第83話 自分
俺は修練場に一人でいた。
「まずは、獣化ができるようになっているかを確かめるか」
獣化とは魔族、獣人族が己の特性を解放する事だ。
「血がどうとか言っていたな……」
俺は意識を体内に集中させる。
……あれ?
特に何も変わらなかった。
「出血に関係しているのか?」
壁に立てかけている剣で指を少しだけ斬ってみる。
傷口から血が染み出て来た。
その痛みと血に集中をする。
……何も起きない。
「うーん、やり方そのものが間違っているのかも?」
「なんだ? 理科の実験か?」
声がした後ろを見るとディアス先輩が俺の肩越しに覗いていた。
「覗き見ですか?」
「俺に男を覗き見する趣味はねえよ」
無いないと手を振って否定する。
「獣化を試しているんですけど……」
「ドレイク、角はどうした?」
「今朝クラスチェンジしたら消えましたよ」
「へえ、何に?」
隠すようなことでもないのでディアス先輩にステータス紙を渡す。
「なるほどな……今のお前になら獣化の方法を教えてもいいかもな」
「知っているんですか?」
「お前、俺が何年騎士団にいると思っているんだ?」
「十年くらいですか?」
「いや、知ってるのかよ……じゃあ、白蛇のマスターから聞いててもおかしくはないだろ」
!!
確かにあのバーのマスターはずっと獣化状態を保っている。
そのため誰も素顔を見たことがないとか……。
「あの人はマーナガルムの傘下に入っている。そしてお前は戦神テュール」
「それで? どうしたらいいんですか?」
「戦神テュールに祈るんだよ、それが獣化のオンオフを切り替えるトリガーだ」
「祈る……確かに教会でテュール様へ祈ったら角が消えました」
「だろ? 見ててやるから試してみろよ」
俺は深呼吸をする。
そして……。
「戦神テュール様……私を導いてください……」
身体中が熱くなる、血が燃えているようだ。
メキメキと音を立てながら爪、角、牙、尾が現れた。
「お! 成功だな!」
「成功した……」
「気分はどうだ?」
「特に変わらないですよ」
「じゃあ、大丈夫そうだな」
俺はもう一度テュール様へ祈りを捧げて獣化を解除する。
「じゃあ、次は武器を生成して見ろよ」
「戦神テュール様の加護か……」
これは何となくだがイメージとして頭に浮かんでいる。
「戦神テュールよ……我に勝利を!」
すると魔剣テュールが右手に現れる。
「凄まじいな、その魔剣」
!!
「フラム副団長!」
「杖は作れないのか?」
「どうですかね? 魔力が持つか分かりませんが、試してみます」
もう一度祈る。
テュールの魔杖が出現する。
「ほう……」
フラム副団長へと魔杖を渡す。
少し観察した後、俺に杖を返した。
「杖とは元々魔法を行使するために、エルフ族の初代国王が神暦に創り出したと言われている。私は幼い頃にその現物を見たことがあるが、他の杖とは一線を画す代物だった」
杖の起源か……。
「このテュールの魔杖はそれと似ている」
!!
「まさに戦神が創り上げた、神話の武器という事だ」
「すげえ……」
そんな武器が生成可能に?
「持続時間が気になるな、引き続き検証してみろ」
「はい、ですが消えそうにもないんですよね……」
「マジ?」
ディアス先輩の目が光った気がした。
「先輩のクレイモアも造りますか?」
「おお! 頼む!」
もう一度、戦神テュール様へと祈る。
今度は魔剣が出現する。
「どうぞ」
ディアス先輩へとテュールの魔剣を渡す。
「すげえな……こんな剣見たことも聞いたこともねえぞ……」
「あれ……魔力が切れた……」
俺は魔力切れを起こして意識が遠のいた。
また夢を見た。
光の騎士が俺の前にいる。
「我は戦神テュール」
「テュール様……?」
「そうだ」
これが戦神テュール……。
「加護は気に入ったか?」
「はい、正直凄すぎて驚いています」
「一人の命を加護と引き換えた甲斐があったな」
「え……?」
「貴様が魔王上でメイルという娘を手にかけようとした時、その娘と取り引きをした」
「メイルと取り引き……?」
「私の傘下へと加わり、愛する者に殺される前に、命を加護に変えないかとな」
!!
「じゃ、じゃあ……」
「泣いて喜んでいたよ……自分の命はレイの為に捧げるっす、とな。戦神テュールの加護はメイルの生きた証だ」
「メイル……!!」
俺は自らの手でメイルの命を奪ってしまったと、ずっと悔やんでいた。
それに、最後のメイルの表情……涙に溢れた表情をしていたが……そうか……。
「メイルの墓も、エルンの街でグラドがメイルを拾った草原に移してある。帰ったら、行ってやると良い」
「ありがとう……!! 本当に! ありがとう!!」
「お礼はメイルにしてやると良い」
「そうか……分かったよ」
「ではな、我の傘下に入ってくれて感謝する」
「ああ! これからもよろしくな!」
意識が戻った。
「おい、大丈夫か? 変な夢でも見たか?」
訓練場には皆が集まってきていて、ミュフィスやライラ、ディアス先輩が俺を心配そうにのぞき込んでいた。
「ディアス先輩! 俺行くところあるんで訓練休みます!! ミュフィス! ライラ! 着いてきてくれ!!」
二人は?マークを浮かべながら俺の後についてくる。
「待て待て! 俺も行く!」
ディアス先輩も着いてきてくれるようだ。
「僕も行きます!! 先輩に何かあれば僕が守ります!!」
刀刃も来てくれるようだ。
「私も行こう」
!!
フラム副団長……!!
「皆! ありがとう! じゃあ行こう!」
そうして俺は早速、メイルの墓へと向かうのであった。




