第90話 安心
夕方になり母さんが戻ってきた。
「ただいまー!」
「おかえりなさいエレナ様、ドレイク坊ちゃまがお待ちです」
「あら? もう帰って来ているの?」
「ええ、早く着いてしまったと」
「夕ご飯の準備間に合うかしら……?」
「それがですね……」
セイベルに荷物を預けて母さんはリビングへとやってくる。
「ただいまー! って……まあ!」
テーブルには数々の料理が並び今も料理をしているミュフィス達に驚く母さん。
「おかえり! 母さん!」
「レイ! これは……」
「座ってよ、今日は女性陣に頼んで料理して貰っているんだ」
「そうなの……」
席に座りキッチンを眺めている。
「エレナ! 聞いてくれ!」
「どうしたの?」
さっき俺達が婚姻届けを提出して結婚したことを知る。
「そう……娘が出来るってこんな気持ちなのね……」
柔らかい笑みを浮かべて涙をこぼす。
「マシュアも家族になったし、今日ほどめでたい日は無いな」
しみじみとしながら皆の顔を見る父さん、母さん。
「出来ました!!」
最後の料理を完成させ、キッチンから戻ってくる女性陣。
軽い挨拶と自己紹介を済ませて俺達は夕飯の時間を楽しんだ。
夜、皆が寝静まったころ俺はテラスに出てた。
夜空に浮かぶ眩い星々、俺も昔は星の加護で喜んでいたっけ……。
白い加護を初めて授かった日、俺はどこまでも強くなって世界で一番を取れる気さえしていた。
だけど現実は簡単じゃなかった。
仲間を何人も失った。
学院の友人、学院長、騎士団の先輩、メイル。
何人死んでいったか……。
俺は弱い。
弱く、頼りにならない俺だが、仲間がいる。
優しくて、笑顔をくれる仲間が、強くて、情に熱い仲間が。
仲間の命を守りたい。
それだけでいい、もう、多くは望まないよ。
星を見ていると不思議な気持ちになる。
人生なんて一瞬で、星の輝きよりも儚いものなんだろうと。
だけど俺は精一杯生きてやる。
生きて、幸せな人生だったと最期に言いたい。
まだまだやりたいことがあるよ……。
俺は……死にたくないんだ。
気づいたら泣いていた。
「最近涙もろいな……ははっ」
ごしごしと涙を拭う。
「俺がずっと目指していた白聖の騎士……立派な騎士になれたかな? 少しは近づけてたらいいな……」
物語のような勇敢で優しく、かっこいい騎士のようになれているのか自問自答する。
「いや、まだまだだな……俺は弱くてかっこよくもない……頼りがいもないし、優しくもない……」
「なんだ? 悩み事か?」
「マシュア……」
いつの間にかマシュアがいた。
「お前はよくやっている、その若さで苦悩するのは当たり前だ……」
「そうかな……俺にはそう思えないんだ……」
「覚えているか? 私とドレイクが初めて会った時の事を」
「鮮明に覚えているよ」
「お前はあの頃から勇敢で、騎士のようだった」
「そうか? ビビッて逃げようとしていたんだぜ?」
「それでも、お前は立ち向かっていった。あの年で出来る事じゃないさ……」
手すりに背を預けてワインを飲む姿が様になっている。
片手には開けたばかりのワインの瓶が握られていた。
「どうだ? お前も飲むか?」
「頂くよ」
部屋に置いていたグラスにワインを接ぎ、グラスを渡された。
「こうして一緒に酒を飲める日が来るとはな……」
「平和になった証だよ」
「乾杯」
グラスを合わせてワインを一口飲む。
「私には夢があった」
「へえ、どんな?」
「世界平和さ……あまりに馬鹿げているが、本気だった」
「それで?」
「色々な人と出会い、色々な経験をして夢は変わったよ……今は、家族を守る事だ」
「そうか……」
「ドレイク」
「なんだ?」
「私達で、家族を守るんだ」
!!
「私だけでは正直不安だ……だが、お前となら何だってできる気がする」
「マシュア……」
「そして、私は私の責任を果たさないといけない」
マシュアのグラスを持つ力が強まった。
「魔王を倒す」
!!
「魔王って……お前……」
「家族を傷つけた報いは、必ず受けさせる……!! 許せないんだ!!」
「……」
俺は何も言えなくなってしまった。
あの魔王を倒す……? あまりにも危険すぎる……。
「マシュアの気持ちは嬉しい、でも……魔王は危険だ……」
「分かっている。いつかだ、今は手は出さない」
「そうか……」
俺は嬉しかった。
魔王に負けてから、上に挑戦する気持ちがポッキリと折られていた。
どうしても格上相手に負ける事前提で考えてしまうようになっていた。
「その時は、俺も行くよ」
「ドレイク……」
「いつまでもビビってたらメイルに嫌われちまう。それに、マシュアとなら何だってできる気がする」
「フッ、そうか……じゃあ、もっと強くならなきゃな」
「ああ!」
決心が決まった所でまた乾杯をする。
「今日はいい夜だ、本当に」
「そうだな、いい夜だ」
自信を取り戻せた。
次は負けない……逃げたりしない、家族を守るため、魔王を討つ。




