訓練をしているが簡単には勝たせてくれない……短期間でどれだけの思いで剣を振って来たかが伝わってくる。
「だぁーーー!! 疲れたーーー!!」
昼休憩に入り早速ディアス先輩は地面に座り込む。
「はぁっ……はぁっ」
ずっと刀刃の相手をしていたのだろう、息を切らしている。
俺も流石に疲れた……今日は軽めの昼食にしようかと考えていると、まだ戦っている人がいるのに気づいた。
「氷城の防壁!!」
「ウォーターカノン!!」
ミュフィスとアイルースは苛烈な魔法勝負をしていた。
「アイスナイフ!」
ミュフィスが氷の剣を生成してアイルースへと斬りかかる。
だがアイルースの杖さばきのほうが上だ。
「ぐぅううっ!!」
長杖で簡単に攻撃を弾かれて蹴りを胴体に貰ってしまう。
「うわー……今のは痛いな」
ディアス先輩が実況し始めた。
「まだっ!!」
再び近接戦をしかけるが簡単にいなされてまた蹴りをくらう。
「がはっ……!!」
口から血が滲み出る……。
「スパルタですね……なんか怖くなってきました……」
刀刃が若干引いている。
アイルースは昇格している。
そう、昨日Lv.100に到達したのだ。
アイルースの怖い所は防御に長けている事。
それはつまり、防御が甘ければ簡単に見切り、手痛い攻撃をお見舞いできるという事になる。
だからミュフィスは攻撃に出ても守られるし、防御は見切られるしでボロボロだ。
「そこまでだ」
フラム副団長が試合に割って入る。
「まだ……戦えます!!」
「いや、十分だ」
「私は……!!」
フラム副団長に抗議をしようとすると意外な事を言い始める。
「今後ミュフィスは刀刃と訓練をしろ、アイルースは一軍に入れ」
一軍、魔法師団は騎士を軍で分けている。
俺、ディアス先輩、ジークさん、ワーグル、マシュア、ウィゼルさんが一軍だ。
基本一軍は一軍同士で戦うか、二軍の者を指導して伸ばしている。
一軍に入る条件は騎士団の中で絶対に他者に後れを取らない物があるかどうか。
それはフラム副団長が判断をしている。
「刀刃、休憩前にミュフィスと戦え」
「はい、いつでも準備は出来ています」
「……お願いします、刀刃君」
「お願いします、先輩の奥さんだからって手は抜きませんよ?」
「始め!!」
刀刃は合図と共に全力で駆けだす。
「氷城の防壁!!」
ミュフィスの魔法も早い!!
「それは! 甘いですよ!!!」
刀刃の一撃が魔法の障壁を斬った。
「!!」
「アイスランス!!」
宙に氷の槍が浮かぶがその前に刀刃の刀が首元へ突き付けられる。
「そこまで!」
ミュフィスは悔しそうだ、そしてどう強くなったらいいか分からなくなっている頃だろう。
「惜しいな」
フラム副団長はそう評価した。
「私の何がいけないんでしょうか……?」
震えた声でそう問い返すミュフィス。
「氷魔法は確かに防御においては強い。ただ、今お前に足りていないのは火力だ」
「火力……」
「Lv.100を超えたければ……そうだな、長杖くらいは振るえる様にならないと厳しいぞ」
基本的な考えで言うと短杖は初心者用の武器だ。
長杖は上級者の証であり、扱える魔法の幅や火力も上がる。
そして杖での近接戦も熟せるという強みもある。
「午後の訓練からは私が以前使っていた長杖を使うと良い。腐らしておくよりかはマシだ」
「!!」
いきなり一級品を持たせて大丈夫なのかと考えるが……。
「ありがとうございます!!」
ミュフィスは深く礼をする。
「それでは休憩に入れ、休みも重要な訓練の内の一つだ」
「「「はっ!」」」
皆で昼休みに入って、午後の訓練へと進む。




