第89話 親
ランドロック領に入り、バーセラルの街に無事に辿り着く。
「ふぅ……久しぶりの故郷だ……」
俺は目を閉じ、空気を目いっぱい吸い込み帰って来た実感が沸いてきた。
「二年ぶりか? もっと経ってるような気もするな」
「良い街ですね、活気がありつつも自然豊かで」
「だろ? アイルースさん達は初めてだから後で案内するよ」
「よろしくお願いします」
ふふっとアイルースは微笑んでいる。
「じゃあ、家に帰るか!」
「おー!」
家までは徒歩だ。
馬車で帰ってもいいが、街を歩きながら帰るのが好きだからそうしている。
「レイのお父さんってどんな人?」
「私はレナイゼル様よりも優しい方は知りません」
「レイのお母さんは?」
「そうですね……世界で二番目に優しい方です。レイに厳しく当たるのは、執事長のセイベル様くらいでしたから」
「へえー! セイベルさんはどんな人?」
「セイベル様は時に優しく、時に厳しい方ですよ」
「うーん、優しいだけじゃ想像つかないなー」
「俺の父さんも母さんも友達みたいな感じだよ」
「友達?」
「俺と対等な立場で、話して、遊んで、叱ってくれるんだ」
「そうなんだ! 友達か……」
「細かいことは基本気にしない、器の大きな方ですよ」
マシュアはそう思っているらしい。
ライラも納得したようなしてなさそうな感じだが、会えばわかるだろう。
しばらく話ながら歩いていると館が見える距離まで来た。
「ドレイク様ー!!」「レイ様!!」
門にいるシアとシグニが気づいて手を振ってくる。
「シア! シグニ! ただいま!!」
門を開けてくれて早速中へと通される。
「今レナイゼル様をお呼びしてきます!」
「頼むよ」
シアが館の中へと走っていく。
「じゃあ、俺達も入ろうか」
マシュアが扉を開けて皆が中へと入る。
「すごーい! 立派なお家!!」
ミュフィスが感動して褒めてくる。
「だろ? リビングはもっと凄いぜ?」
「綺麗なお家ですね……」
アイルースは結構驚いている。
「リビングで話そうぜ」
全員入りリビングへと行こうとした時。
「ドレイク坊ちゃま!! マシュア君!!」
セイベルが慌ててやってきた。
「ただいま、セイベル。紹介するよ、うちの執事長のセイベルだ」
「初めましてお嬢様方、執事長のセイベルと申します」
整った礼をしてみせたセイベルに皆は感嘆する。
「坊ちゃま! 到着は明日では?」
「いいだろ? 早く着いて困る事なんて……」
「ありますよ!! おもてなしの準備が出来ておりません!!」
「気にしないって! 皆! こっち来てくれ!」
ズカズカとリビングに進んでいく俺。
「お嬢様方、お荷物を預かります」
「ありがとうございます!!」
リビングに着いて皆に紅茶とお菓子が振舞われる。
「やっと、ゆっくりできるな……」
俺はお菓子へと手を伸ばそうとした時……。
「レイ!! もう着いたのか!!」
今度は父さんが慌てて二階から降りてくる。
「ただいま! 早く着いたわ!」
「皆さんすみません……なんのおもてなしも出来ず……。家主のレナイゼルと申します、どうか寛いでいってください」
皆が苦笑いしている。
「父さん、紹介するよ。俺とマシュアの婚約者だ」
そうして軽い紹介をする。
「うちのバカ息子達がお世話になっています! これからも! どうかよろしくお願いします!」
バカ息子達ってなんだ?
あははーと笑うミュフィス達。
「母さんは?」
「エレナは今出かけていてな、夕方には戻るから夕飯は少し遅くなるぞ?」
「俺達で買い物に行って作ってもいいぞ?」
「いや、お客様に料理を作らせるなんて……」
「よければ私達が料理しますよ?」
ミュフィスが料理をすると言ってくれる。
「三人は母さんよりも料理上手いから任せろって!」
「エレナより? それは楽しみだが……本当に良いんですか?」
「はい! 手伝わせてください!!」
「レイ、マシュア、……いいお嫁さんを持ったな!!」
「だろ? メイルは料理できないけど……」
「私は味見を頑張ります!!」
「そうか……家族を持ったんだな、レイもマシュアも」
「レナイゼル様のおかげです……」
何か考え込むレナイゼル……。
「そうだ!! ちょっと待ってろ!」
父さんは二階へと戻っていった。
そしてすぐに戻ってきた。
「これを見てくれ!!」
ん?
そこには養子縁組の書類があった。
「おととい受理されたんだ! マシュアは正式に私達の息子になったんだ!!」
!!
「ほ、本当でしょうか?」
マシュアの声が震えている。
「本当だ! 見ろ!!」
マッシュアハ書類を受け取り端から端まで読む。
頬を涙が伝う。
「マシュア、これからは父さんと呼びなさい」
「レナイゼル様……!! いえ、お父さん!!」
父さんとマシュアは抱き合った。
それを俺達は拍手で迎える。
「じゃあ、俺の兄貴だな! 兄貴! これからもよろしく!」
「ああ! よろしく! レイ!」
「家族なんだ。なんでも頼れよ?」
父さんはそう言って兄貴と肩を組む。
「という事は……私たちがレイと結婚したらアイルースがお姉ちゃんに!!」
何かに気づいたようだ。
「レイ! お前も休暇中に婚姻届けくらい出していったらどうだ?」
「まだ向こうの両親に挨拶も済んでないのに……」
「私は了承済みっす!」
メイルは確かにグラドが許しているからオーケーか。
「私は報告は後でも良いかなー」
チラリと俺を見るライラ。
「私も!」
それに賛同するミュフィス。
「それならいいじゃねえか! どうだ? レイ!」
「じゃあ……婚姻届け出すか?」
三人へ確認する。
「うん!」
皆が返事をする。
「待ってろ! こんなこともあろうかと用意してあるんだ!!」
また二階へと戻っていく父さん。
「そっか、アイルースさんはマシュアと結婚したから義姉さんに……」
「よろしくね? ドレイク君」
「おう! 姉貴!」
ニカっと笑いちょっとだけ照れてしまう。
「これだ! ここにサインをしろ!」
父さんが急いで持ってきた婚姻届けに皆でサインをする。
「おお! 明日役所へ持っていこう!」
何故父さんが一番はしゃいでいるのか……嬉しいのは分かるが。
「いや、今日持っていこう」
!!
「確かに、全然間に合うな……走れ! レイ!」
「ああ! 行ってくるよ!!」
俺は書類を大切に持って役所へと走った。
バーセラル街の役所。
「すみませーん!!」
「はい? どうしましたか?」
「この書類をお願いします!」
書類には四人のサインと血判が押してある。
「ご領主様でしたか! はい! 確かに受理いたしました!!」
「よっしゃあああああ!!」
俺は一人でガッツポーズをする。
「ご結婚おめでとうございます!!」
「ありがとうございます!! では、妻が待っていますので!」
「はい!」
俺はまた走って帰宅する。
「提出してきたぞ!!」
「おー!!」
「はぁはぁっ、疲れた……」
「俺に娘が四人も……!! セイベル!」
「レナイゼル様……こんなにも嬉しい日はございません!!」
「ワインを開けるぞ!! 一番いいので頼む!!」
「かしこまりました……!!」
父さんとセイベルは号泣している。
でも、嬉しいみたいだからよかったな……母さんも喜んでくれるかな?




